Passing 〜僕達の「好き」〜

*花*

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❿過去 ※血 表現注意

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僕は咄嗟に、ぎゅっと目を瞑った。

…………
……?

……何も感じない。痛く……ない。日に当たってキラキラと輝いていた、あんな歯切れの良さそうな刃物でやられたら、ひとたまりもないと思うのに。僕はゆっくりと瞼を開けてみる。

誰か……いる……?

ぼんやりとした視界でも、人の形をかたどっているのが分かる。だんだんとピントが合ってきて、視界も一切の不純物もなく、クリアになった。そして、人の形をはっきりとした目で捉える。その瞬間、ハッと息を飲んだ。
それは、僕にとってはとても嫌なことで。不可解なことであって。夢であって欲しいことを願うばかりの現実が、そこに広がっていた。

僕の身を守るようにして、手を大きく広げている男の人。そして、その人の服装は、僕と一緒の中学校の制服だった。
その後ろにいる、「あっ……あっ……」と怯えた声を出して、挙動不審になって慌てているあの男。ナイフは……深紅の血に塗れていた。

「……嘘……で……しょ」

ずりっ、と手を後ろに下げる。カタカタと自分でも手が震えているのが分かる。
その人の顔はなるべく、いや、とても見たくなかった。だって、見てしまうと泣いてしまうから――

「……昊明……!」

僕は息を吐いたと共に、蚊の鳴くようなか細い声で言った。今にも泣きそうで、震えている声。すると昊明は、ふっと口元に笑みを浮かべた。でもそれは、無理をしていたとすぐに気づいた。瞬時に激しい痛みが襲ってきたのか、苦悶の表情を浮かべた。そして、そのまま前のめりになって、僕にもたれ掛かるようにして倒れた。背中には、さっきやつが刺したであろう、痛々しい傷跡が深々と刻まれていた。そして、じわじわと広がっていき、みるみるうちに血染めの制服が出来上がった。

「あっ、あぁぁ……っ……こう……めい……昊明っ……」

僕はただただ名前を呼び、嗚咽を漏らすことしか出来なかった。すると、ぴくりと昊明の手が動き、そっと僕の頭を触った。そして、今にも消えてしまいそうなほど弱々しく、絶え絶えの言葉で、話しかけてきた。

「よ、かった……白、兎が無事で……」
「……何で飛び込んできたのさ……何で僕がこんな目にあってるって知ってるんだよ……僕なんかのために、来なくたってよかったのに……」

僕は喉から込み上げてくる何かを必死にせき止めながら呟いた。目を伏せる。唇を強く噛み締める。何もしれあげられない僕の無力さに、完全に絶望しきっていた。見ているだけ、ただひたすらに見つめているだけ。

本当にごめん。…………ごめんなさい、昊明――

昊明はひゅー、ひゅーと喉を鳴らしながら息を吸っては、吐いていた。たまにぜえぜえと荒い呼吸にも変わった。そんな中で、昊明はまた何かを言おうと、口をパクパク動かしていた。そして、さっきよりも一際大きな声で発言した。

「……大切だから……」
「……え?」
「白兎のこと……誰よりも大切、だから……」

そう言うと、昊明は伝えたいことを伝えられて、安心しきったのか、ふっと目を閉じた。意識を失ってしまったのか、その後は何も喋らなくなってしまった。それでも、傷跡から溢れ出てくる生暖かい血は、どくどくととめどなく出続けていた。

自分の中のが、ぷつんと切れた。

「うっ……うわああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

僕は今までにないくらい、腹の底から思いっ切り大声を出した。それとほぼ同時に、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。何だかもう、どうでもよくなった。遠くの景色なんて滲んでぼやけて全然見えなかった。あの男の姿も、仲間の姿も何もかも見えなかった。

……死んじゃ嫌だ……嫌だよ…………ねぇ、昊明……昊明……!!

必死になって、心の中で名前を呼び続けた。死なないで、と願っていた。その時だった。

「ッ!」

自分の左の脇腹に、酷く鋭い痛みが走った。ズキズキズキズキと激しく騒ぎ立てる。電流が走っているようにビリビリとした痛みもそこにあった。急いで僕は片手で脇腹を触った。すると、ぬるりとした液体が手についた。それを見て、ゾッと背筋が凍った。

…………血?僕……の?

そこで、痛みに耐えきれなくなったのか、今起こったことの衝撃が強かったのか、分からないが、僕の意識がふっと途切れ、瞼が下がった――
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