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supplementary tuition番外編
初恋ほど無意識なものはない 09
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とは言え、春香の発言は時折よく分からない。
ジェネレーションギャップはなかなか取り除けないものだ。それとも、恋愛偏差値中学生レベルの自分だから読み取れないのだろうか。
「好きとかに行ければいいなって」
新しい景品を流し目で物色しながら歩く春香のあとに夢月は続く。
「好きとかに行く?好きになりたいみたいな?」
「夢月さん、知ってる?初恋ってね、無意識なんだって」
そのフレーズに聞き覚えがあるが、うろ覚え過ぎて作中の台詞が名言かも分からない。
──── less involuntary.
非自発的を無意識と読ませた名言。
初恋がどうこうと前置いていたような?
「夢月さん、英語の名言とか授業で使うんでしょ?」
「あ、うん、だけどピンとこない名言とかは使わないから、結構偏りあるんだよね」
「確かにー、夢月さんには難しいヤツかもね。最近になってやっと初恋とか」
肩越しに振り返る春香の目は、怪訝に細められている。
夢月はそれを「あはは」と笑い受け流した。
今となっては、恋をする気持ちは良く分かる。
気付いたら好きになっていて、具体的にどこを好きになったとか、何が要因だったとか、いまいち漠然としている癖に、どうしようもなく追い求め焦がれてしまう想い。
切なくて苦しくて、耐え難く衝動的。
無意識と言われるとそうだ。
だけれど初恋に限定するものなのだろうか。
「どんな名言だったかな、それ」
「フランスの何とかって人の言葉。
人が心から恋をするのはただ一度だけである。
それが初恋だ。
それから後の数々の恋は、初恋ほど無意識なものでない。
何かね、ピンときたの。あー、分かるなって。初恋はしよーとしてしてなくて、その後の恋は、恋をしよーって思って探すんだなって。失恋を忘れる為の恋探し的な?失恋を知らないと共感できない名言でしょ?」
「…………そっか、恋を探すのって凄く前向きだね。何だか凄い」
失恋とは、どんなものか。
夢月には想像しかできないが、その悲しさも苦しさも分かる気がした。
きっと記憶喪失で有都を失ったと絶望したあの時に似ているのだろう。突然深い崖下に落とされた様な恐怖と絶望、そして激しい後悔。
何が悪かったのか、あの時こうしていれば、どうしてこんな事になってしまったのか、自問自答と果てしない苦悩。
有都を失うなんて、考えたくもない。
「凄いのは、夢月さんだよ」
春香は立ち止まると、情けなく顔の色を無くした夢月に向き直った。
「私ね、夢月さんが有くんが記憶なくしても諦めなかったって聞いて、完敗だなって思ったんだ。ずっとさ、有くんばかり必死に見えてて、夢月さんは流されてるだけで、なら他でもいーじゃんって思ってた。けど違うんだって、思い知った。私なら恋人が自分のこと忘れちゃったら側にいたくないもん。ショックだし辛いし、なんか惨めな気持ちになりそー。夢月さんは強いよ」
代弁されたような春香の言葉と、思い返していたあの頃の気持ちが連鎖する。
心を切り裂かれるような切ない悲しみと、あの一件以降誰も触れなかった当時の心境に共感された喜びが鬩ぎ合いながら込み上げてきた。
「まー、そんなワケで、新しい恋を探すよ。それと、佐竹っち、面白いし、イイんだけどね。まだ好きとかじゃないかな」
春香が晴れやかに微笑む。
それを見て確信した。
「確かめたいのって、ソレでしょ?せんせー」
眩し過ぎて胸が痛くなる笑顔。
やはり春香は春香なりに兄が犯した罪を背負いながら、自分の気持ちに折り合いをつけようとしている。
「…………私、真崎くんにあんた誰って言われた時、消えてなくなりたかった。あとはもうどうにか思い出して欲しくて必死だっただけで、全然強くないよ」
複雑に絡み合い込み上げた感情が、止め処ない想いを吐き出していく。瞳に滲んだ涙が、大きな一粒となり溢れた。
「自分の存在価値がなくなったみたいに惨めで悲しくて悔しくて、記憶がない真崎くんを責めたりもしたっ…………好きなんだもん、諦めらんないよ。だから春香ちゃんが諦めたものがどれほどのものか、どれだけ辛いのか分かる」
「夢月さん…………」
春香の瞳に涙が揺れ、夢月は堪え切れずに泣き出していた。
今まで誰にも言えなかった。
思い出すとそこに囚われてしまいそうで、仕舞い込んで忘れたふりをして、有都にさえ言わずにいた。
「だから、春香ちゃんのほうが強いよ」
「夢月さんのせいで泣けてくんじゃんっ」
「ごめんね、春香ちゃん…………」
「もー、夢月さんのバカ」
春香も目元を押さえて泣き出している。
咽び泣きながら夢月は最後に見た清水蓮の瞳を思い浮かべた。恨み辛みを閉じ込め、吐き出せずにいる怒りを抱え、自分は独りなのだと決め付けている瞳だ。
犯した罪を共に背負うように、前向きであろうとする妹の事をきっと知らない。
更生の機会を与えようと苦慮する実父の想いを知らない。
秘密を抱え続けている異母兄弟の真意を知らない。
それが酷く悲しく思えた。
ジェネレーションギャップはなかなか取り除けないものだ。それとも、恋愛偏差値中学生レベルの自分だから読み取れないのだろうか。
「好きとかに行ければいいなって」
新しい景品を流し目で物色しながら歩く春香のあとに夢月は続く。
「好きとかに行く?好きになりたいみたいな?」
「夢月さん、知ってる?初恋ってね、無意識なんだって」
そのフレーズに聞き覚えがあるが、うろ覚え過ぎて作中の台詞が名言かも分からない。
──── less involuntary.
非自発的を無意識と読ませた名言。
初恋がどうこうと前置いていたような?
「夢月さん、英語の名言とか授業で使うんでしょ?」
「あ、うん、だけどピンとこない名言とかは使わないから、結構偏りあるんだよね」
「確かにー、夢月さんには難しいヤツかもね。最近になってやっと初恋とか」
肩越しに振り返る春香の目は、怪訝に細められている。
夢月はそれを「あはは」と笑い受け流した。
今となっては、恋をする気持ちは良く分かる。
気付いたら好きになっていて、具体的にどこを好きになったとか、何が要因だったとか、いまいち漠然としている癖に、どうしようもなく追い求め焦がれてしまう想い。
切なくて苦しくて、耐え難く衝動的。
無意識と言われるとそうだ。
だけれど初恋に限定するものなのだろうか。
「どんな名言だったかな、それ」
「フランスの何とかって人の言葉。
人が心から恋をするのはただ一度だけである。
それが初恋だ。
それから後の数々の恋は、初恋ほど無意識なものでない。
何かね、ピンときたの。あー、分かるなって。初恋はしよーとしてしてなくて、その後の恋は、恋をしよーって思って探すんだなって。失恋を忘れる為の恋探し的な?失恋を知らないと共感できない名言でしょ?」
「…………そっか、恋を探すのって凄く前向きだね。何だか凄い」
失恋とは、どんなものか。
夢月には想像しかできないが、その悲しさも苦しさも分かる気がした。
きっと記憶喪失で有都を失ったと絶望したあの時に似ているのだろう。突然深い崖下に落とされた様な恐怖と絶望、そして激しい後悔。
何が悪かったのか、あの時こうしていれば、どうしてこんな事になってしまったのか、自問自答と果てしない苦悩。
有都を失うなんて、考えたくもない。
「凄いのは、夢月さんだよ」
春香は立ち止まると、情けなく顔の色を無くした夢月に向き直った。
「私ね、夢月さんが有くんが記憶なくしても諦めなかったって聞いて、完敗だなって思ったんだ。ずっとさ、有くんばかり必死に見えてて、夢月さんは流されてるだけで、なら他でもいーじゃんって思ってた。けど違うんだって、思い知った。私なら恋人が自分のこと忘れちゃったら側にいたくないもん。ショックだし辛いし、なんか惨めな気持ちになりそー。夢月さんは強いよ」
代弁されたような春香の言葉と、思い返していたあの頃の気持ちが連鎖する。
心を切り裂かれるような切ない悲しみと、あの一件以降誰も触れなかった当時の心境に共感された喜びが鬩ぎ合いながら込み上げてきた。
「まー、そんなワケで、新しい恋を探すよ。それと、佐竹っち、面白いし、イイんだけどね。まだ好きとかじゃないかな」
春香が晴れやかに微笑む。
それを見て確信した。
「確かめたいのって、ソレでしょ?せんせー」
眩し過ぎて胸が痛くなる笑顔。
やはり春香は春香なりに兄が犯した罪を背負いながら、自分の気持ちに折り合いをつけようとしている。
「…………私、真崎くんにあんた誰って言われた時、消えてなくなりたかった。あとはもうどうにか思い出して欲しくて必死だっただけで、全然強くないよ」
複雑に絡み合い込み上げた感情が、止め処ない想いを吐き出していく。瞳に滲んだ涙が、大きな一粒となり溢れた。
「自分の存在価値がなくなったみたいに惨めで悲しくて悔しくて、記憶がない真崎くんを責めたりもしたっ…………好きなんだもん、諦めらんないよ。だから春香ちゃんが諦めたものがどれほどのものか、どれだけ辛いのか分かる」
「夢月さん…………」
春香の瞳に涙が揺れ、夢月は堪え切れずに泣き出していた。
今まで誰にも言えなかった。
思い出すとそこに囚われてしまいそうで、仕舞い込んで忘れたふりをして、有都にさえ言わずにいた。
「だから、春香ちゃんのほうが強いよ」
「夢月さんのせいで泣けてくんじゃんっ」
「ごめんね、春香ちゃん…………」
「もー、夢月さんのバカ」
春香も目元を押さえて泣き出している。
咽び泣きながら夢月は最後に見た清水蓮の瞳を思い浮かべた。恨み辛みを閉じ込め、吐き出せずにいる怒りを抱え、自分は独りなのだと決め付けている瞳だ。
犯した罪を共に背負うように、前向きであろうとする妹の事をきっと知らない。
更生の機会を与えようと苦慮する実父の想いを知らない。
秘密を抱え続けている異母兄弟の真意を知らない。
それが酷く悲しく思えた。
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