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32.白いカーネーション
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琴子は來之衛のお母さんが出してくれたお茶を飲む。
「ほんと久しぶりね~希空ちゃんが亡くなってからあまり遊ばなくなっちゃったものね」
そう言う來之衛のお母さんの瞳は悲しげに揺れていた。
「來之衛もあの頃から塞ぎ込んじゃってね…」
「………」
アンノウンの男に襲われたあの日、希空を亡くした來之衛と琴子は一緒に遊ばなくなった。琴子には來之衛は希空を助けようとしたのに自分はずっと隠れていたという負い目があったし、來之衛は自分を恨んでるじゃないかと思っていた。
それとあの時は來之衛といる事で希空の事を思い出し、希空はもう居ないんだと現実を突き付けられる事が怖かったのだ。希空の死を受け入れられなかった。それは來之衛も同じだったと思う。いや、來之衛に関してはまだ希空の死を受け入れられてないのかもしれない。自分の心を保つ事で精一杯だった琴子は來之衛を気にかける余裕もなかったのだ。
2人はリーダーを失ってしまった組織がバラバラになってしまったかのように…話すことも遊ぶ事もなくなった。希空は2人にとって太陽みたいな存在だった。それでも琴子は來之衛が夢に向かって頑張っていると思っていた。だから自分も頑張ろうと思った。
「大好きだった勉強もしなくなって…表情もずっと暗いままでね…そして15歳の時、出ていってしまったの」
「…それから連絡は」
琴子の言葉に來之衛のお母さんは首を横に振った。
「1度だけ…心配しないで、僕は元気にやってるよ…って。それからは全く。こちらから電話しても出ないのよ。今頃、どこで何をしているのか…元気にしているといいんだけど…」
「そうなんですか…」
琴子はあの時、希空が亡くなってしまった後、辛くてもなんでもいいから來之衛ともっと話をして一緒にいれば良かったと後悔した。お互い寄り添い会えていたら…と。そしたら來之衛が自暴自棄になる事も無く、今でも医者の夢を追っていたかもしれない…今更、後悔してもどうしようも無いのだけれど。
「來之衛の連絡先教えていただけませんか?」
琴子の言葉に來之衛のお母さんは頷いた。
…………
來之衛の実家からの帰り道、琴子は來之衛にどう連絡したら会えるか考える。
「なんて連絡したら会ってくれるだろう…」
そもそもちゃんと繋がるのかも疑問だが…。
もしかしたらもうこの番号は使ってないかもしれない。
「でも、今度はちゃんと話がしたい。」
また酷い言葉を浴びせられるかもしれない。傷つくような事を言われるかもしれない。それでも今度は逃げない。ちゃんと來之衛と向き合いたい。
琴子は3人でいつも遊んでいた公園のベンチに腰掛けた。
「………」
そして意を決して電話をかける。
コール音が鳴る。
1回…2回………………。
しかし出なかった。
「出ないか…」
琴子は残念な様なほっとしたような複雑な気持ちになった。ほっとするなんて覚悟が足りていないのか…と自分を責める。
來之衛が電話に出る事はなかったが収穫はあった。
この番号は繋がる。それだけは分かった。
それから琴子は希空のお墓へと向かった。
空が赤く染まり、日が暮れ始めていた。
お墓に着くと、希空のお墓にはお花が置いてあった。まだ新しい。
「白いカーネーション…」
お盆でも命日でも無いのに誰が来たんだろう?と琴子は辺りを見渡すも誰もいない。
ふと白いカーネーションの花言葉が気になる。
「白いカーネーションの花言葉を教えて?」
琴子がそう言うと耳に着いているイヤリング型の端末が反応し即座に検索する。
『白いカーネーションの花言葉は純粋な愛、生涯忘れません。です』
それを聞いて琴子はこの花を供えたのが誰なのかすぐに分かった。分かった瞬間には走り出していた。
「(まだ…まだ近くにいるかもしれない!!)」
琴子が来たのはよく3人で遊んでいた公園にある丘だった。そこからは琴子の住んでいた街並みを見下ろすことができる。夕日に染まる街並みは情熱的で綺麗だった。そしてそこに佇む男の人が1人いた。赤茶色のくせっ毛の髪が夕日に照らされてさらに赤みを増していた。
「來之衛…」
見慣れた後ろ姿に琴子は確信を持ってその名前を呼んだ。
彼はゆっくりとこちらを振り向き、一瞬目を見開いた後に胡散臭そうな笑みを浮かべた。
「ほんと久しぶりね~希空ちゃんが亡くなってからあまり遊ばなくなっちゃったものね」
そう言う來之衛のお母さんの瞳は悲しげに揺れていた。
「來之衛もあの頃から塞ぎ込んじゃってね…」
「………」
アンノウンの男に襲われたあの日、希空を亡くした來之衛と琴子は一緒に遊ばなくなった。琴子には來之衛は希空を助けようとしたのに自分はずっと隠れていたという負い目があったし、來之衛は自分を恨んでるじゃないかと思っていた。
それとあの時は來之衛といる事で希空の事を思い出し、希空はもう居ないんだと現実を突き付けられる事が怖かったのだ。希空の死を受け入れられなかった。それは來之衛も同じだったと思う。いや、來之衛に関してはまだ希空の死を受け入れられてないのかもしれない。自分の心を保つ事で精一杯だった琴子は來之衛を気にかける余裕もなかったのだ。
2人はリーダーを失ってしまった組織がバラバラになってしまったかのように…話すことも遊ぶ事もなくなった。希空は2人にとって太陽みたいな存在だった。それでも琴子は來之衛が夢に向かって頑張っていると思っていた。だから自分も頑張ろうと思った。
「大好きだった勉強もしなくなって…表情もずっと暗いままでね…そして15歳の時、出ていってしまったの」
「…それから連絡は」
琴子の言葉に來之衛のお母さんは首を横に振った。
「1度だけ…心配しないで、僕は元気にやってるよ…って。それからは全く。こちらから電話しても出ないのよ。今頃、どこで何をしているのか…元気にしているといいんだけど…」
「そうなんですか…」
琴子はあの時、希空が亡くなってしまった後、辛くてもなんでもいいから來之衛ともっと話をして一緒にいれば良かったと後悔した。お互い寄り添い会えていたら…と。そしたら來之衛が自暴自棄になる事も無く、今でも医者の夢を追っていたかもしれない…今更、後悔してもどうしようも無いのだけれど。
「來之衛の連絡先教えていただけませんか?」
琴子の言葉に來之衛のお母さんは頷いた。
…………
來之衛の実家からの帰り道、琴子は來之衛にどう連絡したら会えるか考える。
「なんて連絡したら会ってくれるだろう…」
そもそもちゃんと繋がるのかも疑問だが…。
もしかしたらもうこの番号は使ってないかもしれない。
「でも、今度はちゃんと話がしたい。」
また酷い言葉を浴びせられるかもしれない。傷つくような事を言われるかもしれない。それでも今度は逃げない。ちゃんと來之衛と向き合いたい。
琴子は3人でいつも遊んでいた公園のベンチに腰掛けた。
「………」
そして意を決して電話をかける。
コール音が鳴る。
1回…2回………………。
しかし出なかった。
「出ないか…」
琴子は残念な様なほっとしたような複雑な気持ちになった。ほっとするなんて覚悟が足りていないのか…と自分を責める。
來之衛が電話に出る事はなかったが収穫はあった。
この番号は繋がる。それだけは分かった。
それから琴子は希空のお墓へと向かった。
空が赤く染まり、日が暮れ始めていた。
お墓に着くと、希空のお墓にはお花が置いてあった。まだ新しい。
「白いカーネーション…」
お盆でも命日でも無いのに誰が来たんだろう?と琴子は辺りを見渡すも誰もいない。
ふと白いカーネーションの花言葉が気になる。
「白いカーネーションの花言葉を教えて?」
琴子がそう言うと耳に着いているイヤリング型の端末が反応し即座に検索する。
『白いカーネーションの花言葉は純粋な愛、生涯忘れません。です』
それを聞いて琴子はこの花を供えたのが誰なのかすぐに分かった。分かった瞬間には走り出していた。
「(まだ…まだ近くにいるかもしれない!!)」
琴子が来たのはよく3人で遊んでいた公園にある丘だった。そこからは琴子の住んでいた街並みを見下ろすことができる。夕日に染まる街並みは情熱的で綺麗だった。そしてそこに佇む男の人が1人いた。赤茶色のくせっ毛の髪が夕日に照らされてさらに赤みを増していた。
「來之衛…」
見慣れた後ろ姿に琴子は確信を持ってその名前を呼んだ。
彼はゆっくりとこちらを振り向き、一瞬目を見開いた後に胡散臭そうな笑みを浮かべた。
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