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supplementary tuition番外編
秘密は蜜より甘く 7
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面会時間は30分とされている。
すでに何分経過したのだろうか。
重たい沈黙は、その部屋の冷たさのようにじわりじわりと夢月の身体にのし掛かる様に迫る。
悠都さんの名前出したのは失敗だったかな…………
清水蓮に具体的な何かを仕掛けようと思った訳ではないが、こうも早々に波風を立ててしまっては会話もままならない。
自分の発言の性急さに夢月は悔やんだ。
「…………僕を恐れてるの?」
目を逸らし困窮する夢月に、清水蓮が静かに問う。
重苦しい沈黙のあとにしては、穏やかな声音に夢月は戸惑い、返答が遅れた。
「こんな板に阻まれて今は何もできない僕が恐い?」
迷いを見せては付け入られる。
弱さを見せたら、いつものように振り回される。
毅然とした態度で対面しようと思っていたはずが、すでに清水蓮のペースに流されているようだ。
だけどそれでは何も変わらない。変えられない。
少しでもいい、何かを変えなきゃ…………
夢月は気持ちを固めて清水蓮を見つめ返した。
「確かに、恐いです。こんな板なんか役に立たないから」
「まだ僕が君に何かするとでも?」
清水蓮は挑む様に口元に笑みを称える。
もうその表情が今から何か仕掛けると言っているようだ。
「今恐いのは、身体的暴力じゃないんです」
刃物を向けられ、階段で突き飛ばされ、思い出しただけでゾッとするような凍る恐怖が湧き上がる。
清水蓮が仕掛けてきたことを忘れた訳ではない。
だけれど何故だろう。
あんなに辛かった事が乗り越えてみると、そこに何かが育っている。
二度と同じ経験はしたくないと思いながら、その恐怖に背を向けようとは思えない。
「清水先生の口から発せられるかもしれない真実が恐いんです」
「ふぅん、ちょっと意外…………」
「何が、ですか?」
「僕が発する真実に、君の心を傷付ける何かがあるって、深層心理の中では分かってるんだよね?僕が知る夢月先生はそんなに強くないからさ。そうやって怖がりながら、なんで来たの?助けも連れずにさ」
清水蓮は相変わらず口元だけで笑った。
飄々と掴み所がない雲の様に自由な、柔らかい表情をする人だったと言うのに、今はもうその瞳は強く意志を示している。
嫌悪、憎悪、妬み嫉み、どろどろと真実に屁張り付く闇が見える。
そこから連れ出せるだろうか。
少しでも、その闇を剥がせたら…………
「もしかして今の私にできる事があるのかな?って…………、私だから出来るって言うか」
「その口ぶり、知ってるね?悠都さんから聞いたかな?」
「悠都さんから聞いたのは、悠都さんの真実です」
「……………………どう言う意味?」
清水の眉間に僅かに皺が寄る。
「清水先生、貴方の真実と、悠都さんが抱えてきた真実はもう違う…………」
「何が言いたい?」
「元は同じ秘密でも、秘密はその人の中で形を変えていく、想いや辛さもきっと同じじゃない」
秘密は嘘に守られ、猜疑心を生みながら、凡ゆる負の感情を招き入れていく。
「なるほどねー、君はこう言いたいのかな」
ガタリと椅子を鳴らし清水蓮がアクリル板に顔を近づけた。
「『僕とアルトは違う。だから秘密の共有で縛るな』」
浮ついた柔らかさなど微塵もない。
そこにあるのは怒りだけだ。
アクリル板越しに夢月を睨み下ろす清水が、その拳を振り上げた。
「ふざけんなっ!!」
殴られたアクリル板が鈍く音を鳴らせ、震える。
清水蓮の怒号に背後に座っていた男が動いた。
「たかが話に聞いただけの真実を知ったくらいで、僕とアルトの絆をとやかく言われる筋合いはない!」
「ち、ちがう、違うよ…………」
夢月は慌てて立ち上がり、アクリル板に手をつく。
「清水先生…………、絆は、絆は秘密で縛らなくても繋がれるっ、だから自分を自分で縛らないで!」
止めるんだ、落ち着きなさい、と看守に押さえ付けられながら清水がアクリル板から引き離された。
「お前なんか、消えろ!お前なんかに出来る事があるとしたら、それくらいだっ、アルトの前から消えろっ!!!」
すでに何分経過したのだろうか。
重たい沈黙は、その部屋の冷たさのようにじわりじわりと夢月の身体にのし掛かる様に迫る。
悠都さんの名前出したのは失敗だったかな…………
清水蓮に具体的な何かを仕掛けようと思った訳ではないが、こうも早々に波風を立ててしまっては会話もままならない。
自分の発言の性急さに夢月は悔やんだ。
「…………僕を恐れてるの?」
目を逸らし困窮する夢月に、清水蓮が静かに問う。
重苦しい沈黙のあとにしては、穏やかな声音に夢月は戸惑い、返答が遅れた。
「こんな板に阻まれて今は何もできない僕が恐い?」
迷いを見せては付け入られる。
弱さを見せたら、いつものように振り回される。
毅然とした態度で対面しようと思っていたはずが、すでに清水蓮のペースに流されているようだ。
だけどそれでは何も変わらない。変えられない。
少しでもいい、何かを変えなきゃ…………
夢月は気持ちを固めて清水蓮を見つめ返した。
「確かに、恐いです。こんな板なんか役に立たないから」
「まだ僕が君に何かするとでも?」
清水蓮は挑む様に口元に笑みを称える。
もうその表情が今から何か仕掛けると言っているようだ。
「今恐いのは、身体的暴力じゃないんです」
刃物を向けられ、階段で突き飛ばされ、思い出しただけでゾッとするような凍る恐怖が湧き上がる。
清水蓮が仕掛けてきたことを忘れた訳ではない。
だけれど何故だろう。
あんなに辛かった事が乗り越えてみると、そこに何かが育っている。
二度と同じ経験はしたくないと思いながら、その恐怖に背を向けようとは思えない。
「清水先生の口から発せられるかもしれない真実が恐いんです」
「ふぅん、ちょっと意外…………」
「何が、ですか?」
「僕が発する真実に、君の心を傷付ける何かがあるって、深層心理の中では分かってるんだよね?僕が知る夢月先生はそんなに強くないからさ。そうやって怖がりながら、なんで来たの?助けも連れずにさ」
清水蓮は相変わらず口元だけで笑った。
飄々と掴み所がない雲の様に自由な、柔らかい表情をする人だったと言うのに、今はもうその瞳は強く意志を示している。
嫌悪、憎悪、妬み嫉み、どろどろと真実に屁張り付く闇が見える。
そこから連れ出せるだろうか。
少しでも、その闇を剥がせたら…………
「もしかして今の私にできる事があるのかな?って…………、私だから出来るって言うか」
「その口ぶり、知ってるね?悠都さんから聞いたかな?」
「悠都さんから聞いたのは、悠都さんの真実です」
「……………………どう言う意味?」
清水の眉間に僅かに皺が寄る。
「清水先生、貴方の真実と、悠都さんが抱えてきた真実はもう違う…………」
「何が言いたい?」
「元は同じ秘密でも、秘密はその人の中で形を変えていく、想いや辛さもきっと同じじゃない」
秘密は嘘に守られ、猜疑心を生みながら、凡ゆる負の感情を招き入れていく。
「なるほどねー、君はこう言いたいのかな」
ガタリと椅子を鳴らし清水蓮がアクリル板に顔を近づけた。
「『僕とアルトは違う。だから秘密の共有で縛るな』」
浮ついた柔らかさなど微塵もない。
そこにあるのは怒りだけだ。
アクリル板越しに夢月を睨み下ろす清水が、その拳を振り上げた。
「ふざけんなっ!!」
殴られたアクリル板が鈍く音を鳴らせ、震える。
清水蓮の怒号に背後に座っていた男が動いた。
「たかが話に聞いただけの真実を知ったくらいで、僕とアルトの絆をとやかく言われる筋合いはない!」
「ち、ちがう、違うよ…………」
夢月は慌てて立ち上がり、アクリル板に手をつく。
「清水先生…………、絆は、絆は秘密で縛らなくても繋がれるっ、だから自分を自分で縛らないで!」
止めるんだ、落ち着きなさい、と看守に押さえ付けられながら清水がアクリル板から引き離された。
「お前なんか、消えろ!お前なんかに出来る事があるとしたら、それくらいだっ、アルトの前から消えろっ!!!」
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