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六章 本当は……【後】
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「ウワー、オ前ン家ノ中スゲェコト二ナッテンナァー」
「随分棒読みだな……これが大惨事の後だよ。こりゃ、片付けが大変なことになりそうだな」
俺らは何とか、家に着いた。これまでどれだけ道に迷ったことか……もう、疲れ果てていた。俺はふと、後ろを振り返った。ぽつんと月琉が立っていた。大事そうに寝ている目玉を抱えている。その手は嬉しいのか、悲しいのか分からないが、ふるふると震えていた。
俺と目が合った。月琉は「ごめんなさい……」と小声で、少し俯いて喋った。そして、その後に「あたしもちゃんと手伝うから……」と目線を上にし、見上げて、そう付け足した。
「……別に、怒ってないから大丈夫だよ。じゃあ、一緒に片付けるか」
「……はい!」
「あ、アイ。お前もな」
「エェ~……オレハ晋太ノコト運ンデ疲レテルンダケドナァァァ~?」
「疲れてるのはみんな同じだ」
「……ジャア、コイツハ?」
とアイが目線を送ったのは、月琉の抱えている目玉だった。すると、その声が聞こえたのか、月琉の腕に抱えられている目玉が、ゆっくりと開いた。中から、とろりと微睡みを帯びた、深緑の瞳が露になった。どこかのお偉いさんのように、静かにどっしりと構えていた。
「……ワタシモ手伝ウヨ」
喋った!?
変な声が出るところだった。
俺は瞬時に後ろに振り向いた。アイも目を見開いている。それに、月琉も少々驚きのようだ。「お父さん……!?」とびっくりしたような声を上げている。でも、その声はどこか冷静さがあった。
俺はなぜか小声で月琉に聞いてみる。
「……なぁ、月琉。さっきの声って……」
「……うん、お父さんの声……でも、滅多に聞けないんだよ……」
月琉の声もつられて小さくなる。滅多に聞けないってことは、声を発するのは、珍しいってことなのか。うちのアイはめっちゃ喋ってくるけど……
俺はちらりと目玉の方を見る。すると、するりと腕から抜け出した。月琉の目玉を抱えている腕がからっぽになった。月琉はちょっと焦り気味で、「あっ……」と声を出し、捕まえようと腕を伸ばした。だが、それをすっと軽やかな動きでかわした。同時に、月琉は手をパン!と大きく打った。「あぁ……」と弱々しく、悲しげな声をため息と一緒に吐き出した。
目玉は、深緑の瞳を露わにして、にんまりと笑い、言う。
「サァ、サッサト片付ケヨウジャナイカ」
「えっ……何で急に仕切って……」
「ンン?何カ言ッタカイ??」
……怖。え、真面目に怖い。これは絶対従わなきゃ殺されるやつだろ……しかも、何か俺の上司の顔と態度思い出しちゃったんだけど……
思い出すだけでも、背筋が凍りつき、寒気を感じる。あの圧倒的威圧感よ。俺は、はぁと心の奥底で息をついた。そして、いつもの癖で、変に弱気になってかしこまってしまう。
「い、いえ……何も……」
「お父さん……!!」
「……ム?」
「……晋太さんは、何も悪くないでしょ……?そうやって、またすぐ人に当たって……ほんと……もうちょっと冷静さを保てば……?晋太さんは、晋太さんなりのペースがあって、ここあたし達の家じゃないでしょ……?黙ってようよ……」
月琉はお母さんのように、淡々と怒りをぶつけていた。いや、でもただ単に愚痴ってるだけかもしれないけど。
……どっちにしろ、この二人は怒らせてはいけないってのは分かった……
「……アァ……晋太……?トヤラ、悪カッタ。変二当タッテシマッテ……ナ……」
それっきり、目玉は口を開かなくなった。むしろ、どこか落ち込み気味で、縮こまっている。月琉はふんと鼻で息を吐いている。満足……でもしたのだろうか。アイは、怒られた目玉を見ては、月琉を見ての交互の繰り返しだった。俺は「大丈夫ですよ」と落ち着いて言い、ははと軽く笑った。
「……では、片付けをしようか」
全員に声をかけた。アイは「……分カッタヨ」と、気だるげに憂鬱そうに言った。もう、やりたくないですオーラに満ち溢れている。と月琉は「はい」ときっちり言った。やる気があるようでよかった。目玉は「……アァ」とまだ気持ちが沈んでいる様子。そんなにダメージが残るものなのか……まぁ、片付けしている内にでも気持ちを立て直せれればいい。
……よっしゃー、俺も頑張るかぁ……
改めて見る、この家の有様。俺も若干アイの気持ちが分かる気がする。やる気がなくなって、力が抜け落ちていく気がする。……まぁ、それでも片付けなきゃいけないんだけどな……
よし、片付け開始だ。
「随分棒読みだな……これが大惨事の後だよ。こりゃ、片付けが大変なことになりそうだな」
俺らは何とか、家に着いた。これまでどれだけ道に迷ったことか……もう、疲れ果てていた。俺はふと、後ろを振り返った。ぽつんと月琉が立っていた。大事そうに寝ている目玉を抱えている。その手は嬉しいのか、悲しいのか分からないが、ふるふると震えていた。
俺と目が合った。月琉は「ごめんなさい……」と小声で、少し俯いて喋った。そして、その後に「あたしもちゃんと手伝うから……」と目線を上にし、見上げて、そう付け足した。
「……別に、怒ってないから大丈夫だよ。じゃあ、一緒に片付けるか」
「……はい!」
「あ、アイ。お前もな」
「エェ~……オレハ晋太ノコト運ンデ疲レテルンダケドナァァァ~?」
「疲れてるのはみんな同じだ」
「……ジャア、コイツハ?」
とアイが目線を送ったのは、月琉の抱えている目玉だった。すると、その声が聞こえたのか、月琉の腕に抱えられている目玉が、ゆっくりと開いた。中から、とろりと微睡みを帯びた、深緑の瞳が露になった。どこかのお偉いさんのように、静かにどっしりと構えていた。
「……ワタシモ手伝ウヨ」
喋った!?
変な声が出るところだった。
俺は瞬時に後ろに振り向いた。アイも目を見開いている。それに、月琉も少々驚きのようだ。「お父さん……!?」とびっくりしたような声を上げている。でも、その声はどこか冷静さがあった。
俺はなぜか小声で月琉に聞いてみる。
「……なぁ、月琉。さっきの声って……」
「……うん、お父さんの声……でも、滅多に聞けないんだよ……」
月琉の声もつられて小さくなる。滅多に聞けないってことは、声を発するのは、珍しいってことなのか。うちのアイはめっちゃ喋ってくるけど……
俺はちらりと目玉の方を見る。すると、するりと腕から抜け出した。月琉の目玉を抱えている腕がからっぽになった。月琉はちょっと焦り気味で、「あっ……」と声を出し、捕まえようと腕を伸ばした。だが、それをすっと軽やかな動きでかわした。同時に、月琉は手をパン!と大きく打った。「あぁ……」と弱々しく、悲しげな声をため息と一緒に吐き出した。
目玉は、深緑の瞳を露わにして、にんまりと笑い、言う。
「サァ、サッサト片付ケヨウジャナイカ」
「えっ……何で急に仕切って……」
「ンン?何カ言ッタカイ??」
……怖。え、真面目に怖い。これは絶対従わなきゃ殺されるやつだろ……しかも、何か俺の上司の顔と態度思い出しちゃったんだけど……
思い出すだけでも、背筋が凍りつき、寒気を感じる。あの圧倒的威圧感よ。俺は、はぁと心の奥底で息をついた。そして、いつもの癖で、変に弱気になってかしこまってしまう。
「い、いえ……何も……」
「お父さん……!!」
「……ム?」
「……晋太さんは、何も悪くないでしょ……?そうやって、またすぐ人に当たって……ほんと……もうちょっと冷静さを保てば……?晋太さんは、晋太さんなりのペースがあって、ここあたし達の家じゃないでしょ……?黙ってようよ……」
月琉はお母さんのように、淡々と怒りをぶつけていた。いや、でもただ単に愚痴ってるだけかもしれないけど。
……どっちにしろ、この二人は怒らせてはいけないってのは分かった……
「……アァ……晋太……?トヤラ、悪カッタ。変二当タッテシマッテ……ナ……」
それっきり、目玉は口を開かなくなった。むしろ、どこか落ち込み気味で、縮こまっている。月琉はふんと鼻で息を吐いている。満足……でもしたのだろうか。アイは、怒られた目玉を見ては、月琉を見ての交互の繰り返しだった。俺は「大丈夫ですよ」と落ち着いて言い、ははと軽く笑った。
「……では、片付けをしようか」
全員に声をかけた。アイは「……分カッタヨ」と、気だるげに憂鬱そうに言った。もう、やりたくないですオーラに満ち溢れている。と月琉は「はい」ときっちり言った。やる気があるようでよかった。目玉は「……アァ」とまだ気持ちが沈んでいる様子。そんなにダメージが残るものなのか……まぁ、片付けしている内にでも気持ちを立て直せれればいい。
……よっしゃー、俺も頑張るかぁ……
改めて見る、この家の有様。俺も若干アイの気持ちが分かる気がする。やる気がなくなって、力が抜け落ちていく気がする。……まぁ、それでも片付けなきゃいけないんだけどな……
よし、片付け開始だ。
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