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第1章 監獄の住人1-16
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しおりを挟むここは大英帝国、
アン女王の逝去によりドイツからやってきた
ハノーファ朝の支配する。
7つの海の支配者の大英帝国である。
植民地からの大量に安く流入する物資で、
急激に工業化が進み
世界で唯一、産業革命を起こした超大国である。
首都ロンドンから紡績の都市マンチェスターへ続く主要路は
この季節には珍しく、雪にもならず、かといって雨ともいえない
すさまじい勢いで降り続くもので覆われていた。
道路は降り続くものでぬかるみ、
路行くものすべてが足を取られ、
ゆったりとした勢いで動いていた。
背中に荷物を背負い何かに打たれながら、
ゆっくりと歩く農民、荷馬車に油を塗った麻の布をかけて、
商品の綿製品を首都ロンドンまで運んでいく行商人、
多くの荷物を載せた馬車は
ぬかるみにはまり立ち往生していた。
そんな中、時折鳴り響く雷鳴が、
王侯が乗るような豪華に仕立てられ、
磨き上げられた馬車を光に包み、輝かせていた。
誰が乗っているのかは窺い知れないが、
装飾過剰ともいえるその馬車は
4頭だてであり、馬も筋骨隆々とした4歳から5歳の牡馬だ。
ただ、その馬車は、周囲のぬかるみやゆったりと流れる人々を
無視するように、猛然と、信じられない速度で走っていた。
「くそやろう、あぶねえだろ。」
粗忽な農民の一人が怒りに身を任せて、
もっているたまねぎを馬車の窓に投げつけた。
どんっ、鈍く大きな音がする、窓に何かがぶつかったのだろう、
彼は少し気はとられたが、また思考に没頭し始めた。
首都ロンドンを出発したのは3日前であり、
本来はもうとっくに、到着していなければならない。
主人のハッペンハイム卿からの厳命であり、
是非も無かった。何の具体的な内容もなく、
ただ、「行け。」と言われたのだ。
しかし、一昨日の夜から降り出し、あたりを漂う、これによって
到着は当初の予定を大幅に遅れていた。
「せめて、こんな豪華な馬車でなければ、気も楽だったのだが。」
彼はそういうと深くため息をついた。
ふかふかの高級なソファーのようなすわり心地、壁には銀の柱と
絹のカーテン、窓はガラス張りだ。室内も暖かい。
乗客は自分ひとり、
誰も見ていないので、道中は寝ていた。
体は軽く元気なのだが、心は重い。
ハノーファ朝の大英帝国を、
実質的に支配し統治している、
彼の主人、ホーフユーゲン(宮廷ユダヤ人)
モーセス・オッペンハイムですら、
その言葉に責任をもてないが故の処置、
待ち合わせの人物はさぞかし、大物だろう。
こんな馬車を用意するくらいだ。
言外に、「時間を守れ。」との含みだろう。
まだ少年とも言える年齢ではあるが、かなり頭が回るだけに
その意味が理解できてつらい。
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