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「実は……これを聞いたら透桜子はショックを受けると思うんだよね」
「なに?」
「実行委員の私には先に話してくれただけだから、みんなにはまだ内緒なんだけどさ……」
周りには誰もいなくて私たちふたりきりなのに、日鞠は注意深くキョロキョロと辺りを見回したあと、声のトーンを最小限に落とした。
「水上くん、引っ越しで転校するみたい」
「え、ウソ!」
「透桜子、声が大きいよ」
驚いて声が出てしまった私はあわてて両手で口を塞いだ。
「引っ越しの準備があるから、あんまり文化祭の手伝いはできそうにないって言われてるの。でもこうしてやれることはやってくれてるんだけど」
先ほど彼が持ってきた段ボールを指さして、日鞠が苦笑いを浮かべる。
突然の話を耳にし、私はサーッと血の気が引いたようになってただ茫然とするだけだった。
「大丈夫?」
「転校ってどうして……。春には卒業だし、受験もあるのに」
高校三年のこの時期に転校するなんて聞いたことがない。
パニックになり、なぜ? どうして? と疑問符ばかりが頭に浮かぶ。
「そうだよね。水上くんってどこの大学を受けるんだろう? やっぱり国立大かなぁ?」
日鞠があご元に手を当てて頭をひねっているが、彼女が知らないのに私が知っているわけがない。
だけど水上くんの成績は常に学年でトップクラスなので、有名な国立大を狙うのだろうと、それは私でも予想はつく。
「引っ越しってどこに?」
日鞠に尋ねてみても、彼女は困ったように首をかしげるだけだった。
水上くんの中で志望校が決まっているなら、引っ越し先とは関係なく行きたい大学を受験するのだと思うけれど。
「どこだろう。そこまでは聞いてない。……転校するくらいだから他県かもね」
お父さんが転勤になって、家族で引っ越すのだろうか。
水上くんが遠くへ行ってしまう。今聞いたばかりで実感はまだ湧かないものの、もうすぐ彼に会えなくなるのだ。
「一緒に卒業できると思ってたのに……」
まだ信じられなくて、小さな声でポツリとつぶやいた。
中学の卒業式のあと、水上くんに「卒業おめでとう」と声をかけたかったのに、どうしても勇気が出せなかった。
だから高校の卒業式の日に、絶対にリベンジしようと決めていた。
だけど彼が卒業前に去ってしまうなら、それは叶わない。
「文化祭当日までは来るらしいよ。転校はそのあとかな」
「そうなんだ……」
日鞠が懸命に私の表情をうかがって気を使っているのはわかっているけれど、今の私は愛想笑いすら上手にできない。
「透桜子、こうなったら選択肢はひとつしかないでしょ!」
「……なに?」
「いなくなる前に気持ちを伝えるの!」
なんでもないことのように言う日鞠に対し、私は顔の前で右手をブンブンと大げさに横に振った。
「なに?」
「実行委員の私には先に話してくれただけだから、みんなにはまだ内緒なんだけどさ……」
周りには誰もいなくて私たちふたりきりなのに、日鞠は注意深くキョロキョロと辺りを見回したあと、声のトーンを最小限に落とした。
「水上くん、引っ越しで転校するみたい」
「え、ウソ!」
「透桜子、声が大きいよ」
驚いて声が出てしまった私はあわてて両手で口を塞いだ。
「引っ越しの準備があるから、あんまり文化祭の手伝いはできそうにないって言われてるの。でもこうしてやれることはやってくれてるんだけど」
先ほど彼が持ってきた段ボールを指さして、日鞠が苦笑いを浮かべる。
突然の話を耳にし、私はサーッと血の気が引いたようになってただ茫然とするだけだった。
「大丈夫?」
「転校ってどうして……。春には卒業だし、受験もあるのに」
高校三年のこの時期に転校するなんて聞いたことがない。
パニックになり、なぜ? どうして? と疑問符ばかりが頭に浮かぶ。
「そうだよね。水上くんってどこの大学を受けるんだろう? やっぱり国立大かなぁ?」
日鞠があご元に手を当てて頭をひねっているが、彼女が知らないのに私が知っているわけがない。
だけど水上くんの成績は常に学年でトップクラスなので、有名な国立大を狙うのだろうと、それは私でも予想はつく。
「引っ越しってどこに?」
日鞠に尋ねてみても、彼女は困ったように首をかしげるだけだった。
水上くんの中で志望校が決まっているなら、引っ越し先とは関係なく行きたい大学を受験するのだと思うけれど。
「どこだろう。そこまでは聞いてない。……転校するくらいだから他県かもね」
お父さんが転勤になって、家族で引っ越すのだろうか。
水上くんが遠くへ行ってしまう。今聞いたばかりで実感はまだ湧かないものの、もうすぐ彼に会えなくなるのだ。
「一緒に卒業できると思ってたのに……」
まだ信じられなくて、小さな声でポツリとつぶやいた。
中学の卒業式のあと、水上くんに「卒業おめでとう」と声をかけたかったのに、どうしても勇気が出せなかった。
だから高校の卒業式の日に、絶対にリベンジしようと決めていた。
だけど彼が卒業前に去ってしまうなら、それは叶わない。
「文化祭当日までは来るらしいよ。転校はそのあとかな」
「そうなんだ……」
日鞠が懸命に私の表情をうかがって気を使っているのはわかっているけれど、今の私は愛想笑いすら上手にできない。
「透桜子、こうなったら選択肢はひとつしかないでしょ!」
「……なに?」
「いなくなる前に気持ちを伝えるの!」
なんでもないことのように言う日鞠に対し、私は顔の前で右手をブンブンと大げさに横に振った。
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