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悲嘆
影の気配からはじまる
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巨大な夢魔の身体が、黒い石畳の道からすべて消える。辺りは、わずかに残った黒い塵がただようだけになった。
ラトスは、背負っていたメリーに声をかける。
彼女は、元気な声で返事した。もう歩けそうですと言って、ラトスの服を強く引っ張る。
「ああ……。恥ずかしかったです。本当に」
メリーの身体を固定していた長い布を外すと、彼女はふらつきながらも何とか自分の両足で立ってみせた。
「俺も身体が軽くなって何よりだ」
「……重くて済みませんでしたね」
メリーは強く言い返すことができず、困った表情でラトスの顔をのぞきこんだ。本当の荷物になっていた自覚があったのだ。ラトスは彼女から顔をそむけると、二振りの短剣を腰の鞘に納めた。ゆっくりと、身体を屈伸させる。
妙に身体が軽い。
どうしたのだろうかと、ラトスは自身の両手を見ながら考えた。
祓いの力を使いすぎて、戦いの途中、短剣をにぎるのにも苦労していたのだ。特に長く休んだわけでもない。メリーとセウラザは気だるげにしているので、自分だけ回復しているのは変な気がした。
左手の指先は、まだ少し黒かった。こすったりしてみたが、汚れているわけではないらしい。血豆ができて固まったのかとも思ったが、そういうわけでもない。だが、怪我と言われれば、怪我に見えなくもなかった。
戦っている最中に見えた、黒い靄のせいだろうか。
あの直後から、ラトスの身体は軽くなったような気がしていた。だが生き物のようにうごめいていた黒い靄は、今はもう見当たらない。指先の黒い血豆のようなものが、黒い靄の一部なのだろうか。そう考えて何度か突いたりしてみたが、普通の肌の感触と変わらなかった。
ラトスはしばらく考えたが、結局自分ひとり元気になった理由は分からなかった。
「ボク、今、すっごく感動してるよ!」
ぐったりとしているメリーの隣で、ペルゥが身体をこまかくふるわせて声をあげた。
「お前。そういえば、どこにいたんだ」
「え。ボク? ずっとラトスの背中にいたよ?」
「なんだって?」
「ずっと、ラトスの背中にいたよ?」
「いや。聞こえなかったわけじゃない。つまり、なんだ。お前ずっと休んでたのか」
「それは聞こえが悪いよ! ちゃんとメリーの傍にいたんだよ」
ペルゥは胸を張るように言うと、メリーに身体をすりつけながら可愛い鳴き声をひびかせた。それを見て、メリーは嬉しくなったらしい。すり寄るペルゥを優しく抱きしめた。
「……ああ。……そう」
メリーとペルゥがじゃれあいはじめるのを見て、ラトスは何も言えなくなった。
ただ、戦っている最中、背中にいるメリーの様子は全く分からなかった。ペルゥがずっと様子を見ていてくれたのなら、助けになったと言えなくもない。もしもメリーが危なくなっていたら、すぐに教えてくれていただろう。
ラトスが息を吐くと、ペルゥは、メリーの腕の中でニヤリとした。
目を輝かせているペルゥの顔を見ると、礼を言うのも癪に障る。ラトスは、ペルゥを見ながら傷のある頬を引きつらせてみせるにとどめた。
「でも、悪徳をやっちゃうなんてね。まあ、本物かどうかは分からないけどー」
頬を引きつらせているラトスを見て、ペルゥは面白そうに笑いながら言った。
「そういえば、さっきも本物じゃないかもと言っていたな」
「そうだよ。こんなところに、あんな大きいのは、普段いないからね」
ペルゥはうなずきながら言うと、小さな前足で宙に絵をえがきはじめた。
その絵は雑で伝わりづらかったが、ペルゥの分かりづらい説明を同時に聞くと、何となく意味は分かった。
今立っているこの悪夢の回廊は、浅い階層であるらしい。
浅い階層には、不確かな負の感情が入り混じっているという。そうすると、小さく、弱い夢魔ばかりが生まれるらしい。対して、深い階層の悪夢の回廊には、強く明確に悪とされている負の感情が集まりやすい。すると、大きく、強い夢魔が生まれるということだった。
「あんなのがたくさんいる場所があるのか……」
「あるんだよー。行けないけどね」
「行けない?」
「そう。外から封印されてるから」
悪夢の回廊の最深部は、外からの封印によって内側からは絶対に開けられないとペルゥは胸を張って説明した。自分が封印したわけではないだろうとラトスは思ったが、黙っておいた。
内側から封印を破れないのだとしたら、先ほどの大きな夢魔がここにいないはずだというのは納得できる。封印が破れたりしたのではないかとペルゥに言ってみたが、ペルゥは、それは絶対にありえないと断言した。
「考えても仕方ないな」
「まあねー」
「とにかく、少し休んだら、進もう。セウラザも休んでくれよ」
「助かる」
セウラザは即答すると、大剣を杖代わりにして姿勢を崩した。
よほど疲れたのだろう。いつもの銅像のような姿は、そこに無かった。その隣で、メリーも崩れるようにして、黒い石畳に腰を下ろした。
崩れ落ちたメリーは、まだ立っているラトスを不思議そうに見あげる。休まないのですかと尋ねてきたが、ラトスは片手をあげて断った。周囲を警戒する役割も必要なのだ。
悲嘆の夢魔が消えてから、辺りは今までにないほど静かになった。
宙を飛びながらこちらの様子を見つづけている夢魔が数匹いるだけで、黒い石畳の前後には夢魔の影ひとつない。悲嘆の夢魔の周りに集まっていた小さな夢魔もいくらかは倒せなかったはずだが、今は一匹も飛んでいなかった。
これならば、少しは休めるだろう。
ラトスは周囲を警戒しつつも、両足を少し広げて立ち、身体の緊張をぬいた。
そこに、ふわふわとペルゥが飛んできた。
「ラトスは疲れてないの?」
「ああ。割と調子がいい」
「それは良かった!」
明るい声で笑いながらペルゥは言うと、ラトスの肩に飛び降りて、小さく伸びをした。
「お前はどうなんだ」
「ボク?」
「俺の背中でさんざん身体を揺らされていたわりには、メリーの調子はそんなに悪くなさそうだ。メリーにだけ、何かやってたんだろう?」
「あっははー! 察しがいいね。まあ、ちょっとだけね」
ペルゥは小さな舌をぺろりとだして、片目を閉じてみせる。
この猫のような獣は、外見と違って、ずいぶんと賢しいやつだ。戦えないと言いつつも、夢魔の攻撃はすべて避けている。魔法などというものの知識もあるようだから、最悪、自分自身の防御だけは魔法で何とかしているかもしれない。
表立って味方のような行動は取れないのかもしれないと、ラトスは思った。
ペルゥは、出会ったその時から、何か目的があって行動している。それが自分の意志なのか、自分以外の何者かの意志かは分からない。表向きは一貫して、案内人の範疇で務めている。
ラトスの背にいたメリーにだけ何らかの助けをほどこしていたのは、きっとその時だけ彼女が非戦闘員だったからだ。防御まではしないが、不安定な状態を補助するだけなら、自分の役割を越えないと判断したのかもしれない。
「友達、だもんな」
ラトスは察して、言葉を選んでみせた。
ペルゥはラトスの言葉に反応して、驚いた表情をした。しかしすぐに笑顔になって、そうだよと返事してみせた。
それからしばらく、三人と一匹は、その場で休んだ。
今は辺りに夢魔がいないが、進んでいけば、また夢魔におそわれるかもしれないのだ。とにかく武器をふり回すだけの力はもどさないと、小さな夢魔にすら勝てはしない。
せめてセウラザだけでも戦えるようになれば、メリーを背負って動ける。そう思っていたが、先に回復したのはメリーのほうだった。
セウラザは、身に着けている破損した甲冑と同様に、身体も負傷していたようだった。
剣身を分裂させて戦いつづけるのも、ペルゥの説明を聞くかぎりでは、相当に負担があるらしい。無表情なまま休んではいるが、セウラザもラトスと同じく、ぎりぎりの攻防をつづけていたのだと分かった。
「そろそろ、進んだほうがいい」
自身の様子をラトスがうかがっていることに気付いて、セウラザは無表情に言った。
「行けるのか?」
「走ることはできる。戦うことになったら、メリーを頼るとしよう」
「わ、私ですか?」
予想外の言葉だったのか、メリーは驚いて、セウラザにふり返った。
「メリーなら、もう十分に戦力になるだろう」
「そうだな」
セウラザの言葉を受けてラトスはメリーの顔を見ると、特に悩んだ様子も見せずに即答した。
悲嘆の夢魔と戦っている時の最後のほうも、鳥のような夢魔と戦っている時も、メリーは適時状況判断してすぐに行動していた。拙い面はあるが、面倒を見ながら戦わなければならないことは減っている。十分な戦力になったと見ていいだろう。
「それなら、少しでも進もう」
「わ、わかりました……!」
セウラザに推され、ラトスもある程度認めてくれたのだと思い、メリーは少し嬉しくなった。
もちろん、ここで調子に乗るわけにはいかない。なにか余計な失敗してしまっては、状況は一転して全体を危機に陥れてしまう。メリーは喜びながらも、緊張感をもって、ラトスとセウラザにうなずいてみせた。
ラトスは、メリーがうなずいたのを見ると、軽く身体を屈伸させてから走りだした。
後を追うようにして、セウラザが走りだす。最後尾にメリーとペルゥが付いた。
黒い石畳の道は、今までと変わらず上下左右に伸びていた。
悲嘆の夢魔に近付いていたころに比べれば、圧迫感は無くなっている。身体もわずかに軽く感じた。
周囲は、今までどおり薄暗いだけの空間になっている。道の両端にならんでいる柱が光っているのか分からないほどの明るさを取りもどしていた。
夢魔の数も減っていて、おそいかかってくる様子もない。
これなら、しばらく大丈夫だ。走っているうちに、セウラザも回復するだろう。
ラトスは辺りを警戒しつつも、妙な安心感を抱いて走った。
そのためか、彼は気付かなかった。
他の二人と一匹も気付かなかった。
黒い石畳の道を走っている三人と一匹の様子を、遥か上空から見下ろしている影がいることに。
影は、しばらく彼らの様子を見ていた。やがて満足したかのように笑うと、煙のようにその場から消えるのだった。
ラトスは、背負っていたメリーに声をかける。
彼女は、元気な声で返事した。もう歩けそうですと言って、ラトスの服を強く引っ張る。
「ああ……。恥ずかしかったです。本当に」
メリーの身体を固定していた長い布を外すと、彼女はふらつきながらも何とか自分の両足で立ってみせた。
「俺も身体が軽くなって何よりだ」
「……重くて済みませんでしたね」
メリーは強く言い返すことができず、困った表情でラトスの顔をのぞきこんだ。本当の荷物になっていた自覚があったのだ。ラトスは彼女から顔をそむけると、二振りの短剣を腰の鞘に納めた。ゆっくりと、身体を屈伸させる。
妙に身体が軽い。
どうしたのだろうかと、ラトスは自身の両手を見ながら考えた。
祓いの力を使いすぎて、戦いの途中、短剣をにぎるのにも苦労していたのだ。特に長く休んだわけでもない。メリーとセウラザは気だるげにしているので、自分だけ回復しているのは変な気がした。
左手の指先は、まだ少し黒かった。こすったりしてみたが、汚れているわけではないらしい。血豆ができて固まったのかとも思ったが、そういうわけでもない。だが、怪我と言われれば、怪我に見えなくもなかった。
戦っている最中に見えた、黒い靄のせいだろうか。
あの直後から、ラトスの身体は軽くなったような気がしていた。だが生き物のようにうごめいていた黒い靄は、今はもう見当たらない。指先の黒い血豆のようなものが、黒い靄の一部なのだろうか。そう考えて何度か突いたりしてみたが、普通の肌の感触と変わらなかった。
ラトスはしばらく考えたが、結局自分ひとり元気になった理由は分からなかった。
「ボク、今、すっごく感動してるよ!」
ぐったりとしているメリーの隣で、ペルゥが身体をこまかくふるわせて声をあげた。
「お前。そういえば、どこにいたんだ」
「え。ボク? ずっとラトスの背中にいたよ?」
「なんだって?」
「ずっと、ラトスの背中にいたよ?」
「いや。聞こえなかったわけじゃない。つまり、なんだ。お前ずっと休んでたのか」
「それは聞こえが悪いよ! ちゃんとメリーの傍にいたんだよ」
ペルゥは胸を張るように言うと、メリーに身体をすりつけながら可愛い鳴き声をひびかせた。それを見て、メリーは嬉しくなったらしい。すり寄るペルゥを優しく抱きしめた。
「……ああ。……そう」
メリーとペルゥがじゃれあいはじめるのを見て、ラトスは何も言えなくなった。
ただ、戦っている最中、背中にいるメリーの様子は全く分からなかった。ペルゥがずっと様子を見ていてくれたのなら、助けになったと言えなくもない。もしもメリーが危なくなっていたら、すぐに教えてくれていただろう。
ラトスが息を吐くと、ペルゥは、メリーの腕の中でニヤリとした。
目を輝かせているペルゥの顔を見ると、礼を言うのも癪に障る。ラトスは、ペルゥを見ながら傷のある頬を引きつらせてみせるにとどめた。
「でも、悪徳をやっちゃうなんてね。まあ、本物かどうかは分からないけどー」
頬を引きつらせているラトスを見て、ペルゥは面白そうに笑いながら言った。
「そういえば、さっきも本物じゃないかもと言っていたな」
「そうだよ。こんなところに、あんな大きいのは、普段いないからね」
ペルゥはうなずきながら言うと、小さな前足で宙に絵をえがきはじめた。
その絵は雑で伝わりづらかったが、ペルゥの分かりづらい説明を同時に聞くと、何となく意味は分かった。
今立っているこの悪夢の回廊は、浅い階層であるらしい。
浅い階層には、不確かな負の感情が入り混じっているという。そうすると、小さく、弱い夢魔ばかりが生まれるらしい。対して、深い階層の悪夢の回廊には、強く明確に悪とされている負の感情が集まりやすい。すると、大きく、強い夢魔が生まれるということだった。
「あんなのがたくさんいる場所があるのか……」
「あるんだよー。行けないけどね」
「行けない?」
「そう。外から封印されてるから」
悪夢の回廊の最深部は、外からの封印によって内側からは絶対に開けられないとペルゥは胸を張って説明した。自分が封印したわけではないだろうとラトスは思ったが、黙っておいた。
内側から封印を破れないのだとしたら、先ほどの大きな夢魔がここにいないはずだというのは納得できる。封印が破れたりしたのではないかとペルゥに言ってみたが、ペルゥは、それは絶対にありえないと断言した。
「考えても仕方ないな」
「まあねー」
「とにかく、少し休んだら、進もう。セウラザも休んでくれよ」
「助かる」
セウラザは即答すると、大剣を杖代わりにして姿勢を崩した。
よほど疲れたのだろう。いつもの銅像のような姿は、そこに無かった。その隣で、メリーも崩れるようにして、黒い石畳に腰を下ろした。
崩れ落ちたメリーは、まだ立っているラトスを不思議そうに見あげる。休まないのですかと尋ねてきたが、ラトスは片手をあげて断った。周囲を警戒する役割も必要なのだ。
悲嘆の夢魔が消えてから、辺りは今までにないほど静かになった。
宙を飛びながらこちらの様子を見つづけている夢魔が数匹いるだけで、黒い石畳の前後には夢魔の影ひとつない。悲嘆の夢魔の周りに集まっていた小さな夢魔もいくらかは倒せなかったはずだが、今は一匹も飛んでいなかった。
これならば、少しは休めるだろう。
ラトスは周囲を警戒しつつも、両足を少し広げて立ち、身体の緊張をぬいた。
そこに、ふわふわとペルゥが飛んできた。
「ラトスは疲れてないの?」
「ああ。割と調子がいい」
「それは良かった!」
明るい声で笑いながらペルゥは言うと、ラトスの肩に飛び降りて、小さく伸びをした。
「お前はどうなんだ」
「ボク?」
「俺の背中でさんざん身体を揺らされていたわりには、メリーの調子はそんなに悪くなさそうだ。メリーにだけ、何かやってたんだろう?」
「あっははー! 察しがいいね。まあ、ちょっとだけね」
ペルゥは小さな舌をぺろりとだして、片目を閉じてみせる。
この猫のような獣は、外見と違って、ずいぶんと賢しいやつだ。戦えないと言いつつも、夢魔の攻撃はすべて避けている。魔法などというものの知識もあるようだから、最悪、自分自身の防御だけは魔法で何とかしているかもしれない。
表立って味方のような行動は取れないのかもしれないと、ラトスは思った。
ペルゥは、出会ったその時から、何か目的があって行動している。それが自分の意志なのか、自分以外の何者かの意志かは分からない。表向きは一貫して、案内人の範疇で務めている。
ラトスの背にいたメリーにだけ何らかの助けをほどこしていたのは、きっとその時だけ彼女が非戦闘員だったからだ。防御まではしないが、不安定な状態を補助するだけなら、自分の役割を越えないと判断したのかもしれない。
「友達、だもんな」
ラトスは察して、言葉を選んでみせた。
ペルゥはラトスの言葉に反応して、驚いた表情をした。しかしすぐに笑顔になって、そうだよと返事してみせた。
それからしばらく、三人と一匹は、その場で休んだ。
今は辺りに夢魔がいないが、進んでいけば、また夢魔におそわれるかもしれないのだ。とにかく武器をふり回すだけの力はもどさないと、小さな夢魔にすら勝てはしない。
せめてセウラザだけでも戦えるようになれば、メリーを背負って動ける。そう思っていたが、先に回復したのはメリーのほうだった。
セウラザは、身に着けている破損した甲冑と同様に、身体も負傷していたようだった。
剣身を分裂させて戦いつづけるのも、ペルゥの説明を聞くかぎりでは、相当に負担があるらしい。無表情なまま休んではいるが、セウラザもラトスと同じく、ぎりぎりの攻防をつづけていたのだと分かった。
「そろそろ、進んだほうがいい」
自身の様子をラトスがうかがっていることに気付いて、セウラザは無表情に言った。
「行けるのか?」
「走ることはできる。戦うことになったら、メリーを頼るとしよう」
「わ、私ですか?」
予想外の言葉だったのか、メリーは驚いて、セウラザにふり返った。
「メリーなら、もう十分に戦力になるだろう」
「そうだな」
セウラザの言葉を受けてラトスはメリーの顔を見ると、特に悩んだ様子も見せずに即答した。
悲嘆の夢魔と戦っている時の最後のほうも、鳥のような夢魔と戦っている時も、メリーは適時状況判断してすぐに行動していた。拙い面はあるが、面倒を見ながら戦わなければならないことは減っている。十分な戦力になったと見ていいだろう。
「それなら、少しでも進もう」
「わ、わかりました……!」
セウラザに推され、ラトスもある程度認めてくれたのだと思い、メリーは少し嬉しくなった。
もちろん、ここで調子に乗るわけにはいかない。なにか余計な失敗してしまっては、状況は一転して全体を危機に陥れてしまう。メリーは喜びながらも、緊張感をもって、ラトスとセウラザにうなずいてみせた。
ラトスは、メリーがうなずいたのを見ると、軽く身体を屈伸させてから走りだした。
後を追うようにして、セウラザが走りだす。最後尾にメリーとペルゥが付いた。
黒い石畳の道は、今までと変わらず上下左右に伸びていた。
悲嘆の夢魔に近付いていたころに比べれば、圧迫感は無くなっている。身体もわずかに軽く感じた。
周囲は、今までどおり薄暗いだけの空間になっている。道の両端にならんでいる柱が光っているのか分からないほどの明るさを取りもどしていた。
夢魔の数も減っていて、おそいかかってくる様子もない。
これなら、しばらく大丈夫だ。走っているうちに、セウラザも回復するだろう。
ラトスは辺りを警戒しつつも、妙な安心感を抱いて走った。
そのためか、彼は気付かなかった。
他の二人と一匹も気付かなかった。
黒い石畳の道を走っている三人と一匹の様子を、遥か上空から見下ろしている影がいることに。
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