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◇前進⑨
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***
和久井さんと約束した日曜日がやってきた。
前日からクローゼットの中の洋服を根こそぎ引っ張り出し、あれでもない、これでもない、と鏡の前で服装を悩み続けた。
やっぱりデートなのだからスカートがいいのかなと考えたが、ラーメンを食べに行くのにミニスカートっていうのもなにか違う気がして……
その結果、とりあえずスカートはひざ丈の無難なものをチョイスし、トップスは短いボウタイのベージュのブラウスにした。
いつもより長くドレッサーの前に座り、緩く巻いた髪型をチェックする。
メイクもナチュラルを心がけ、最後に控えめにグロスを塗って仕上げた。
和久井さんとはあれからメッセージアプリでやり取りをしていて、今日の待ち合わせは駅かなと思っていたら、私のマンションの前まで車で迎えに来てくれることになった。
お昼にラーメンを食べたあと、ドライブでもしようと和久井さんが言ってくれたのだ。
もうそれだけで私はウキウキとドキドキが止まらない。
『おまたせ。着いたよ』
和久井さんから到着したとメッセージが来た。待ち合わせの時間ぴったりだ。
私はあわててバッグを持ち、玄関を飛び出してマンションの下まで降りる。
カッコいい紺のSUV車が停まっていて、チラリと中をうかがい見ると、和久井さんが気づいて左手で合図をし、運転席から降りてきた。
「迎えに来てもらっちゃって、すみません」
「いや、俺が言い出したんだから気にしないで。乗ってよ」
私が車に近づくと、彼が助手席のドアを開けてくれた。
今までかつて、私にこんなことをしてくれた男性はいなかった。
初めての経験で感動しすぎて、この段階で胸がドキドキしてくる。
「さて、どんなラーメン屋を紹介してくれるの?」
運転席に乗り込んだ和久井さんは、両腕をハンドルの上に乗せ、首だけをこちらに向けて助手席にいる私へ微笑む。
「和久井さんは、何系のラーメンが好きですか?」
“ラーメン”と、ひとくちに言っても種類はいろいろある。
事前に和久井さんにどんなラーメンが好きかを聞きだそうと思っていたのに、うっかり忘れていて今日を迎えてしまったのだ。
「んー……普通に、しょうゆとか? あんまり苦手なラーメンはないよ」
「そうですか。じゃあ、とんこつ醤油ラーメンで大丈夫ですか?」
「うん。そういうの好きだ」
よかった。あれもこれもダメだと言われたら、どうしようかと思った。
「わかりました。えっと、三駅くらい向こうにイチオシのラーメン屋さんがあるんで、そこ行きましょう。気に入ってもらえるはずです!」
よく考えてみれば、今日は私が連れて行く設定のはずなのに、和久井さんに道順を伝えながら運転させているのは、なんとなく変な気がする。
それは仕方がないのだけれど。
和久井さんと約束した日曜日がやってきた。
前日からクローゼットの中の洋服を根こそぎ引っ張り出し、あれでもない、これでもない、と鏡の前で服装を悩み続けた。
やっぱりデートなのだからスカートがいいのかなと考えたが、ラーメンを食べに行くのにミニスカートっていうのもなにか違う気がして……
その結果、とりあえずスカートはひざ丈の無難なものをチョイスし、トップスは短いボウタイのベージュのブラウスにした。
いつもより長くドレッサーの前に座り、緩く巻いた髪型をチェックする。
メイクもナチュラルを心がけ、最後に控えめにグロスを塗って仕上げた。
和久井さんとはあれからメッセージアプリでやり取りをしていて、今日の待ち合わせは駅かなと思っていたら、私のマンションの前まで車で迎えに来てくれることになった。
お昼にラーメンを食べたあと、ドライブでもしようと和久井さんが言ってくれたのだ。
もうそれだけで私はウキウキとドキドキが止まらない。
『おまたせ。着いたよ』
和久井さんから到着したとメッセージが来た。待ち合わせの時間ぴったりだ。
私はあわててバッグを持ち、玄関を飛び出してマンションの下まで降りる。
カッコいい紺のSUV車が停まっていて、チラリと中をうかがい見ると、和久井さんが気づいて左手で合図をし、運転席から降りてきた。
「迎えに来てもらっちゃって、すみません」
「いや、俺が言い出したんだから気にしないで。乗ってよ」
私が車に近づくと、彼が助手席のドアを開けてくれた。
今までかつて、私にこんなことをしてくれた男性はいなかった。
初めての経験で感動しすぎて、この段階で胸がドキドキしてくる。
「さて、どんなラーメン屋を紹介してくれるの?」
運転席に乗り込んだ和久井さんは、両腕をハンドルの上に乗せ、首だけをこちらに向けて助手席にいる私へ微笑む。
「和久井さんは、何系のラーメンが好きですか?」
“ラーメン”と、ひとくちに言っても種類はいろいろある。
事前に和久井さんにどんなラーメンが好きかを聞きだそうと思っていたのに、うっかり忘れていて今日を迎えてしまったのだ。
「んー……普通に、しょうゆとか? あんまり苦手なラーメンはないよ」
「そうですか。じゃあ、とんこつ醤油ラーメンで大丈夫ですか?」
「うん。そういうの好きだ」
よかった。あれもこれもダメだと言われたら、どうしようかと思った。
「わかりました。えっと、三駅くらい向こうにイチオシのラーメン屋さんがあるんで、そこ行きましょう。気に入ってもらえるはずです!」
よく考えてみれば、今日は私が連れて行く設定のはずなのに、和久井さんに道順を伝えながら運転させているのは、なんとなく変な気がする。
それは仕方がないのだけれど。
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