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第1章 監獄の住人1-16
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しおりを挟む16世紀初頭 ポルトガルにて
「アーニャの夢は何?」
いつ誰にかはわからないが、友人だろうか、聞かれた。
幼いアーニャがどう答えたのか。
今でもはっきり覚えている。
当時、イベリア半島に住むユダヤ人には2種類いた。
ヨーロッパ北中部に住んでいる、言葉の通じない、
ユダヤ人と名乗ってはいるが、その大半は
乞食、物乞い、ゴミ拾い、何とでも形容できるが、
家畜や奴隷以下の扱いをされるものたち。
対して、アフリカ北部とヨーロッパ南岸の地中海沿いに住むもの
アーニャのようにポルトガル王家に帰属する大貴族、
表向きはキリスト教徒を名乗っているが、
誰が見ても、ユダヤ教徒でユダヤ人だ。
褐色の肌で、アラム種のため、見てすぐに判別できる。
ユダヤ人でなければ、イスラム教徒にしか見えない。
十字軍以降、迫害されてきた白人系ユダヤ人がどこから来たかは知らない。
両親も迫害される白人系ユダヤ人を支援する気はあるのだが、
あまりにも文化が違いすぎる。言葉もまともに通じるものが少ない。
大半のセファルディムのユダヤ人は、イスラムを盟友と考えているが、
白人系ユダヤ人にイスラムを友と思うものはほぼいない。
同じユダヤ人にも、戒律を守らず、法も守らないため、冷遇するものも多い。
周囲にキリスト教徒ばかりがいる環境で、そのような思想習慣を持つことは
確かに危険だ。拷問や密告、彼らは疑心暗鬼のあまり、
少し狂った人々だと、アーニャですら思わざるを得なかった。
だが、同じユダヤ人、救うべき者達、好くべき者達だ。
アーニャは元気に答えた。
「みんなをパン屋さんにすることゾ。」
キリスト教社会ではユダヤ人の多くが差別迫害され、
パン屋どころか、靴磨きにすらなれない。
ユダヤ人はみんなそれを知っていた。
まだ幼い、アーニャのような子供でも。
それを聞いたキリスト教徒の友人、
正確にはキリスト教貴族の友人が言った。
「アーニャは馬鹿だなぁ。パンなんて
お皿にいくらでもでてくるじゃないか。」
「うちの使用人が作ってるぜ。
いつでも雇ってやるよ。」
周囲の子供には理解されない。
アーニャは一人さびしく空を見上げるのだった。
アーニャが馬車から降りて家に着くと、父がイライラしていた。
「カーッ、またへまをやらかしおって。」
最近とみに怒りっぽくなったオスマン領で大商人をする、
父は従者のメンデスを叱っていた。
何をしたかは知らないが、申し訳なさそうに謝罪するメンデス。
後世の歴史では、メンデス家は香辛料を扱う新キリスト教徒で
フッガーと比肩する大富豪といわれているが、
実際にはそれは少し違う。
スルタンの侍従医、王の侍従医、ユダヤ人の名門に侍従医がやたらと多いが
侍従医は現在での、王専用のCIA長官のようなものだ。
仮にキリスト教徒の諜報をキリスト教徒にやらせたとしよう、
キリスト教徒に情報は漏れるし、イスラム教国にコネなど作れない。
少なくとも十字軍以降のイスラム教徒のキリスト教徒恐怖はすさまじく
見つけたら殺せ、内通者は拷問以上の極刑だ。
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