私の片思いの相手は不思議な喫茶店で働いている猫さんでした。

*花*

文字の大きさ
24 / 45

3日目(水) 楽しい家族とのお出かけと静寂に包まれた喫茶店6

しおりを挟む
思った以上に話はテンポよく進んでいった。まず始めに温泉のことについて話した。とても気持ちよかったと。また来ようかなと考えていたこと。次にデパートで買い物をしてきたことについてだ。こっちにはないような物が沢山あったよと。そして最後に、一番伝えたかったとんぼ玉について言った。終始、彗くんは相槌を入れながら話を聞いてくれていた。でも、微かに私と目が合っていない気がした。どこかぼんやりと遠くをみているような感じがした。私は「おーい」や「大丈夫?」などと声掛けをした。すると彗くんはしっかり反応して「あぁ、大丈夫だよ。続けて」と少しばかり不自然な笑顔で返してきた。その度に私は本当かなぁ と疑い、心配になった。それでも私は話を続けることにした。

「はい、これあげる。私が今日作ってきたんだ」
「わぁ……!ありがとう。すごく綺麗だね」

と表情を明るくしてから、そっと受け取り、ランプの明かりに照らし、眺めていた。大空を固めたようなとんぼ玉。それに光が加わり、まるで、晴れた大空に太陽が照りつける、すっきりするような綺麗な風景が見えた。彗くんは眺め終えると、そのペンダントを私の方に渡してきて、「これ、付けてくれるかな」と少し頬を赤らめて聞いてきた。私は「分かった」と頷くと、彗くんの背後に回り、付けてあげた。付け終わり、また元の位置に戻った。

「わぁ……!綺麗……!彗くん、似合ってるよ」
「本当?嬉しいな」

と照れたようにへへっと笑った。それから、さっきよりも自然な笑顔で、幸せそうに「本当にありがとう」と言い、きっちりお礼をした。「いえいえ」と私もつられて微笑んだ。
「気に入ったかな?」と聞いてみると、彗くんは微笑んで「うん」と頷いてくれた。

好きだ。私は彗くんの幸せそうな微笑み、そして笑顔が大好きだ。

やっぱり、今聞くのはやめておこう。もう、夜なのだ。あまり遅いと親に心配される。今度、時間があった時にでも聞こう。ゆっくりと。今はこの幸せで楽しい時間が少しでも長く過ごせればいいなと彗くんのことを見つめながら思った。


「じゃ、そろそろ帰るね」
「あぁ、うん。分かった」

私は席を立ち、外へ出た。
彗くんもついてきて、外に来てくれた。

「今日はありがとね」
「いえいえ、彗くんが喜んでくれてよかったよ」
「ふふ」

と少し綻んでから、彗くんは首にかけたペンダントのとんぼ玉をそっと撫で下ろした。それからゆっくりと顔を上げた。私はその時の表情を見て、はっと息を飲んだ。その顔はとても優しいものだった。月光に照らされていて、微笑んでいた。それは今までで見た時がない表情だった。店内での表情とは一変して、この表情は『希望』という二文字が見えてくるようにも見えた。しばらく見とれていると、少し強めの夜風がひゅうと吹いてきた。彗くんの髪が少し揺れた。私は あっ と言う顔をした。そして私は「こちらこそありがとね」と慌てた様子で早口に言った。今私はどんな表情をしているだろう。少し視線を逸らした。彗くんは ははっ と軽く笑ってから、私に近づいて「顔ちょっと赤いよ? 大丈夫? 早く帰らないと風邪ひいちゃうかもよ?」と言い、私の頭を撫でた。急のあまり、私はビクッと肩を上げた。その後、彗くんは あっ と小さく呻いた。それからすぐに手を離し、「じゃあね」と早口で言った。私も「うん、じゃあね」と言ってから、そそくさとその場を立ち去った。いつの間にか私の足元にはいつものぶち猫がいた。そして今日は早歩きで公園まで行った。

やばい、やばいぃ…… あれ、頭撫でてたよね……!?

さっきの行動を思い出し、みるみると顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。夜風が落ち着いて と私を宥めるように冷たく吹いて来るのだった。

公園に着いたら、「じゃあね、また明日も来るね」と手を振って言い、また早歩きで家まで向かった。

今でも忘れられないあの手の感触。最初はびっくりしたけど、後々考えてみれば、なぜかちょっと安心していた気がする。

今日は、早歩きのせい、いや、さっきの出来事のせいでいつもよりもドクンドクンと鼓動が早かった。そして、私の恋の加速は止まらず、少しずつ進んで行っていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

ガネット・フォルンは愛されたい

アズやっこ
恋愛
私はガネット・フォルンと申します。 子供も産めない役立たずの私は愛しておりました元旦那様の嫁を他の方へお譲りし、友との約束の為、辺境へ侍女としてやって参りました。 元旦那様と離縁し、傷物になった私が一人で生きていく為には侍女になるしかありませんでした。 それでも時々思うのです。私も愛されたかったと。私だけを愛してくれる男性が現れる事を夢に見るのです。 私も誰かに一途に愛されたかった。 ❈ 旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。の作品のガネットの話です。 ❈ ガネットにも幸せを…と、作者の自己満足作品です。

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

処理中です...