眠れぬ公爵と黒兎。

結城

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彼には名前など無かった。

そして、生まれた時から他の真っ白な兄弟と
は違い、闇を呑み込むかのような真っ黒な毛と目を持っていた。
両親からは不吉だ。不気味だ。と言われ、村の者からは悪魔と言われた。
呼ばれるときは、「おい、そこの黒いの。」とだけ呼ばれた。
そして生まれて12年、初めて両親と村を出た先は、奴隷商だった。

「黒いウサギ族か~、まぁ珍しいが、売れるか?不気味がって誰も買わないだろうさ。」

黒を持つものは魔物と闇、そして特別魔力の高い者だけだった。
ウサギ族は獣人だから、もちろん魔力など使えない。だから彼はただの魔物だった。
黒を特別忌み嫌うこの国では、珍しい者ならなんでも買うという奴隷商でさえ、彼を不気味がった。

「そこをなんとか」と両親は頼み込んで、黒兎はたったの10リルで売られた。
貧しいウサギ村で子供達がもらえるお小遣いとそんなに変わらない金額だった。

「お前、ことば。喋れんのか?つか男?女?」

「オス。です…」

「あ、そか。ウサギ族じゃ雄雌っていうんだよな。すまんすまん。いいとこに買われるといいな。」

奴隷商の人が何を言っているかは、あまり人と話したことのない彼には分からなかったが、彼が自分を哀れに思っているのだけは、目を見ればわかった。

かわいそう。っていう目、してる。

「クロ、かわいそう?」

「お前、クロっていうのか?まぁかわいそうだな。」

「わかった。」

自分はかわいそう。
今日初めて覚えたことだった。


奴隷商での暮らしは快適だった。
毎日ほんの少しだけど、何もしなくてもご飯は出てくるし、騒がなければ理不尽に叩かれることもない。

むしろ村での生活に比べたら、ここは天国のようなところだった。


ある日、彼の前に一人の男が現れた。
檻の中を覗き込む姿は逆光でよく見えなかったけれど、お洋服が真っ黒で、自分の髪の毛によく似ているのだけはわかった。

「黒兎か?」
「はい、オスの、確か12歳くらいだったような…。1ヶ月前に、不吉だと両親から売られましてね、黒いということ以外は健康ですし、まぁかなり痩せ細ってますけどいい状態ではありますね。」

「じゃあこいつをたのむ。」
「かしこまりました」

「クロ、お前買われたぞ。よかったな。」

彼は誰かに買われたらしい。
奴隷商がにこにこしていたから、すごく嬉しかったんだと思う。

そのまま首と手足に付けられていた鎖は取られて、首に黒い革を巻かれた。
話の流れから、「ちょーかー」というものみたいだ。

「逃げたらそれが締まるからな。逃げるなよ」

彼女は勢いよく頷いた。
逃げるわけない。
もう自分のお家もないし、どこに逃げるって聞かれても、迷わず答えられる自信がない。

落ち着いた大人の人の声が上からしたけど、さっきと同じように逆光で顔は見えなかった。



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