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◆交錯⑤

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 まるで自分の推理が当たったかのように、遥ちゃんが天然の笑みを浮かべる。
 それにしてもあの時、俺と遥ちゃんを気にして舞花ちゃんがこちらに視線を送っていたなんて知らなかった。
 これは思い過ごしかもしれないが、彼女がカラオケ店で酒を飲みすぎたり様子が変だったのは……そのせいか?

「きっとうまくいきますよ。向こうも和久井さんのこと気になってるみたいでしたから」

 もし佐藤に同じことを言われたら、きっと不貞腐れた態度を取っただろう。
 けれど遥ちゃんにうれしそうな笑顔でそう言われると腹も立たない。

「和久井さんが選んだシュシュのほうが、彼女の雰囲気に合ってますね」
「じゃあ、遥ちゃんが選んだ茶色のやつとそれと、両方貰うよ。包んでくれる?」
「もちろん。プレゼント用でお包みしますね。ありがとうございます」

 会計を先に済ませると、遥ちゃんは可愛らしいラッピング用のリボンやら包装紙を出してきて、器用に手早く包装していく。

「リボンの色、赤とピンクと水色があるんですけど、どれがいいですか?」
「えっと……赤にしようかな」

 遥ちゃんがにっこり笑って赤いリボンをつけた。

「うちのお店、ペアリングも置いてますから。シュシュもいいですけど今度は指輪もいいんじゃないですか?」
「はは。遥ちゃん、しばらく会わないうちに商売上手になったね。うちの会社に戻ってくれば? もちろん営業部で」

 そんな冗談を言い合ってお互いに笑いつつ、遥ちゃんが包み終えたプレゼントを俺に手渡そうとしていたとき……

「あ!!」

 俺の後ろ側にある出入り口の方向を見ながら、遥ちゃんが突然大きめの声をあげた。それにつられるように、俺も振り返ってその方向に視線を向ける。
 出入り口の扉をはさんで、店の外の歩道からこちらを見ている人影があった。

「あの人ですよね? 和久井さんの……」

 遥ちゃんの指摘は当たっていた。その人物は間違いなく舞花ちゃんだ。
 俺と遥ちゃんに気づかれた彼女はあわてて視線を逸らせ、その場を立ち去ってしまった。

「あの表情……彼女、完全になにか誤解しましたよね?!」
「……」
「和久井さんっ!」

 どうして舞花ちゃんがここにいる?
 しかも、悲しそうな顔でなぜ逃げだした?

「追いかけてください! 早く!」

 遥ちゃんに大声で言われ、自分が一瞬、呆然とフリーズしていたことに気づいた。

 俺は店の扉を勢いよく開け、彼女が走って行った方向へ全速力で走り出した。
 どんな誤解も、されてたまるか。
 追いかけて、捕まえて、誤解をとく。……絶対に!
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