BLACK DiVA

宵衣子

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29.人狼の様な魔物

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琴子と玲音は人狼の様な魔物と対峙している。
体長は3mくらいはありそうだ。
その魔物の胸あたりには…

「た、隊長っ!!あれ!人の…顔がっ!!!」

「っ!!!」

魔物の胸から人の顔が出ていた。その顔は血の涙を流している。グロテスクなその姿に琴子はヒッと息を飲んだ。玲音の顔も強ばる。

「あれは…まさか………」

あの胸のものが本当に人であるなら…人が魔物になったのか、それとも誰かによって作り出された、人と魔物を融合させたキメラなのか…。はたまた、ただたんにそう言う形をした魔物なのか…しかし、その魔物は考えている暇なんて与えてくれないようだ。玲音と琴子に真っ直ぐ向かってくる。

「チッ!!(できれば捕獲したいところだがっ!!!)」

玲音は魔物の攻撃を紙一重でかわしていく。
素早い動きに玲音は力を発動させる余裕が無い。
その鋭い爪に引き裂かれたりでもしたら致命傷になる事は間違いないだろう。玲音は魔物が彼を仕留めようと大振りになった時を見逃さず、技を発動させた。

「(スタンネーション!)」

瞬間、魔物の動きが玲音の力によって止まる。
琴子は玲音の元へ行き、2人で魔物を見る。

「やっぱり…これは人ですか?」

「どうだろうな…」

瞬間、玲音の技にかかって動けないはずの魔物が少しずつ動き出す。

「!!」

瞬時にそれに気付いた玲音が声を上げる。

「琴子、離れろ!!」

「え!?」

2人が距離をとろうと後退したと同時に玲音の技が解け魔物が咆哮を上げた。

「どうして!?」

「力を無力化させられた!!」

その様子を気配を消し影から見ている男がニヤリと笑う。

「素晴らしい!!」

嬉しそうに声を上げた。

玲音は2丁の拳銃をその魔物に向かって撃つ。
しかし魔物はその銃弾を素早く避け、床には玲音のスタンネーションの力がドーム状に残る。

「ちっ、速いなっ」

その時、魔物の郡勢がこちらに向かってきているのが琴子の目に入る。

「嘘でしょっ!!」

さっきの人狼の様な魔物の咆哮が近くの魔物を誘き寄せたようだった。
琴子は冷や汗をかく。目で見ただけでも20体くらいの魔物がいそうだ。玲音の方を向くも人狼のような魔物の相手で手一杯だ。

「(このままじゃ不味い…。)」

琴子はガーディアンの資料室で魔物についての本を読んだことを思い出す。
魔物は普通の動物とは違ってアンノウン同様、何らかの力を持っているという事。それから魔物は人の血を欲すると言う事。

「私の新しい力…試してみよう!」

琴子は覚悟を決めたように魔物の郡勢を見据えた。
試すも何ももうやるしか無いのだ。失敗すれば死ぬ。

「《ナイフ》」

琴子の言葉と共に普通のナイフが具現化される。
それから琴子は自分の腕を切った。瞬間、血が舞い散る。ドクドクと溢れる血。その臭いに魔物の郡勢は琴子をギロりと見る。

「こっち!!血が欲しいなら私についてきなさい!!!」

大きな声で叫び魔物の郡勢の注意を十分に引き付け、琴子は走り出した。

「(なるべく隊長から離れなきゃ!!)」

猛ダッシュで琴子は走る。その後を魔物の郡勢が追いかけて行く。

「琴子っ!!」

それに気づいた玲音が声を上げるも、そんなのはお構い無しだ。今止まったらあっという間にやられる!!と必死に琴子は走るのだった。
琴子の血の臭いにつられて人狼のような魔物も琴子を追おうとするが、それを玲音は拳銃を撃って制した。

「お前の相手は俺だろ?」

キッと魔物を睨みつけ玲音は拳銃を構えた。

一方、琴子はだいぶ人気の無いところまで来た。
もちろん魔物の郡勢も着いてきている。
琴子は立ち止まると魔物の郡勢に向き直る。

「《氷帝の世界》」

琴子がそう言うと気温が一気に下がり霜が降り、地面は凍り付く。次第に雪の結晶が降り出しその結晶に触れたり、地面の氷に触れたりした魔物の郡勢はたちまち凍りついたのだった。

「おやすみ」

琴子の言葉と共に凍りついた魔物達は綺麗に砕け散った。
なんとか魔物を倒した琴子は地面に座り込む。息は荒く辛そうだ。

「氷の…力……まだ…未完成だな…」

琴子はある日ふと思い出す。氷だけは武器をださなくてもある程度の威力で扱えていたなと。それからは氷を具現化する練習を積み重ねてきた。そうして分かったことは氷だけは武器がなくても風や水などの武器ありと同等の力を発揮できると言う事。これを極めて氷の武器も出す事ができるようになれば…きっともっと強くなれる。そう思ったのだが…氷の武器を具現化する事がまだ出来ないのだ。

「まだ…届かないなぁ…來之衛に…」

一面を覆う氷の世界。あれだけの範囲と威力の力を使ったのだオーラをかなり消耗してしまったようだ。
琴子は魔物が全滅したのを確認して、意識が途切れた。

一方、玲音と人狼のような魔物の戦いは玲音の勝利で終わった。

「生け捕りは叶わなかったが…死体を研究所にまわすか…」

その様子を影から見ていた謎の男はやはり楽しそうに笑っている。

「さすが白金の停滞者と言ったところですかね~…彼も研究に取り込めたら……ふふ。素敵な事が起こりそうだ」

彼の玲音を見つめる瞳は狂気に満ちていた。
玲音は横たわる人狼の様な魔物を見る。

「…………」

あの時、玲音が人狼の様な魔物にとどめを刺そうとした時、魔物の胸から出ている人の顔が言葉を話したのだ。

「タスケテ…」

と。玲音はぐっと拳をにぎりしめる。爪が手のひらにくい込んで血が滴る。その言葉を聞いて玲音は確信した。この魔物はキメラなのだろう。誰かが意図的に創り出した魔物だ。

「誰がこんな事を…絶対に許さねぇ。」

玲音は昔、魔物について研究してる人がいたのを思い出す。そいつは魔物と人を融合させるためにどうしたら良いかとか、魔族と契約するにはどうしたらいいか…とかを研究していた。人類に進化を…とか言いながら人体実験もしていて、その行いはまさに非道だった。

「だが…そいつは処刑されたはずだ。」

その思考から改善の余地は無いとされ、処刑された。最後まで反省なんてしてなかった…狂った様に笑って人類には進化が必要なのだ!!と言っていたのを覚えている。
一体、どれだけの人が犠牲になったと思ってるのだ、今思い出しても腹立たしい。

「一体…誰が………」

玲音はもう一度、魔物を研究していた処刑された男について調べ直そうと思うのだった。
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