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◇前進⑧
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「舞花、おはよう。早速だけど、昨日あれからどうなったのよ?」
翌日の朝、会社のロッカールームで着替えている私のもとへ美里がやってきた。予想はしていたものの、いきなりの質問攻撃だ。
「気づいたら、舞花と和久井さんがふたりでいなくなってたから驚いた。いい感じになったの?」
制服のスカーフを巻いている私の手を掴んで、詳しく聞かせろとばかりに美里がニヤニヤとした顔つきで詰め寄ってくる。
「いい感じというか……和久井さんの部屋に行った」
「えぇ?!」
「お持ち帰りされちゃった」
私の言葉を聞き、美里は驚いて口をあんぐりと開けている。
面白い。わざとふざけて大げさに言った甲斐があった。
「すごい急展開! 和久井さんは意外と肉食だったんだね」
美里は顎に手をやりながら、未だに驚いたままでフリーズしそうだ。
「でも、肉食ではないのかも。だって私たち、なにもなかったもの」
「……は?」
「私が酔ってたから部屋で休ませてくれたの。お水を飲んで、しばらくしたら私の家まで送ってくれて……それで終わり」
結局あのあとは、和久井さんがタクシーで家まで送ってくれた。
本当にただそれだけだった。
「え? 部屋に行ったのに?! 飲み会帰りでお酒だって入ってるし、そういう雰囲気になるものだと……。お持ち帰りされたって言うから、てっきり泊まったのかと思ったわ」
「泊まっていってもいいけど? とは言われたけど」
「なにそれ、和久井さんに誘われてるじゃん。舞花、なんで泊まらなかったのよー!!」
美里が興奮して、ガクガクと音が出そうなほど私の肩を両手で前後に揺さぶる。
「だって冗談に決まってるし、お酒の勢いで一夜限りとか、そういうのは嫌だったの」
美里は私の肩から両手を力なく下ろし、納得したのか苦笑いの笑みを浮かべた。
「舞花の言い分もわかる。でも、和久井さんはよくわからない人だね。部屋に連れていくってことは、舞花を気に入ってると思うんだけど。なのに実際にアクションを起こしてこないっていうのが……ねぇ?」
男ならその場の雰囲気で押し倒したくなるはずだと、美里が不思議そうな顔をした。
和久井さんにとって、私はそういう対象ではないのだろうか。女としての魅力に欠けているのかな?
だって、キスすらしなかった。
それどころか、手を握ったり抱きしめたり、そういうのすらなかったのだ。
本当に和久井さんは難攻不落だ。ほかの女性たちからそう称されている理由がよくわかった。
「でもね、連絡先も交換したし、日曜日にラーメンを食べに行く約束をしたの。これって進歩だよね?」
一歩ずつ、少しずつ……
和久井さんに近づくにはそれしかないのかもしれない。
焦っても仕方がない。ラーメンを食べるだけのデートだとしても、私と和久井さんの距離を確実に縮めていければいい。
ふたりきりで会えるだけでも、私はうれしいから。
和久井さんと約束をした日曜日は三日後だ。
私はその日が来るのがすごく楽しみで、単純だけど仕事中も元気でいられる。
「舞花、おはよう。早速だけど、昨日あれからどうなったのよ?」
翌日の朝、会社のロッカールームで着替えている私のもとへ美里がやってきた。予想はしていたものの、いきなりの質問攻撃だ。
「気づいたら、舞花と和久井さんがふたりでいなくなってたから驚いた。いい感じになったの?」
制服のスカーフを巻いている私の手を掴んで、詳しく聞かせろとばかりに美里がニヤニヤとした顔つきで詰め寄ってくる。
「いい感じというか……和久井さんの部屋に行った」
「えぇ?!」
「お持ち帰りされちゃった」
私の言葉を聞き、美里は驚いて口をあんぐりと開けている。
面白い。わざとふざけて大げさに言った甲斐があった。
「すごい急展開! 和久井さんは意外と肉食だったんだね」
美里は顎に手をやりながら、未だに驚いたままでフリーズしそうだ。
「でも、肉食ではないのかも。だって私たち、なにもなかったもの」
「……は?」
「私が酔ってたから部屋で休ませてくれたの。お水を飲んで、しばらくしたら私の家まで送ってくれて……それで終わり」
結局あのあとは、和久井さんがタクシーで家まで送ってくれた。
本当にただそれだけだった。
「え? 部屋に行ったのに?! 飲み会帰りでお酒だって入ってるし、そういう雰囲気になるものだと……。お持ち帰りされたって言うから、てっきり泊まったのかと思ったわ」
「泊まっていってもいいけど? とは言われたけど」
「なにそれ、和久井さんに誘われてるじゃん。舞花、なんで泊まらなかったのよー!!」
美里が興奮して、ガクガクと音が出そうなほど私の肩を両手で前後に揺さぶる。
「だって冗談に決まってるし、お酒の勢いで一夜限りとか、そういうのは嫌だったの」
美里は私の肩から両手を力なく下ろし、納得したのか苦笑いの笑みを浮かべた。
「舞花の言い分もわかる。でも、和久井さんはよくわからない人だね。部屋に連れていくってことは、舞花を気に入ってると思うんだけど。なのに実際にアクションを起こしてこないっていうのが……ねぇ?」
男ならその場の雰囲気で押し倒したくなるはずだと、美里が不思議そうな顔をした。
和久井さんにとって、私はそういう対象ではないのだろうか。女としての魅力に欠けているのかな?
だって、キスすらしなかった。
それどころか、手を握ったり抱きしめたり、そういうのすらなかったのだ。
本当に和久井さんは難攻不落だ。ほかの女性たちからそう称されている理由がよくわかった。
「でもね、連絡先も交換したし、日曜日にラーメンを食べに行く約束をしたの。これって進歩だよね?」
一歩ずつ、少しずつ……
和久井さんに近づくにはそれしかないのかもしれない。
焦っても仕方がない。ラーメンを食べるだけのデートだとしても、私と和久井さんの距離を確実に縮めていければいい。
ふたりきりで会えるだけでも、私はうれしいから。
和久井さんと約束をした日曜日は三日後だ。
私はその日が来るのがすごく楽しみで、単純だけど仕事中も元気でいられる。
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