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25話
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「魔石は、導士が星の魔力を抽出して石に固めたものだ。込められた魔力の強さにより、等級が一から十まで分けられる。それは一級魔石。かなり希少なものだよ」
「えっ! そう言われると緊張しちゃうんだけど」
途端に掌が汗を滲ませ、余計に滑り落としそうになってしまう。
「市民にとっては、ね。王族に名を連ねればそんくらいすぐ手に入るし、あんまり意識しないで大丈夫」
「サディがそういうなら、そうなのか……な」
「そうそう」
当然のごとく玲奈の実家は平凡な中流家庭であり、金銭感覚は慎ましいものだ。王族であるサディとは恐らく大きなズレがある。が、サディは気にした風もなく、話を続ける。
「魔石の媒介による魔術は、できることが限られている。自分の身体能力の強化と、近くにある物質を操ったり、変化させたりする作用のみ」
「へえ……でも、体を強化できるって凄そうだけどなあ」
「勿論、使い方によっては強力な武器になる。まずレナは、基礎をしっかり身につけて」
「分かった」
追手から逃げた道中を思い出す。身体能力の強化ができるにこしたことはない。
「私を追っていた兵たちも、魔石を使ってたの?」
「いや、魔石はそう贅沢に使えるものではないからね。戦争となれば使わざるを得ないけど、女の子一人追うためには使わないだろうね」
確かに、兵や路地裏のチンピラたちも、人並み外れた速さや力はなかった。
「市民に魔石は広まってないの?」
「流通はしてる。けど、この国は年々重税が進んでいる。日常生活に精一杯で、魔石を買えるのは貴族層が中心だ。用心棒代わりにね」
「ふーん……」
サディは玲奈が納得したのを見て話を戻す。
「魔石を使っても自分以外の生命体には作用できない。一方、導士は他者へ力を及ぼすこともできるし、動物を操る、治癒、幻影を見せるなどできることは多い。ただ、大きな作用にはそれだけ膨大な魔力量がいる」
「導士も、魔術を使い放題できるわけじゃないってこと?」
「そう。そこで出てくるのが、禁制魔術」
「昨日も言ってたやつね」
玲奈はその名前が出ても、もう驚嘆を顕にはしない。魔術の説明の中に、その話も出てくるだろうと目星はついていた。
サディは頷き、続けた。
「魔術の効果を増強させようと、熱心に研究と発展に取り組んだ時代があった。術者の体に重い負担がかかり、使用禁止指定されたものを禁制魔術とよんでる。特に危険視されたのが人、時、空間を操るもの」
(人、時、空間……)
「……私を別の世界に送ったり、戻したりしたのも禁制魔術?」
「いや、あれはまた違う枠組みだ。天穹魔術っていってね」
「天穹魔術?」
「人を異界へ飛ばす。危険度は禁制魔術と同等、もしくはそれ以上……。だが、国はこれを認めている。理由は二つ」
サディは指を一つ折る。
「天穹魔術は、星の魔力で起こす。術には複数の導士が必要になるが、彼らは魔力を供給するためでなく、星の魔力を対象へ移転させるためにいる。つまり、過度な魔力を使って、術者の身に危険が及ぶことはない」
「私を元の世界に戻すには、導士が十人必要と言ってたけど、彼らの能力自体は関係ないってことね。それなら導士以外でもできるんじゃないの?」
「それは無理。導士は自身の体内から魔力を生成でき、魔力回路を持つ。その回路がなければ、星の魔力移転はなされない」
「……そっか」
玲奈は残念に思いながら、頷いた。サディはまた一つ指を折った。
「そして二つ目の理由――国家に有用だから」
その言葉で、大凡の検討はついた。
「国を滅ぼすらしい子供を、別の世界に飛ばすとかね」
「そういうこと。レナをあのまま幽閉していれば、国は荒れただろうね。宣告のことは貴族たちまでしか明かされてなかったけど、事実、諸外国の権力者たちにはすぐ知れ渡った。国に恨みを持つ者。国外から、きみを誘拐し、国家転覆に利用しようと目論む連中は山のようにいただろう」
サディは最後に「俺もその一人ですが」と茶化した。玲奈の育った場所へ飛ばされたのは、祖父の嘆願のおかげと言っていたが、異界に送ることは既定路線だったのかもしれない。
「あの……自分で聞くのもおかしな感じだけど、私、なんですぐに殺されなかったの? 生かしておいていいことないよね?」
「レナを殺すのは十八の成年になってからと王制審--国の中枢での話し合いで定められた。あの判決を最終的に下すのは、貴類だ」
「き……? なんて?」
「貴類。獣の型をとっていて、膨大な魔力を持つ。人の上位存在として崇められている」
(獣……ライオンとか、鳥とか動物の姿ってこと?)
「それが喋るの?」
「人語は話さないけど、導士とは意思の疎通が取れる。貴類の意思をもとに、判決が下される」
「……私を破滅の子だと予言したのは、その貴類っていう生き物ってこと」
「正確に言えば、宣告は、貴類の意思を介して、神殿が下す。導士の本拠地だ」
(導士の? でも、私が帰るには、導士が十人は必要……)
玲奈は青ざめた。サディはその様子を目に入れながらも、事実を伝える。
「宣告を曲げることは、導士の威信に関わる。貴類の意思を伝える事に失敗したとみなされるからだ。国は導士なしで武力を保てず、宣告を否定して導士を敵にまわすことなどあり得ない。導士は国に保護され、権力と庇護の恩恵を受ける」
「じゃあ……私を帰してくれる協力なんて……」
「だからこそ、レナは宣告通り、この国を滅ぼさなければならない。宣告が正しかったことの証明をし、その上で新たな国の王とならなければ、導士を従わせることはできない」
サディは真剣な顔で玲奈へ訴える。話を聞いた玲奈は、未来のことではなく、過去へ想いを馳せた。
(宣告をするのは、導士が仕える神殿。お母さんも、導士だった……お母さんの仲間が、宣告を……)
同じ仲間たちに、産まれたばかりの我が子が罪人となることを告げられた母の心労を思うと、いたたまれなかった。そして、記憶の中の母を思う。生き残って、と涙を浮かべ、やりきれなさを滲ませる母。サディの言うままに、国を滅ぼすことが正しいのかは、分からない。大きな悲劇を巻き起こし、後悔する時が来るかもしれない。
(……それでも私は、帰りたい。お母さんのためにも、生きたい)
自身の寿命すら差し出して玲奈を生かしたいと願った、こちらの母の想いに、答えたい。そう思う玲奈には、目の前に垂らされた金の糸に縋ることしか、できなかった。
「えっ! そう言われると緊張しちゃうんだけど」
途端に掌が汗を滲ませ、余計に滑り落としそうになってしまう。
「市民にとっては、ね。王族に名を連ねればそんくらいすぐ手に入るし、あんまり意識しないで大丈夫」
「サディがそういうなら、そうなのか……な」
「そうそう」
当然のごとく玲奈の実家は平凡な中流家庭であり、金銭感覚は慎ましいものだ。王族であるサディとは恐らく大きなズレがある。が、サディは気にした風もなく、話を続ける。
「魔石の媒介による魔術は、できることが限られている。自分の身体能力の強化と、近くにある物質を操ったり、変化させたりする作用のみ」
「へえ……でも、体を強化できるって凄そうだけどなあ」
「勿論、使い方によっては強力な武器になる。まずレナは、基礎をしっかり身につけて」
「分かった」
追手から逃げた道中を思い出す。身体能力の強化ができるにこしたことはない。
「私を追っていた兵たちも、魔石を使ってたの?」
「いや、魔石はそう贅沢に使えるものではないからね。戦争となれば使わざるを得ないけど、女の子一人追うためには使わないだろうね」
確かに、兵や路地裏のチンピラたちも、人並み外れた速さや力はなかった。
「市民に魔石は広まってないの?」
「流通はしてる。けど、この国は年々重税が進んでいる。日常生活に精一杯で、魔石を買えるのは貴族層が中心だ。用心棒代わりにね」
「ふーん……」
サディは玲奈が納得したのを見て話を戻す。
「魔石を使っても自分以外の生命体には作用できない。一方、導士は他者へ力を及ぼすこともできるし、動物を操る、治癒、幻影を見せるなどできることは多い。ただ、大きな作用にはそれだけ膨大な魔力量がいる」
「導士も、魔術を使い放題できるわけじゃないってこと?」
「そう。そこで出てくるのが、禁制魔術」
「昨日も言ってたやつね」
玲奈はその名前が出ても、もう驚嘆を顕にはしない。魔術の説明の中に、その話も出てくるだろうと目星はついていた。
サディは頷き、続けた。
「魔術の効果を増強させようと、熱心に研究と発展に取り組んだ時代があった。術者の体に重い負担がかかり、使用禁止指定されたものを禁制魔術とよんでる。特に危険視されたのが人、時、空間を操るもの」
(人、時、空間……)
「……私を別の世界に送ったり、戻したりしたのも禁制魔術?」
「いや、あれはまた違う枠組みだ。天穹魔術っていってね」
「天穹魔術?」
「人を異界へ飛ばす。危険度は禁制魔術と同等、もしくはそれ以上……。だが、国はこれを認めている。理由は二つ」
サディは指を一つ折る。
「天穹魔術は、星の魔力で起こす。術には複数の導士が必要になるが、彼らは魔力を供給するためでなく、星の魔力を対象へ移転させるためにいる。つまり、過度な魔力を使って、術者の身に危険が及ぶことはない」
「私を元の世界に戻すには、導士が十人必要と言ってたけど、彼らの能力自体は関係ないってことね。それなら導士以外でもできるんじゃないの?」
「それは無理。導士は自身の体内から魔力を生成でき、魔力回路を持つ。その回路がなければ、星の魔力移転はなされない」
「……そっか」
玲奈は残念に思いながら、頷いた。サディはまた一つ指を折った。
「そして二つ目の理由――国家に有用だから」
その言葉で、大凡の検討はついた。
「国を滅ぼすらしい子供を、別の世界に飛ばすとかね」
「そういうこと。レナをあのまま幽閉していれば、国は荒れただろうね。宣告のことは貴族たちまでしか明かされてなかったけど、事実、諸外国の権力者たちにはすぐ知れ渡った。国に恨みを持つ者。国外から、きみを誘拐し、国家転覆に利用しようと目論む連中は山のようにいただろう」
サディは最後に「俺もその一人ですが」と茶化した。玲奈の育った場所へ飛ばされたのは、祖父の嘆願のおかげと言っていたが、異界に送ることは既定路線だったのかもしれない。
「あの……自分で聞くのもおかしな感じだけど、私、なんですぐに殺されなかったの? 生かしておいていいことないよね?」
「レナを殺すのは十八の成年になってからと王制審--国の中枢での話し合いで定められた。あの判決を最終的に下すのは、貴類だ」
「き……? なんて?」
「貴類。獣の型をとっていて、膨大な魔力を持つ。人の上位存在として崇められている」
(獣……ライオンとか、鳥とか動物の姿ってこと?)
「それが喋るの?」
「人語は話さないけど、導士とは意思の疎通が取れる。貴類の意思をもとに、判決が下される」
「……私を破滅の子だと予言したのは、その貴類っていう生き物ってこと」
「正確に言えば、宣告は、貴類の意思を介して、神殿が下す。導士の本拠地だ」
(導士の? でも、私が帰るには、導士が十人は必要……)
玲奈は青ざめた。サディはその様子を目に入れながらも、事実を伝える。
「宣告を曲げることは、導士の威信に関わる。貴類の意思を伝える事に失敗したとみなされるからだ。国は導士なしで武力を保てず、宣告を否定して導士を敵にまわすことなどあり得ない。導士は国に保護され、権力と庇護の恩恵を受ける」
「じゃあ……私を帰してくれる協力なんて……」
「だからこそ、レナは宣告通り、この国を滅ぼさなければならない。宣告が正しかったことの証明をし、その上で新たな国の王とならなければ、導士を従わせることはできない」
サディは真剣な顔で玲奈へ訴える。話を聞いた玲奈は、未来のことではなく、過去へ想いを馳せた。
(宣告をするのは、導士が仕える神殿。お母さんも、導士だった……お母さんの仲間が、宣告を……)
同じ仲間たちに、産まれたばかりの我が子が罪人となることを告げられた母の心労を思うと、いたたまれなかった。そして、記憶の中の母を思う。生き残って、と涙を浮かべ、やりきれなさを滲ませる母。サディの言うままに、国を滅ぼすことが正しいのかは、分からない。大きな悲劇を巻き起こし、後悔する時が来るかもしれない。
(……それでも私は、帰りたい。お母さんのためにも、生きたい)
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