BLACK DiVA

宵衣子

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14.來之衛の転機

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これは照幸と紅葉が來之衛に出会った時の話。

ある日、照幸と紅葉がランカーの任務の帰路についていると道端に倒れ込む男の人がいた。
至る所に傷があり、中でもお腹の傷は深いようでその顔は真っ青だった。

「照幸っ!!大変!!」

「とりあえず手当しよう」

照幸と紅葉は倒れ込む男の応急手当をすると照幸と紅葉が所属しているランカーギルドお抱えの病院へと運んだのだった。
それから3日後に彼は目覚めた。

「…っつ!!」

ガバッと起き上がっては痛みに顔を歪めまたベッドに沈む。

「…ここは?」

掠れる声でそう問いかけると傍らにいた赤い髪の少女が彼の問い掛けに応えてくれた。

「ここはランカーギルドお抱えの病院だよ…3日前道端に倒れていたのを保護したの。お腹の傷…結構深いからあまり動かない方がいいよ」

「………そっか」

「私は紅葉。あなたは?」

「來之衛」

「どうしてあんな所で倒れてたの?」

「それは………あんたに関係ない」

そう一言、言われ表情もあまり変わらない事から紅葉はこの人は無愛想な人なのだなと思った。
そんなことを思っていると照幸がやってきた。

「あ、目覚めたんだね…命には別状はないからしばらく安静にするようにって医師が言っていたよ」

照幸は爽やかに笑顔を浮かべた。

「俺は照幸。ランカーなんだ。ねぇ、君名前は?」

「來之衛…」

「行く宛てあるの?良かったらランカーにならない?」

ハンターとは犯罪以外なら依頼があれば何でもする何でも屋みたいなもので、仕事内容は様々、報酬もピンからキリまであり、ランカーはランカーギルドを通じて登録する。そこで貰えるランカーライセンスは身元の証明にもなるため便利だ。経験を積みランクが上がっていけば様々な権限を手にすることも出来る。それこそ一般人が行けない場所や公開されない情報なども一部見られるようになったりするのだ。

照幸の勧誘に來之衛は考え込む。
確かに行く宛なんてない。しかし自分にはどうしても成し遂げたい事がある。今のままでは到底叶わないだろうが…。彼らと共に行動していればもしかしたらチャンスが舞い込んでくるかもしれない。暫くお世話になるのが良さそうだと思った。

「なる…」

「お!やった!!勧誘成功」

來之衛の言葉を聞いた瞬間、照幸の顔はパァっと明るくなったのだった。
そんな照幸を見ながら紅葉もつられて笑う。

「ふふ、なるって言っちゃったね。照幸は仕事人だから色んなところ連れ回されるよ」

そんな紅葉の言葉に、來之衛が微笑した。
初めて表情が変化したので紅葉は驚く。

「それは…楽しそうだ」

この時、來之衛がどうして微笑していたのかは分からない。でも彼にとって嫌な誘いでは無かったのだと紅葉は思って安心した。
來之衛は彼らを自分の目的を達成するための踏み台にくらいしか思って無かったのだろうが…。
それが3人の出会いだった。
後日、來之衛の身体が回復した頃にギルドに行ってハンター登録を済ませた。
軽い審査の後、ライセンスが端末に送られてきた。送られてきたライセンスにはシルバーと書かれている。
横にいた照幸が驚いたような顔をする。

「さすが、アンノウンはランクが高いね」

「そうなの?」

「うん。最初からシルバーなんてあまりないよ。」

「ふーん…」

アンノウンは特別な能力があるので初めからランクが高い場合がある。その能力の種類にもよるが…。

「來之衛はブロンズ~シルバーまでの依頼が受けられるんだよ」

「最高ランクは?」

「マスターだよ」

「へぇ~」

「ちなみに俺と紅葉もシルバー」

一緒だな!と照幸はにっと笑った。
それから照幸、紅葉、來之衛はよく3人で依頼を受けた。ランクがゴールドに上がった頃からか來之衛は良く1人で行動するようになった。
そんなある日の夜。紅葉はたまたま街で來之衛を見つけた。なんとなく気になって後をつけるとどんどん人気のない所に向かっていく。そうしてとある路地裏で來之衛と誰かが会っていた。紅葉は息を殺して隠れる。

「(赤い瞳のタトゥ………!!!)」

來之衛が会っているのは腕に赤い瞳のタトゥがはいった男だった。紅葉はそのタトゥに見覚えがあった。それは窃盗から殺人まで何でもやる組織、レッドアイのマークだったのだ。

「(どうして…そんな組織とっ?!)」

來之衛とその男が何を話しているかは聞こえない。
これ以上近づけば來之衛に後をつけている事がバレてしまうだろう。今もギリギリの距離だ。
そうこうしてる間に話し終わったのかレッドアイの男は消えて來之衛だけが残った。その後ろ姿はこのままどこかへ行ってしまうのでは無いかという不安を紅葉に思わせる。
この場を後にしようと來之衛が踵を返した時、思わず紅葉は彼の前に姿を現した。

「來之衛!」

「紅葉…?どうしたの?」

「どこに…行くのかなって」

「…ん?家に帰るよ」

「……そっか…」

いたっていつも通りの來之衛。レッドアイの男と話していたというのに、それを紅葉に見られていたかもしれないのに彼の普段と変わらない様子に紅葉の不安はさらに高まる。紅葉の横を來之衛は通り過ぎていく。

「レッドアイ…」

思わず紅葉が口にした言葉に來之衛は立ち止まる。

「だよね…あの男の人。私見ちゃったよ。」

「………」

「行かないよね?レッドアイの所になんて」

紅葉が感じていた不安。
それは來之衛がレッドアイの組織に入ろうとしているのでは無いかという不安だった。

「紅葉に関係ないよ」

「あるよ!!だって私は…來之衛の仲間だもの!!」

「………」

「どうしても行くというのなら…私も連れて行って」

「正気なの?」

紅葉の予感は当たっていたようだ。
來之衛はレッドアイの元へ行く事を否定しなかった。今までずっと來之衛が仲間になってから時折見せる哀しげな表情が頭から離れなかった。しかし來之衛は自分の事をあまり話してくれない。聞いてもいつもはぐらかされてしまうのだ。でもこれだけは分かっていた。來之衛を1人にしてはいけないと。

「正気だよ」

「馬鹿だね」

そう言い残すと來之衛はふっと消えた。
もちろん來之衛に紅葉を連れていこうなんて気持ちは更々ない。実は來之衛がレッドアイと接触するのはこれが初めてでは無い。歌姫、黒蝶のコンサート会場での任務はレッドアイに入るためにレッドアイ側から出された試験のようなものだった。それを紅葉に少し手伝ってはもらったが、彼女に任務の全容は伝えていなかった。正式にレッドアイの一員になったのだ、もう二度と彼女を巻き込むことは無いだろう。
來之衛はビルの屋上から夜景を眺めていた。
街の交差点、中央にあるビルの大きなモニターには歌姫、黒蝶が映し出されている。
來之衛はそのモニターを眺めながらレッドアイのタトゥがある首筋に触れる。タトゥを隠すために貼っていたテープを剥がし捨てた。
もう一方の首筋にある昔の傷跡がズキリと傷んだ気がした。

「もう後戻りはできない」

まるで自分に言い聞かせるように來之衛は呟いたのだった。
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