神堕ちのランドスケープ ～魔王の第２王女は澱みなく～

第5話 「禁断の神殿へ」

風が強く吹いている中、エスデスとレオンは荒れ地を進んでいた。
足下には乾いた土があり、砂塵が舞っていた。遠くには不規則な岩山が立ちはだかり、その向こうには『禁断の神殿』の姿が見え隠れしていた。

レオンの瞳は太陽の光でキラキラと輝きながら、エスデスを見て微笑んだ。
「ちょっと遠回りになるけど、あちらの森を通る方が、安全だよ。」
彼の言葉に、エスデスは感謝の気持ちで頷いた。

その森は、不思議な青みがかった樹木で溢れていた。光が間もなく樹木の間から差し込み、道を照らしてくれた。
エスデスのスカートは風に舞い、レオンの髪は微かに後ろに流れた。

進むうちに、エスデスは奇妙な彫像を発見した。彫像は、神のイラストと似ている顔をしており、その周りには古い言葉で何かが刻まれていた。
彼女は彫像に触れ、古代の魔法の力を感じた。

「これは…神殿の守護者だね」とレオンが言った。

彫像の言葉は、神殿への警告として存在していたのだ。

二人がさらに奥へと進むと、途中で小さな湖を見つけた。湖の水面は鏡のように静かで、その中には天空や森の景色が映し出されていた。エスデスは湖の縁に座り、その冷たさを感じながら水面に手を浸けた。

「この湖、何か特別な力を持っているのかしら？」
エスデスが不安げに問うと、レオンは

「この湖は、昔から神殿への道の途中にあると言われている。いくつかの伝説によると、湖の底には神の涙が溜まっているとも言われているよ」と答えた。

夜が近づく中、エスデスとレオンは湖畔で休憩を取ることに決めた。星空が湖面に反射しており、その景色は幻想的だった。エスデスはレオンに寄りかかりながら、夜の静けさを楽しんでいた。

しかし、その静寂は長く続かなかった。遠くの方から、何か大きな音が聞こえてきた。

それは、神殿への挑戦者たちが出現したことを示していた。

遠くの音は次第に近づいてきて、その振動がエスデスとレオンの足元にも伝わってきた。
レオンは瞬時に身を構え、湖の向こう岸に目を向けた。
薄明るい星の光の中で、影がゆっくりと湖畔へと接近してきた。それは獣のような姿をしたもので、黒い鎧をまとい、赤い目が暗闇の中で光っていた。

「エスデス、これは神殿の試練かもしれない。」
レオンは魔法の剣を手にし、その先端が青く輝き始めた。

エスデスも立ち上がり、魔杖を構えた。
湖の水面は、その戦いの舞台として準備されているかのように、静かに微動だにしなかった。

獣は突如、高い声で鳴きながら二人に襲い掛かってきた。その動きは素早く、水しぶきを上げながら湖を飛び越えてきた。

レオンは魔法の剣を振るい、青い炎の壁を獣の前に作り上げた。獣はその炎に触れ、一瞬のうちに後退した。しかし、すぐに再び攻撃を仕掛けてきた。

「この獣、通常の魔法では効かないのか…？」

エスデスは考えながら、魔杖を振り回して獣の攻撃を防ぐことに専念した。

攻撃に移ることさえ出来ない程の獣の圧力。
徐々に獣の力に押されはじめる。腕がしびれ始めた。

その時、レオンが
「エスデス、彫像の言葉を思い出して！神殿の守護者の力を借りるんだ！」と叫んだ。

エスデスは彫像の言葉を思い出し、心の中で唱えた。突如、彼女の体の周りに金色の光が纏わり、その光は獣に向かって放たれた。獣は光に包まれ、その場で消えてなくなった。

息を整えながら、エスデスはレオンに感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、レオン。あなたがいなかったら、私はあの獣に勝てなかった。」

レオンはにっこりと笑い、
「いや、僕の方こそ。」と答えた。

そして二人は再び、禁断の神殿へと向かう旅を続けた。