産業創世記 ギデオン(休載中)

初書 ミタ

文字の大きさ
12 / 61
第1章 監獄の住人1-16

12

しおりを挟む


16世紀初頭 ポルトガルにて

「アーニャの夢は何?」



いつ誰にかはわからないが、友人だろうか、聞かれた。

幼いアーニャがどう答えたのか。

今でもはっきり覚えている。


当時、イベリア半島に住むユダヤ人には2種類いた。

ヨーロッパ北中部に住んでいる、言葉の通じない、

ユダヤ人と名乗ってはいるが、その大半は

乞食、物乞い、ゴミ拾い、何とでも形容できるが、

家畜や奴隷以下の扱いをされるものたち。



対して、アフリカ北部とヨーロッパ南岸の地中海沿いに住むもの

アーニャのようにポルトガル王家に帰属する大貴族、

表向きはキリスト教徒を名乗っているが、

誰が見ても、ユダヤ教徒でユダヤ人だ。

褐色の肌で、アラム種のため、見てすぐに判別できる。

ユダヤ人でなければ、イスラム教徒にしか見えない。



十字軍以降、迫害されてきた白人系ユダヤ人がどこから来たかは知らない。

両親も迫害される白人系ユダヤ人を支援する気はあるのだが、

あまりにも文化が違いすぎる。言葉もまともに通じるものが少ない。

大半のセファルディムのユダヤ人は、イスラムを盟友と考えているが、

白人系ユダヤ人にイスラムを友と思うものはほぼいない。




同じユダヤ人にも、戒律を守らず、法も守らないため、冷遇するものも多い。

周囲にキリスト教徒ばかりがいる環境で、そのような思想習慣を持つことは

確かに危険だ。拷問や密告、彼らは疑心暗鬼のあまり、

少し狂った人々だと、アーニャですら思わざるを得なかった。

だが、同じユダヤ人、救うべき者達、好くべき者達だ。


アーニャは元気に答えた。



「みんなをパン屋さんにすることゾ。」




キリスト教社会ではユダヤ人の多くが差別迫害され、

パン屋どころか、靴磨きにすらなれない。

ユダヤ人はみんなそれを知っていた。

まだ幼い、アーニャのような子供でも。



それを聞いたキリスト教徒の友人、

正確にはキリスト教貴族の友人が言った。





「アーニャは馬鹿だなぁ。パンなんて

お皿にいくらでもでてくるじゃないか。」






「うちの使用人が作ってるぜ。

いつでも雇ってやるよ。」





周囲の子供には理解されない。

アーニャは一人さびしく空を見上げるのだった。

アーニャが馬車から降りて家に着くと、父がイライラしていた。


「カーッ、またへまをやらかしおって。」


最近とみに怒りっぽくなったオスマン領で大商人をする、

父は従者のメンデスを叱っていた。

何をしたかは知らないが、申し訳なさそうに謝罪するメンデス。


後世の歴史では、メンデス家は香辛料を扱う新キリスト教徒で

フッガーと比肩する大富豪といわれているが、

実際にはそれは少し違う。


スルタンの侍従医、王の侍従医、ユダヤ人の名門に侍従医がやたらと多いが


侍従医は現在での、王専用のCIA長官のようなものだ。

仮にキリスト教徒の諜報をキリスト教徒にやらせたとしよう、

キリスト教徒に情報は漏れるし、イスラム教国にコネなど作れない。

少なくとも十字軍以降のイスラム教徒のキリスト教徒恐怖はすさまじく

見つけたら殺せ、内通者は拷問以上の極刑だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

後の祭り 

ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
 母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...