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四章 月琉という存在
五.理由《後》
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あたしはおどおどした様子で、お母さんの方をちらりと見た。相変わらず、あの優しい笑顔はなく、悲しそうにひっそりと見つめているだけだった。すると、お母さんは、すっと隣を立ち、あたしの前に立った。
綺麗で透き通っている肌。サラサラで艶のある黒くて長い髪。美しく整った顔立ち。身長が高く、すらっとしていて、モデルさんみたい。
やっぱり、綺麗だなぁ……
ははぁと思わず見とれていると、お母さんはあたしの目線に合わせ、語りかけるように、言ってきた。
「だめよ」
その声はとても優しかった。温かくて、ふわふわしてて、丸みのある声だった。でもその裏腹で、何だか恐怖を感じた。あたしが何かに囚われているような、逃げ出せないような、そんな恐怖があった。まるで、あたしはお母さんのお人形さんのように。手の中で遊ばれているような気がした。
あたしは「え……?」と、か細い声が出た。ヒヤリと背中に寒気を感じた。何だか離れたくて、あたしが身動ぎしようとした時、お母さんがあたしの手をきゅっと握りしめた。そして、真っ直ぐにあたしの瞳を見つめてきた。
「……だめよ。こんな可愛い子。だぁれにも見られたくないわ……」
ねっとりと舐めるような声で、優しさも混じえながら言った。いつものお母さんじゃない。豹変している。純粋な美しさなんて微塵もない。その時、あたしは本気でお母さんを怖いと思った。醜い美しさを持っている悪い魔女のような感じがした。次はあたしのことを、ふんわりと包み込むように、抱きしめてきた。そして、背中を撫でながら、物悲しそうに語りかけてきた。
「私はあなたのことを愛している。あなたのその顔も、その性格も。全部、全部大好きよ。だからこそ、周り……いや、全く知らない外部からは見られたくないのよ……でも、あなたの言うことも分かるわ。だって、全然外に出させてないものね。……ごめんね。こんなお母さんでごめんね……でもね……でもね……」
そう言った次の瞬間。お母さんは、あたしにとって恐ろしい言葉を言ってきた。
「あなたには、私達だけの可愛いお人形さんでいてほしいの」
「えっ……」
あたしはその言葉を聞いた瞬間、背筋がゾッとし、心臓がバクバクと音を出して鳴り始めた。力がドロドロと抜け出していき、表情は唖然としたまま固まった。
……今、お人形さんって言ったよね。言ったよね。いや、いやいや嘘だ。絶対嘘でしょ。こんなこと絶対言うはずがない。ねぇ、そうでしょ?お母さん。
あたしは信じることが出来なくて、「何て言ったの……?」と微かに口を動かし、問いかけた。するとお母さんは、さっきと変わらない様子で、同じことを言った。可愛いお人形さんでいてと。
あたしがそこから感じとったこと。
それは、『歪んだ愛情』だった。それと同時に、あたしは急に寂しく、悲しくなった。
あたしは今までお人形さんだと思われていたのかぁ。心を持っていないお人形さん。そんな程度でしか思ってなくて、育ててきたのかぁ。愛情がたっぷり注がれて、育っているんだって思っていたのに。
こんなの、愛情じゃない。『純粋な愛情』じゃないよ。
すると、あたしの目から訳もなく、自然と涙がボロボロとこぼれ落ちてきた。それと同時に、あたしはもうこの家から出られないということを実感した。でも、外に出るという夢はまだ諦め切れなかった。
その後、あたしは外に出てみたいから、色々試行錯誤したんだ。お母さん以外の人に聞いてみたり、こっそり出ようとしたりしたけど、どれもこれも全部ダメだった。それどころか、厳しく叱られるばかり。あたしの「外へ出たい」というたった一言で、優しい家族が消え失せ、崩壊してしまった。
もう飽きた。つまらない。耐えられない。早く外へ出てみたい。そんな不満や願望が膨らんでいき、あたしはあることを思いついた。
汚くなればいいんだ。酷くなればいいんだ。
綺麗だからダメなんだ。もっと醜く、嫌なくらい汚く。どす黒く染まるんだ。
自分の手で。
その名も『自分から堕ちる作戦』。そうすれば、お母さんもあたしのことを手放して、外へ行かせてくれるだろう。
あたしは自分の部屋の全身を写せる鏡の前に立った。そして、自分自身をじっと真っ直ぐ見つめた。この顔も。この体も。それから、心も。何もかもを見通してくるように、鏡の中の自分は見つめ返してきた。でもあたしは、ブレずに、瞳に力を込めて、見返してやったの。そして、決心したんだ。
――もう、こんなあたしとは、バイバイだ。こんな綺麗で可愛いお人形さんは捨てた。
……あたしは―― あたしは――
『落ちて生まれ変わるんだ』
綺麗で透き通っている肌。サラサラで艶のある黒くて長い髪。美しく整った顔立ち。身長が高く、すらっとしていて、モデルさんみたい。
やっぱり、綺麗だなぁ……
ははぁと思わず見とれていると、お母さんはあたしの目線に合わせ、語りかけるように、言ってきた。
「だめよ」
その声はとても優しかった。温かくて、ふわふわしてて、丸みのある声だった。でもその裏腹で、何だか恐怖を感じた。あたしが何かに囚われているような、逃げ出せないような、そんな恐怖があった。まるで、あたしはお母さんのお人形さんのように。手の中で遊ばれているような気がした。
あたしは「え……?」と、か細い声が出た。ヒヤリと背中に寒気を感じた。何だか離れたくて、あたしが身動ぎしようとした時、お母さんがあたしの手をきゅっと握りしめた。そして、真っ直ぐにあたしの瞳を見つめてきた。
「……だめよ。こんな可愛い子。だぁれにも見られたくないわ……」
ねっとりと舐めるような声で、優しさも混じえながら言った。いつものお母さんじゃない。豹変している。純粋な美しさなんて微塵もない。その時、あたしは本気でお母さんを怖いと思った。醜い美しさを持っている悪い魔女のような感じがした。次はあたしのことを、ふんわりと包み込むように、抱きしめてきた。そして、背中を撫でながら、物悲しそうに語りかけてきた。
「私はあなたのことを愛している。あなたのその顔も、その性格も。全部、全部大好きよ。だからこそ、周り……いや、全く知らない外部からは見られたくないのよ……でも、あなたの言うことも分かるわ。だって、全然外に出させてないものね。……ごめんね。こんなお母さんでごめんね……でもね……でもね……」
そう言った次の瞬間。お母さんは、あたしにとって恐ろしい言葉を言ってきた。
「あなたには、私達だけの可愛いお人形さんでいてほしいの」
「えっ……」
あたしはその言葉を聞いた瞬間、背筋がゾッとし、心臓がバクバクと音を出して鳴り始めた。力がドロドロと抜け出していき、表情は唖然としたまま固まった。
……今、お人形さんって言ったよね。言ったよね。いや、いやいや嘘だ。絶対嘘でしょ。こんなこと絶対言うはずがない。ねぇ、そうでしょ?お母さん。
あたしは信じることが出来なくて、「何て言ったの……?」と微かに口を動かし、問いかけた。するとお母さんは、さっきと変わらない様子で、同じことを言った。可愛いお人形さんでいてと。
あたしがそこから感じとったこと。
それは、『歪んだ愛情』だった。それと同時に、あたしは急に寂しく、悲しくなった。
あたしは今までお人形さんだと思われていたのかぁ。心を持っていないお人形さん。そんな程度でしか思ってなくて、育ててきたのかぁ。愛情がたっぷり注がれて、育っているんだって思っていたのに。
こんなの、愛情じゃない。『純粋な愛情』じゃないよ。
すると、あたしの目から訳もなく、自然と涙がボロボロとこぼれ落ちてきた。それと同時に、あたしはもうこの家から出られないということを実感した。でも、外に出るという夢はまだ諦め切れなかった。
その後、あたしは外に出てみたいから、色々試行錯誤したんだ。お母さん以外の人に聞いてみたり、こっそり出ようとしたりしたけど、どれもこれも全部ダメだった。それどころか、厳しく叱られるばかり。あたしの「外へ出たい」というたった一言で、優しい家族が消え失せ、崩壊してしまった。
もう飽きた。つまらない。耐えられない。早く外へ出てみたい。そんな不満や願望が膨らんでいき、あたしはあることを思いついた。
汚くなればいいんだ。酷くなればいいんだ。
綺麗だからダメなんだ。もっと醜く、嫌なくらい汚く。どす黒く染まるんだ。
自分の手で。
その名も『自分から堕ちる作戦』。そうすれば、お母さんもあたしのことを手放して、外へ行かせてくれるだろう。
あたしは自分の部屋の全身を写せる鏡の前に立った。そして、自分自身をじっと真っ直ぐ見つめた。この顔も。この体も。それから、心も。何もかもを見通してくるように、鏡の中の自分は見つめ返してきた。でもあたしは、ブレずに、瞳に力を込めて、見返してやったの。そして、決心したんだ。
――もう、こんなあたしとは、バイバイだ。こんな綺麗で可愛いお人形さんは捨てた。
……あたしは―― あたしは――
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