【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉

文字の大きさ
36 / 57

◇本気の恋を教えます③

しおりを挟む
 きっと、和久井さんは私を追いかけては来ないだろう。
 彼は、来るもの“拒んで”去るもの追わず、なのだと佐藤さんが前に教えてくれた。だとしたら今も、追いかけてくるわけがない。
 私は左足に痛みを感じながらも、再びゆっくりと歩き出した。
 だが突然、後ろから誰かに左肩を強く掴まれて体が反転した。

「なんで逃げるの?」

 振り返ると、息を切らした和久井さんの姿があった。
 なぜか眉間にシワを寄せている。

「別に逃げてなんか……。彼女、お店で待ってますよ。戻ったほうがいいんじゃないですか?」

 正直、ものすごく驚いた。
 追いかけてくるはずのない人が追いかけてきて、今ここにいるのだから。
 だけど今の私の発言は、ビックリして気持ちに余裕がなかったのを差し引いても、本当にかわいげがない。

「誤解だよ、そうじゃないんだ。今日はたまたまあそこに、」
「もういいです。私のことはほっといてください」

 こんなときに泣き顔を見せるのは卑怯だから、できるだけ和久井さんから顔を背けて言った。
 先ほどの光景で、私には見込みがないと身に染みてわかったし、そう告げるしかない。

「ほっとけるかよ! こんな舞花ちゃんをひとりにしておけるわけないだろ!」

 ガラにも無く少し声を荒げた和久井さんが、私の両肩に手を置き、正面で向き合う形で私と視線を合わせた。

「なんて顔してるんだ……」

 私の頬には止まらない涙があふれ続け、いくつもの筋を作っていた。
 和久井さんはそれを拭おうと、私の頬にそっと手を添える。
 どうして和久井さんは、このタイミングでやさしくするのかわからない。
 私に同情して、なんの意味があるの?

「好きでもないのに、やさしくしないで!」

 気がついたら口走ってしまっていた。
 和久井さんが本当にやさしくしたいのは、私ではなくてあの女性のはずなのだ。

「俺は誰にでもやさしい男じゃない。どっちかっていうと“やさしくない”ほうだ。だけど、舞花ちゃんにはやさしくしたい」

 和久井さんが切ない表情になり、私をきつく抱きしめる。

「それと、俺はどうして舞花ちゃんが走って逃げたのか……その理由に気づかないほど鈍感じゃないんだ」

 耳元でそんな言葉が聞こえてきて、抱きしめられているこの状況は夢ではないかと自分を疑いたくなった。

「私、和久井さんが……好き」
「知ってる」
「即答されるとムカつきます!」
「はは。正直だな」

 ついに思いがあふれてしまった。
 気持ちを伝える前に玉砕したのだと、つい先ほどまで意気消沈していたのに。
 告白の言葉を言えるとは思ってもみなかった。
 それにしても、和久井さんにはどうやら私の気持ちはバレていたようだ。
 私はかなりわかりやすいみたい。

「そんな正直な舞花ちゃん……俺も好きだ」

 今、幻聴が聞こえた気がする。
 自分の都合のいいように解釈して聞こえただけかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

Marry Me?

美凪ましろ
恋愛
 ――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。  仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。  不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。 ※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。 ※彼の過去だけ、ダークな描写があります。 ■画像は、イトノコさまの作品です。 https://www.pixiv.net/artworks/85809405

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅
恋愛
きみのことなんてしらないよ 関係ないし、興味もないな。 ただ一つ言えるのは 君と僕は一生一緒にいなくちゃならない事だけだ。

処理中です...