Passing 〜僕達の「好き」〜

*花*

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❽過去

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その日の帰りは1人になってしまった。でも、今日は部活がないから、一応空はまだ明るかった。いつもなら、真っ暗な夜道を歩いている。街灯はぼちぼちとしかついてなくて、何となく不気味で不安な感じがするけど、昊明がいてくれるから安心して帰れた。明るいだけまだマシだけど、やっぱり心細い。あの出来事以来、僕と昊明は全然話が出来ていなかった。いつもなら「一緒に帰ろ」と一言声をかけてくれるのだが、この日ばかりは何も言ってくれなかった。

……何か、久しぶりだな。ひとりぼっちで帰るの。どっちかが委員会とか部活とかで遅くなっても、必ず待ってたからなぁ。それが当たり前だった。
……静かだなぁ。

はぁ、とひとつため息をついた。

あんなところでつまづいてなければ、今日も一緒に帰れてたのに。……本当に馬鹿だなぁ、僕……

とぼとぼと1人寂しく歩いていると、後ろから、何だか妙な気配を感じた。

……何か、いる。ついてきている――

僕は歩くスピードを少し速めた。得体の知れない「何か」から逃げるように。ただひたすらに早歩きをした。でも、まだぞろぞろとついてきていた。嫌だ、怖い、ついてこないで、そんな感情が次々と湧き上がってくる。
大きな声で、唸るように吠えてくる犬がいる家、子供たちが集う公園、小型スーパーやコンビニ……様々な場所を通り過ぎていった。もうすっかり学校から離れ、僕の家が近づいてきている。

あともう少し……もう少しだ……!!

僕は力を振り絞り、前へ前へと足を進めた。家の屋根の一部が見えてくる。「よし、やっと、これで家に帰れる」とほっとひと安心した時だった。

っ――!?

突然、後ろに強い衝撃が走った。何者かに腕を掴まれた。「へへっ……つーかまーえたっ……」と気色悪い声が僕のすぐ近くで聞こえたとともに、さらに後ろの方からわらわらと人が集まってきた。僕は一刻も早く逃げたいと思い、腕を力ずくで振った。けど、その人はなかなかの怪力で、全然腕が動かなかった。「離して」と言いたかったが、僕の悪い性格が出て、何も言い出せなかった。

「ちょっとあっちに行こうか」

と腕を掴んでいるやつが言った。僕は恐怖に怯えながら、後ろを振り返った。
見た目的に、高校生ぐらいの人だろうか。制服らしきものを着ているし。その顔は妙に怪しい色を含み、微笑んでいた。それから背を向け、僕はそのまま引っ張られるようにして、彼らの歩いている方へ行った。


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