【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉

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◇前進⑫

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 あの夜は、正直ホッとしたような気もするし、本当になにもなくて残念だった気もする。
 だけど、それはどちらも言えるわけがない。
 ホッとしたと言えば、和久井さんを拒否する意味あいになるし、残念だったと言えば、期待していた意味に取られる。

「えっと……答えられないです」
「はは。いいよ、答えなくて。困った質問したらどうするだろう? って……俺、意地悪だよな」

 要するに、からかわれたのだろうか。彼の意図がわからなくて自然と小首をかしげた。

「私、和久井さんとは……上辺だけの希薄な関係は嫌っていうか……」

 私は今、なにを口走っているのだろう。暴走しないかと自分が心配になってくる。

「あ、ほら! 友達でもそう思える子っているじゃないですか! 私の場合、美里がそうなんです」
「うん。言ってることはなんとなくわかる」

 わかってもらえたのは奇跡だ。自分でもなにが言いたいのかわからなくなっているのに。

「希薄な関係は、大人だったらいくらでも作れるよな。上手に愛想笑いして、相手に合わせてればいいだけだしね」
「……はい」
「俺なんて営業職だから、それが癖みたいになってきてるけど、そういう関係が上辺だけで中身が無いって、よく知ってる」

 私が考えていたことを、和久井さんは自身の経験も踏まえて上手に言葉にしてくれた。
 私は、和久井さんとはもっと心と心を交流させたい。
 だからあの夜、身体が先ではなくて良かったのかもしれない。

 気がつくと、車は郊外のほうまで来ていた。先ほどから上りの坂道が多い気がする。

「どこ行くんですか?」
「今日は天気もいいし、とっておきの見晴らしのいい場所に案内するよ」

 和久井さんはしばらく車を走らせた後、展望台のある小高い丘で車を停めた。

「着いたよ」

 車を降りてみると、空気が少しひんやりしていた。
 展望台というには規模が小さすぎるせいか、辺りに人は誰もいなかった。
 ベンチと自動販売機がポツンとあって、眼下には街並みがパノラマに広がっている。

「ここ、いいでしょ? 誰も来ないから貸切り状態なんだよ」
「はい。いい眺めですね」
「夜は夜景も綺麗なんだ」

 そうか。夜に来るともっとロマンチックだから、逆にその時間のほうがカップルでいっぱいなのかもしれない。

「こういうところに来るの、すごく久しぶりです」
「ほんとに? 舞花ちゃんはかわいいから、よくデートに誘われるでしょ」
「ないですよ! みんな社交辞令ですもん」

 たまにいきなり食事に誘われることもあるけれど、社会人として働くうちに笑顔でかわす技を覚えた。
 社交辞令をいちいち真に受けていたら大変だ。お誘いは挨拶代わりだと思うようにしている。

「それ、きっと社交辞令じゃないよ」
「そうなんですか? 全部断ってますけど……」
「じゃあ、俺はラッキーなんだね」

 和久井さんも今日はという認識だった、そういう意味に取れる発言だ。
 ただラーメンを食べただけではなく、デートだと思ってもらえているなら私はうれしい。

「ここ、本当に景色がきれいですね。写真撮ろうかな」

 私は手にしていたスマホで、パノラマに広がる景色をパチパチと撮影した。

「ふたりで一緒に撮ろうよ、今日の記念に」

 後ろから声がしたと思ったら、和久井さんが私の手からスマホを奪い取る。
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