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23.昔のお話し
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昔、昔…この星には艶やかな漆黒の髪に、透き通る様に白い肌を持ち、言霊を操る種族が平和に暮らしていました。しかしその平和は意図も容易く、無惨にも奪われていくのです。
その日は突然訪れました。この星ではない違う星から移り住んできた人間に、その種族は土地を奪われ、命を奪われ蹂躙されて行ったのです。
移り住んできた人間に対抗するために男達は応戦しました。
しかし、数では圧倒的に移り住んできた人間の方が多かったためあっという間に殺されてしまいました。大人の男達は全て殺され、次第に女子供も殺されて行きました。言霊を使いながら応戦する女達、逃げる女達、そんな様子を見て移り住んできた人間達は彼女達をBLACKDiVAと呼びました。
次第にBLACKDiVAの数は減っていき…そして現在では数える程しか居なくなってしまいました。
「現在、確認されているBLACKDiVAは…舞衣と他国にもう1人…とそして…」
玲音は琴子を真っ直ぐ見つめる。
「琴子…お前だ」
「え???私???」
玲音の言葉に琴子と伊咲凪が驚いたような顔をする。伊咲凪は動揺をしている。
「ちょっと待ってくれ…彼女はBLACKDiVAの容姿をしていない…」
現在、玲音達は居酒屋の個室にいる。
「実は…琴子は…」
そう言って玲音は伊咲凪に言ってもいいか?と琴子に目で訴えてくる。伊咲凪はナイトだし、玲音からも信頼されているようだから安心できると琴子は頷いた。
「黒蝶なんだ…ユニークアイテムで容姿を変えている」
琴子は赤いリボンを外した。
すると銀色の髪は漆黒に、瞳の色もブルーから漆黒へと変わった。
「まじか…」
伊咲凪は更に動揺した。それからいつも通りの冷静な顔に戻る。
「この事は誰にも言わないから安心してくれ。しかし、黒蝶はBLACKDiVAでは無いとされていなかったか?」
「されていた…な。でも現に琴子は言霊を操っている。恐らく、BLACKDiVAの血筋なんだと思う」
「私が…BLACKDiVA…」
琴子は初めてそんな事実を知った。
いまいち自覚は出ないが、頭の片隅には入れておこうと思うのだった。
「それから今回、舞衣を襲ってきたのは黒の教団と呼ばれる組織でBLACKDiVAの保護と繁殖を目的としている…と言っていたが、舞衣を連れていこうと強行突破しようとした事からかなり過激な組織だと思われる。そんな組織に正体がバレたかも知れないんだ、これから琴子は身の回りに気をつけるように…何かあったらすぐに俺を呼んで」
「はい」
「それから舞衣の事だったな…」
そう言って玲音は舞衣の事を話し出した。
それは玲音達がまだ子供だった頃。いつもの様に玲音、伊咲凪、舞衣は家の近くの公園で遊んでいた。
すると舞衣が突然、声が聞こえる…と言い始めたのだ。
「声が聞こえる……こっち」
まるで誘われるかの様に舞衣は歩き始めた。そんな舞衣に2人は不思議そうにしながらも着いていく。
気付けば街から出て、小さな森に入り込んでいた。
舞衣は目的地が分かっているのか迷い無く足を進めていく。
「舞衣…」
伊咲凪がもう帰ろうと言う意味を込めて舞衣の名を呼ぶも、そんなのお構い無しに舞衣は歩き続ける。
「なんか舞衣の様子、変だね」
玲音が困惑したように呟いた。
伊咲凪も同じく困惑していた。まるで何かに誘導されているかのようで…底知れない不安があった。
「ここ…」
そうして着いた場所は真っ赤な彼岸花が咲く丘だった。
「こんな所に彼岸花?」
玲音が辺りを見渡すと、彼岸花が咲き誇るその中央に粗末な大きな石があった。
「……墓なのか?」
伊咲凪が呟く。その石にはなにやら字の様なものが彫られていたが初めて見る字体だったので読む事が出来なかった。舞衣は彼岸花になんて目もくれずその石の前で立ち止まる。
「…そう、そうなの……」
まるで誰かと話をしているかのような舞衣。その瞳はどこか虚ろだった。
「酷い……そんな事が………そうなのね。貴方は………私達の女王様…」
いつもとまるで違う様子の舞衣に玲音も伊咲凪も不安になる。
「なぁ、舞衣!!もう帰ろう」
堪らず玲音が声を上げる。伊咲凪も舞衣の名前を呼ぶと腕をひこうとする。しかしそんな伊咲凪を舞衣は振り払い、そうしてやはりうつろな瞳で真っ赤な彼岸花の花畑の真ん中にある石を見つめている。
「あぁ…何て可哀想な私達の女王様…」
その虚ろな瞳からは涙が流れていた。
「ヤエカ様…」
舞衣はそう呟いた後そのまま気を失ってしまった。
しん、と静まり返るその場に真っ赤に咲き誇る彼岸花が不気味で玲音と伊咲凪はぶるりと震えると気を失った舞衣を抱いて森から離れたのだった。
「その後からだった…時々舞衣の様子がおかしくなったのは…」
時折、暗く憎しみを孕んだ目をしていたり、誰かが苦しむのを見て冷酷に笑っていたり…今までの舞衣からは想像が出来ないような表情をみせるようになった。まるで別人かのようだった。
伊咲凪は思い返す様にうつむき加減になる。
それから数年がたったある日。
舞衣は玲音と伊咲凪を学校の屋上に呼び出した。
「あのね…2人に話したい事があるの。」
神妙な面持ちで舞衣は自分の胸に手を当てる。
そんな舞衣の様子に玲音と伊咲凪も真剣な表情になる。
「私の中にもう1人の誰かがいるの。その人は私の…BLACKDiVAの…女王様。」
舞衣のその言葉に玲音は何言ってるんだとでも言うように軽く笑う。
「何言ってんだよ?冗談だろ??」
笑う玲音を舞衣は真っ直ぐに見つめた。
その瞳は冗談を言っているようには見えなかった。
「時折、お前が見せる…別人みたいな表情は舞衣の中にいる女王のものなのか?」
伊咲凪の問いかけに舞衣は頷く。
「そうだよ…彼女は人間を憎んでいる。辛くて、悲しくて、どうすることも出来なくて憎悪だけが募って…彼女は壊れてしまったの。」
彼女は昔はとても慈悲深く優しい女王様だった。
移り住んできた人間に蹂躙され壊れてしまった。
「何もかも壊してしまいたい…それが彼女の望み。」
舞衣は苦しそうに顔を歪めた。
「もし…女王様に私が乗っ取られてしまったら……人々を殺し、全てを破壊してしまうと思うの。」
だからね…と続ける。
「2人にお願いがあるの。もし…私が私がじゃ無くなってしまったら私を………殺してね」
そう言って舞衣は悲しげに微笑んだ。
その日は突然訪れました。この星ではない違う星から移り住んできた人間に、その種族は土地を奪われ、命を奪われ蹂躙されて行ったのです。
移り住んできた人間に対抗するために男達は応戦しました。
しかし、数では圧倒的に移り住んできた人間の方が多かったためあっという間に殺されてしまいました。大人の男達は全て殺され、次第に女子供も殺されて行きました。言霊を使いながら応戦する女達、逃げる女達、そんな様子を見て移り住んできた人間達は彼女達をBLACKDiVAと呼びました。
次第にBLACKDiVAの数は減っていき…そして現在では数える程しか居なくなってしまいました。
「現在、確認されているBLACKDiVAは…舞衣と他国にもう1人…とそして…」
玲音は琴子を真っ直ぐ見つめる。
「琴子…お前だ」
「え???私???」
玲音の言葉に琴子と伊咲凪が驚いたような顔をする。伊咲凪は動揺をしている。
「ちょっと待ってくれ…彼女はBLACKDiVAの容姿をしていない…」
現在、玲音達は居酒屋の個室にいる。
「実は…琴子は…」
そう言って玲音は伊咲凪に言ってもいいか?と琴子に目で訴えてくる。伊咲凪はナイトだし、玲音からも信頼されているようだから安心できると琴子は頷いた。
「黒蝶なんだ…ユニークアイテムで容姿を変えている」
琴子は赤いリボンを外した。
すると銀色の髪は漆黒に、瞳の色もブルーから漆黒へと変わった。
「まじか…」
伊咲凪は更に動揺した。それからいつも通りの冷静な顔に戻る。
「この事は誰にも言わないから安心してくれ。しかし、黒蝶はBLACKDiVAでは無いとされていなかったか?」
「されていた…な。でも現に琴子は言霊を操っている。恐らく、BLACKDiVAの血筋なんだと思う」
「私が…BLACKDiVA…」
琴子は初めてそんな事実を知った。
いまいち自覚は出ないが、頭の片隅には入れておこうと思うのだった。
「それから今回、舞衣を襲ってきたのは黒の教団と呼ばれる組織でBLACKDiVAの保護と繁殖を目的としている…と言っていたが、舞衣を連れていこうと強行突破しようとした事からかなり過激な組織だと思われる。そんな組織に正体がバレたかも知れないんだ、これから琴子は身の回りに気をつけるように…何かあったらすぐに俺を呼んで」
「はい」
「それから舞衣の事だったな…」
そう言って玲音は舞衣の事を話し出した。
それは玲音達がまだ子供だった頃。いつもの様に玲音、伊咲凪、舞衣は家の近くの公園で遊んでいた。
すると舞衣が突然、声が聞こえる…と言い始めたのだ。
「声が聞こえる……こっち」
まるで誘われるかの様に舞衣は歩き始めた。そんな舞衣に2人は不思議そうにしながらも着いていく。
気付けば街から出て、小さな森に入り込んでいた。
舞衣は目的地が分かっているのか迷い無く足を進めていく。
「舞衣…」
伊咲凪がもう帰ろうと言う意味を込めて舞衣の名を呼ぶも、そんなのお構い無しに舞衣は歩き続ける。
「なんか舞衣の様子、変だね」
玲音が困惑したように呟いた。
伊咲凪も同じく困惑していた。まるで何かに誘導されているかのようで…底知れない不安があった。
「ここ…」
そうして着いた場所は真っ赤な彼岸花が咲く丘だった。
「こんな所に彼岸花?」
玲音が辺りを見渡すと、彼岸花が咲き誇るその中央に粗末な大きな石があった。
「……墓なのか?」
伊咲凪が呟く。その石にはなにやら字の様なものが彫られていたが初めて見る字体だったので読む事が出来なかった。舞衣は彼岸花になんて目もくれずその石の前で立ち止まる。
「…そう、そうなの……」
まるで誰かと話をしているかのような舞衣。その瞳はどこか虚ろだった。
「酷い……そんな事が………そうなのね。貴方は………私達の女王様…」
いつもとまるで違う様子の舞衣に玲音も伊咲凪も不安になる。
「なぁ、舞衣!!もう帰ろう」
堪らず玲音が声を上げる。伊咲凪も舞衣の名前を呼ぶと腕をひこうとする。しかしそんな伊咲凪を舞衣は振り払い、そうしてやはりうつろな瞳で真っ赤な彼岸花の花畑の真ん中にある石を見つめている。
「あぁ…何て可哀想な私達の女王様…」
その虚ろな瞳からは涙が流れていた。
「ヤエカ様…」
舞衣はそう呟いた後そのまま気を失ってしまった。
しん、と静まり返るその場に真っ赤に咲き誇る彼岸花が不気味で玲音と伊咲凪はぶるりと震えると気を失った舞衣を抱いて森から離れたのだった。
「その後からだった…時々舞衣の様子がおかしくなったのは…」
時折、暗く憎しみを孕んだ目をしていたり、誰かが苦しむのを見て冷酷に笑っていたり…今までの舞衣からは想像が出来ないような表情をみせるようになった。まるで別人かのようだった。
伊咲凪は思い返す様にうつむき加減になる。
それから数年がたったある日。
舞衣は玲音と伊咲凪を学校の屋上に呼び出した。
「あのね…2人に話したい事があるの。」
神妙な面持ちで舞衣は自分の胸に手を当てる。
そんな舞衣の様子に玲音と伊咲凪も真剣な表情になる。
「私の中にもう1人の誰かがいるの。その人は私の…BLACKDiVAの…女王様。」
舞衣のその言葉に玲音は何言ってるんだとでも言うように軽く笑う。
「何言ってんだよ?冗談だろ??」
笑う玲音を舞衣は真っ直ぐに見つめた。
その瞳は冗談を言っているようには見えなかった。
「時折、お前が見せる…別人みたいな表情は舞衣の中にいる女王のものなのか?」
伊咲凪の問いかけに舞衣は頷く。
「そうだよ…彼女は人間を憎んでいる。辛くて、悲しくて、どうすることも出来なくて憎悪だけが募って…彼女は壊れてしまったの。」
彼女は昔はとても慈悲深く優しい女王様だった。
移り住んできた人間に蹂躙され壊れてしまった。
「何もかも壊してしまいたい…それが彼女の望み。」
舞衣は苦しそうに顔を歪めた。
「もし…女王様に私が乗っ取られてしまったら……人々を殺し、全てを破壊してしまうと思うの。」
だからね…と続ける。
「2人にお願いがあるの。もし…私が私がじゃ無くなってしまったら私を………殺してね」
そう言って舞衣は悲しげに微笑んだ。
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