眠れぬ公爵と黒兎。

結城

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今まで見たこともないほど大きくて綺麗な馬車に乗せられて、初めて男の人の顔を見た。
黒髪の、綺麗なかおの男の人だった。
その人はずっと私の手を握っていて、たまにお菓子をくれる。

食べ物をくれる人は、いい人だ。
村でもたまにかわいそうに。と言って食べ物をくれてた優しいおばちゃんがいた。
おばちゃん、元気かなぁ、

人生で初めて食べる甘いものは、びっくりするほど美味しかった。
村ではいつも兄弟たちの残したものばかり食べていて、甘いものなんて食べたことがなかったから、こんなに美味しいものばっかり食べたら地獄に落ちちゃうかもしれない。

馬車に乗せられて長いこと揺られると、突然大きなお城の前で止まった。

「おお、きい」

首が疲れそうなほど上を向いて、やっとお城の一番上が見えるくらいに大きかった。

お城の大きな扉が開くと、中から真っ白な髭のおじいちゃんが出てきた。

「エドワード、この子を風呂に入れてやってくれ。全て済んだら部屋に連れてこい。」

「仰せのままに。旦那様。」

白いひげのおじいちゃんは、男の人に頭を下げて、おじぎをしていた。
それから私はおじいちゃんに手を引かれて、おっきな白いもわもわがたくさん出ているところに連れてこられた。

「ひげのおじいちゃん、ここ、なにするところ?」

「エドワードとおよびください。
ここで、お嬢様の体を清めるのですよ。」

「エドワード。さん。おじょうさま。きよめる。?」

「はい。じっとしていてくださいね。おっと、お嬢様じゃなかったのですね。」

言われた通りにじっとしていると、あったかい水をかけられて、頭からつま先まで白いモコモコにされた。

目を閉じて。って言われて、言われた通りに閉じるとあったかいお水がかけられる。

さっぱりきれいになった彼は幸せだった。

いつも絡まっていた黒い髪の毛はさらさらだし、フケも出ない。
きれいになったつるつるの体からは、今まで嗅いだことも無いようないい匂いがしていた。

「…ふぅ。」

なんだか疲れてしまった。

気づいたら真っ白のお洋服を着せられてエドワードさんと手を繋いで歩いていた。

大きな扉の前でエドワードさんが止まって、
コンコンって扉をたたいた。

「旦那様。エドワードです。」

「入れ。」

ガチャっと扉が開くと、黒い男の人がこっちを睨んだ。

「…ひっ」

喉から変な声が出た。
反射的にエドワードさんの手を振り払って頭を地面に擦り付ける。

「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。」

暫くそうしていると、急に抱き上げられて、目の前には真っ黒な目と綺麗な顔があった。
真っ黒な目は見たことがない。
鏡も見たことがない彼にとって、その暗い色の目は、魔力を含んだかのような色をしていた。

「…きれい」

思わず手を伸ばすと、目の前の人の口角が上がった。

「俺はエリクだ。お前…名前は?」

「……えっと、…クロ」

「それは多分名前じゃないな。今日からお前は、リラだ。わかったな?リラ」

「は、はい。」

リラ…。僕の名前は、リラ。

初めて名前を呼ばれて、
リラの胸に、あたたかいものがひろがった。


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