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◇前進④

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「完全に酔ってるな」

 そうかもしれない。お持ち帰りしてくださいなんて、酔ってないと言えやしないもの。

「舞花ちゃん、外の空気吸おう。歩ける?」

 腕を支えられて、フラフラとしながらもカラオケの部屋から外に出る。
 気がつくと和久井さんと共にエレベーターに乗り、ビルの外にまで下りてきていた。
 わざわざ建物の外にまで出なくてもよかったのだけれど、カラオケ部屋の空気はこもっていたし、外のほうが空気が冷たくて気持ちよかった。
 外まで連れてきてくれた和久井さんに、ありがとうございますとお礼を言おうとしたら、和久井さんは道路に出て手を上げ、タクシーを呼び止めた。

「舞花ちゃん、乗って?」
「え……」

 どうして? と頭に疑問が浮かびながらも、私は和久井さんに手を引かれてタクシーに乗りこんだ。
 運転手さんにどこか行き先を告げ、タクシーが走り出しても和久井さんはひとことも喋らない。

「どこ、行くんですか?」

 私を家に帰らせたいのなら、私だけをタクシーに乗せればいい。
 なのに、和久井さんも当然のように一緒に乗ってきて、車の外の流れる景色を見ている。

「俺の家に向かってる」
「……へ?」
「お持ち帰り、されたいんだろ?」

 カラオケ店での発言は、冗談だと言っておいたのに。
 まさか本当にお持ち帰りされてしまうのだろうか……
 いや……まさか。
 和久井さんの発言こそ冗談だろう。そんなわけがない。
 外気に触れて、お酒のせいで火照った頬が少しは冷たくなったと思ったのに、確実にまた熱が上がってきた。

「着いたよ」

 必死に顔の熱を冷まそうとしていたけれど、結局どうすることもできなかった。
 そんな中、タクシーが停車して目的地に到着したと告げられる。
 車から降りてみると、目の前に見知らぬマンションが建っていた。

 ぼんやりとしながらも、建物に吸い寄せられるように三歩ほど歩いたらよろめいて、膝からガクッと落ちそうになった。

「あっぶないなぁ」

 和久井さんが咄嗟に体を支えてくれたから転ばずに済んだけれど、今度は密着しすぎて心臓が一気に早鐘を打つ。
 ふたりでマンションの建物に入っていき、エレベーターに乗り込むと、和久井さんは迷わず七階のボタンを押した。
 エレベーターを降りたあと、彼は鞄から鍵を取り出して部屋の玄関を開ける。
 そして私もその部屋に入るように促され、リビングのソファーに座らされた。

「あの、ここはどこですか?」

 冷蔵庫の扉を開けている和久井さんに、そっと声をかけた。

「どこって……俺の家だけど?」

 言いながら、和久井さんは冷蔵庫から取り出したペットボトルの水を私の目の前に差し出す。
 私はそれを会釈して受け取り、中身を少しだけ口に含んだ。

「そんな質問するなんて、想像以上に酔ってるな」

 俺の家以外ありえないのに、とでも言いたげな表情で和久井さんは私の隣に座り、彼も水を勢いよく体に流しこむ。
 水を飲む姿までカッコいいんだな……と、ずっと見ていたい衝動にかられた私は、やはりアルコールが回っているようだ。
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