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フィノア
抑圧からはじまる
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≪フィノア≫
なに? これ?
夢の世界なのに、その中でまた夢を見ているのだろうかと、白い髪の少女は思った。
全身の力がぬけると同時に、自分の身体から何かが這いでてくる。
それは、粘り気のある液体のようななにかだった。あまりの気持ち悪さに、取り除きたい気持ちでいっぱいになったが、身体に力が入らない。それどころか、手も足も自らの意思に反して、びくりびくりと大きくふるえ、跳ねていた。
白い髪の少女は、その場で膝から崩れ落ちた。身体から這いでてくる液体のようなものは、さらにあふれ、力を増していくようだった。
「フィノア! 大丈夫ですか!?」
異変に気付いた銀髪の少女が、フィノアと呼んだ白い髪の少女の元へあわてて近寄ってきた。
「……大丈夫、じゃない、かも」
「これは……いけません。まさか、こんなに早く……!?」
「セウラザ。お願い……、もう、抑えていられないわ」
フィノアは小さな身体をふるわせながら、ほそい腕をなんとか上げた。セウラザと呼んだ銀髪の少女に、手を伸ばす。
「分かりました。ごめんなさい、フィノア……。力が及ばなくて……」
セウラザは、伸びてきたフィノアのほそい手を取り、強くにぎった。フィノアはにぎられたその手のぬくもりに笑顔を返して、大丈夫と短く応えた。
「あとは、運に任せます。もしダメでも、これは報いですから」
そう言って、フィノアは自身の身体からあふれでたものを見た。
それは、フィノアの身体よりも少し大きい、黄土色の球体だった。球体からは木の蔓のようなものが無数に伸びている。そのうちのいくつかは、フィノアの手足と、頭に巻き付いていた。
黄土色の球体は、ふわりと浮きあがる。徐々に上昇しながら、さらに多くの蔓を吐きだし、少女の身体に巻き付けようとした。その瞬間、球体の背後から太い木の枝がおそいかかってきて、球体をつらぬいた。
木の枝を放ったのはセウラザだった。
セウラザは、自身の身体を大木に変化させていた。徐々に身体を大きくしていき、無数の枝を部屋全体に伸ばしていく。枝につらぬかれた黄土色の球体は、なんとか抵抗しようといくつも蔓を伸ばした。しかし、大木から飛びだしてくる太い枝に二度、三度と身体をつらぬかれ、ついには大きな窓の下の床におさえつけられた。
それでも球体は、フィノアの身体をとらえたままはなさなかった。
強い力でおさえつけられながらも、蔓を四方に伸ばし、何とかして浮きあがろうとする。
しかし、成長をつづける大木の枝にはかなわなかった。ついに、球体の下の床は砕け、階下へ落ちていく。
部屋に轟音がひびきわたり、やがて静かになった。
手足と頭を拘束されたままのフィノアは、階下に落ちていった球体を見下ろしてから、すぐに顔をあげた。
セウラザは、もういなかった。
大木が成長をつづけているのみで、部屋の壁と天井に太い枝が張っていく。
仕方がない。
これは報いだ。
フィノアは静かに目を閉じ、あの日のことを思い出しながら、意識も閉ざしていった。
私には、父がいました。
父は、聡明で力強く、誰よりも優しかった。
父は偉大でした。
大自然を切り開くように築かれた国、エイス王国の第十一代国王ペルフェトレ=グラナス=エイスザード。それが私の父でした。
父は、城内の臣下にも、城外の民にも慕われていました。
国を作りあげた初代国王の再来とも言われていました。
私は、国王としても父親としても尊敬していました。
いいえ。今でも尊敬しています。
でも、いつからでしょう。
父は何か病んでしまったようになりました。
時々、何かに悩んだような、苦しいような顔をしたかと思えば、突然無表情になってしまうのです。
声をかけても表情を変えずに、こちらを見るだけで何も話さなくなります。そうなると、執務中でも食事中でも就寝中でも、城の中を延々と歩き回ります。やがて疲れ切ったのか、気を失って倒れてしまうのです。
国中の、いいえ、世界中の名医を探しました。
けれど、彼らはみな、心の病のようだと口裏を合わせたかのように言うだけでした。一種の夢遊病のようなものだと。しっかりと心身ともに静養すれば治るでしょう、と。私たち家族と、一部の高官に伝えました。
医者の説明に、高官たちは納得したのかしていないのかは分かりませんでした。しかし、政治を止めることはできません。高官たちはなにかを話し合って、なにかを決め、それぞれの勤めにもどっていきました。
私たち家族は、たくさん泣きました。
母は、無表情の父の首を抱いて、大きな声をあげて泣きました。私も父の手を取って泣きました。
ついに父は、政務からはなれ、長期の静養を取ることになりました。
王が政務からはなれたことを知っているのは、家族と、一部の高官たちだけです。表向きは、国王は当然健在で、国に尽くしていることになっていました。
月日は流れ、父の世話に慣れてきた頃。
ある日突然、父は意識をしっかりと取りもどし、目を覚ましました。
久しぶりに目の輝きを取りもどした父は、とても疲れた顔でしたが、私たちを見て、少し笑ってくれました。その笑顔は疲労でゆがんでいたけれど、私にとって、忘れられない笑顔になりました。
それがきっと、本当の父の最後の日でした。
その日の夜、父は母となにかを話していました。私ははなれたところで、二人を見ていました。やがて父は私に気付いて、手招きをしてくれました。
「どうしたの。お父様」
父の近くまで来て膝をつくと、私は母の顔をのぞきこみました。母は父の顔を見て、とても泣いていました。その泣き顔は今まで見たことがないほど、苦痛に満ちた表情でした。
「すまないな……」
父はそう言うと、母と、私の頭をなでて、抱きしめてくれました。
抱きしめながら、父は涙を流していました。
その時の私は、父と母の涙の意味も、父がなにに対して謝ったのかも、分かっていませんでした。
私には、王としての務めがどのようなものか、あまり分かっていませんでした。
国のために、臣民のためになにかをして、全てが豊かになるように努めることだろうことはわかります。しかし、こまかなこと全ては、高官達が考えて、高官達が決めるようになっていきました。
王である父は、何もしなくなりました。
最後に目を覚まし、私たちと共に涙を流してくれた父は、次の日も目を覚ましましたが、もう私たちのことを覚えてはいませんでした。
何もできなくなった父は、在るだけの人になってしまいました。
寝ているとき以外は、常に無表情で、城内を歩き回っています。決して城外に出ないよう、数人の側近と兵士が、後ろから付いて回るようになりました。
やがて、変わり果てた父の様子に城内の者が慣れてきた頃。
いつもどおり城内を歩き回っていた父が、突然立ち止まりました。
そして周囲を見回し、後ろから付いて来る側近と兵士たちを見て、口を開きました。
『王が居るべき場所に、案内せよ』
側近と兵士たちは驚きました。彼らは互いに顔を見合わせて、いったい何が起こったのかと話し合いました。そしてついに王が正気を取りもどしたのだと喜び、すぐに声をあげて高官たちの元へ報告に行きました。
その話を私も聞いて、母の手を取って玉座の間に走っていきました。
玉座の間には、多くの人が集まっていました。
そのただ中に、王座に腰掛けている父の姿が見えました。父は王座に腰掛けながらうなだれていて顔は見えませんでしたが、それは間違いなく私の父で、私が尊敬する国王の姿でした。
その場に集まっていた者たちは、私と母の姿を見るとすぐに数歩下がって、父までの道を作ってくれました。
私と母は、父の足元に駆けていきました。
うなだれていた父は、私たちに気付き、顔をあげました。
その表情は、今までの無表情とは違っていて、目には意志の光が宿っていました。
私は元気になった父の顔を見て、呼び掛けました。
私の呼び掛けに応じた父は、私と母を見ました。
その瞬間、なぜだか、私は身体をふるわせました。
隣を見ると、母も身体をふるわせていて、今にも泣きだしそうでした。それがなぜなのか、私には分かりませんでした。今思い出してみても、その時の事はあまり思い出せません。ただ、元気になった父の姿だけが、はっきりと思い出せるのです。
その夜。
私は夢を見ました。
その夢はとても長くて、嬉しいような、悲しいような、苦しいような、恐ろしいような、そんな夢でした。でも、夢の内容は思い出せません。思い出そうとすると、色んな気持ちが湧きあがってきて、私の中からあふれだしてくるのです。あふれでた気持ちは、私をおおい尽くして、真っ暗な中に私を閉じ込めてしまうようでした。
次の日から、私は父に会うことはありませんでした。
母に会うこともありませんでした。
多くの人が、私の様子を代わる代わる見に来るようになりました。それがなぜだかは分かりませんでした。ですが、私はそのおかげで、家族に会うことができなくても、寂しくはなりませんでした。
もう、なにも寂しくはない。
なにも感じない。
いいえ。なにも感じないようになりたい。
このままずっと。
それから私は、深く、暗い、土の中で生きているような、不思議な感覚を持つようになりました。それは不快ではなく、まるで私の心に蓋をしてくれているような、優しい感覚でした。私は、それに心を委ねました。それが私を救ってくれていたからです。それ以外、私が私でいられる方法はないように思えました。
私はひとつの意思に心を預けました。
それが良いことか悪いことか、私は考えたくありませんでした。
「フィノア。良いのですか? あの占い師の言うことを鵜呑みにして」
メリーが不安そうにして私の顔をのぞきこみましたが、私は頭を横にふって、彼女の手を取りました。
「大丈夫よ。メリー。これが唯一の方法なの」
「でも、他にも方法があるはずです。みんなだって……」
「いいえ。メリー。これだけよ。父を救うには、これしかないわ」
私は確信を持ってうなずくと、メリーはしばらく考えていましたが、やがて彼女もうなずいてくれました。
木の蔓に手足と、頭を拘束されながら、フィノアの意識は徐々に遠のいていった。
これは報いだ。
父の謝罪と、母の涙の意味をしっかりと考えなかった私への報い。
城のみなと、友人の言葉を聞けなかった、報いなのだ。
部屋が崩れ落ちていく音がする。大きな木になったセウラザの枝が、部屋中に伸びていく音もする。
運に任せるとは言ったが、この絶望から救いあげてくれる者などいるだろうか。
なに? これ?
夢の世界なのに、その中でまた夢を見ているのだろうかと、白い髪の少女は思った。
全身の力がぬけると同時に、自分の身体から何かが這いでてくる。
それは、粘り気のある液体のようななにかだった。あまりの気持ち悪さに、取り除きたい気持ちでいっぱいになったが、身体に力が入らない。それどころか、手も足も自らの意思に反して、びくりびくりと大きくふるえ、跳ねていた。
白い髪の少女は、その場で膝から崩れ落ちた。身体から這いでてくる液体のようなものは、さらにあふれ、力を増していくようだった。
「フィノア! 大丈夫ですか!?」
異変に気付いた銀髪の少女が、フィノアと呼んだ白い髪の少女の元へあわてて近寄ってきた。
「……大丈夫、じゃない、かも」
「これは……いけません。まさか、こんなに早く……!?」
「セウラザ。お願い……、もう、抑えていられないわ」
フィノアは小さな身体をふるわせながら、ほそい腕をなんとか上げた。セウラザと呼んだ銀髪の少女に、手を伸ばす。
「分かりました。ごめんなさい、フィノア……。力が及ばなくて……」
セウラザは、伸びてきたフィノアのほそい手を取り、強くにぎった。フィノアはにぎられたその手のぬくもりに笑顔を返して、大丈夫と短く応えた。
「あとは、運に任せます。もしダメでも、これは報いですから」
そう言って、フィノアは自身の身体からあふれでたものを見た。
それは、フィノアの身体よりも少し大きい、黄土色の球体だった。球体からは木の蔓のようなものが無数に伸びている。そのうちのいくつかは、フィノアの手足と、頭に巻き付いていた。
黄土色の球体は、ふわりと浮きあがる。徐々に上昇しながら、さらに多くの蔓を吐きだし、少女の身体に巻き付けようとした。その瞬間、球体の背後から太い木の枝がおそいかかってきて、球体をつらぬいた。
木の枝を放ったのはセウラザだった。
セウラザは、自身の身体を大木に変化させていた。徐々に身体を大きくしていき、無数の枝を部屋全体に伸ばしていく。枝につらぬかれた黄土色の球体は、なんとか抵抗しようといくつも蔓を伸ばした。しかし、大木から飛びだしてくる太い枝に二度、三度と身体をつらぬかれ、ついには大きな窓の下の床におさえつけられた。
それでも球体は、フィノアの身体をとらえたままはなさなかった。
強い力でおさえつけられながらも、蔓を四方に伸ばし、何とかして浮きあがろうとする。
しかし、成長をつづける大木の枝にはかなわなかった。ついに、球体の下の床は砕け、階下へ落ちていく。
部屋に轟音がひびきわたり、やがて静かになった。
手足と頭を拘束されたままのフィノアは、階下に落ちていった球体を見下ろしてから、すぐに顔をあげた。
セウラザは、もういなかった。
大木が成長をつづけているのみで、部屋の壁と天井に太い枝が張っていく。
仕方がない。
これは報いだ。
フィノアは静かに目を閉じ、あの日のことを思い出しながら、意識も閉ざしていった。
私には、父がいました。
父は、聡明で力強く、誰よりも優しかった。
父は偉大でした。
大自然を切り開くように築かれた国、エイス王国の第十一代国王ペルフェトレ=グラナス=エイスザード。それが私の父でした。
父は、城内の臣下にも、城外の民にも慕われていました。
国を作りあげた初代国王の再来とも言われていました。
私は、国王としても父親としても尊敬していました。
いいえ。今でも尊敬しています。
でも、いつからでしょう。
父は何か病んでしまったようになりました。
時々、何かに悩んだような、苦しいような顔をしたかと思えば、突然無表情になってしまうのです。
声をかけても表情を変えずに、こちらを見るだけで何も話さなくなります。そうなると、執務中でも食事中でも就寝中でも、城の中を延々と歩き回ります。やがて疲れ切ったのか、気を失って倒れてしまうのです。
国中の、いいえ、世界中の名医を探しました。
けれど、彼らはみな、心の病のようだと口裏を合わせたかのように言うだけでした。一種の夢遊病のようなものだと。しっかりと心身ともに静養すれば治るでしょう、と。私たち家族と、一部の高官に伝えました。
医者の説明に、高官たちは納得したのかしていないのかは分かりませんでした。しかし、政治を止めることはできません。高官たちはなにかを話し合って、なにかを決め、それぞれの勤めにもどっていきました。
私たち家族は、たくさん泣きました。
母は、無表情の父の首を抱いて、大きな声をあげて泣きました。私も父の手を取って泣きました。
ついに父は、政務からはなれ、長期の静養を取ることになりました。
王が政務からはなれたことを知っているのは、家族と、一部の高官たちだけです。表向きは、国王は当然健在で、国に尽くしていることになっていました。
月日は流れ、父の世話に慣れてきた頃。
ある日突然、父は意識をしっかりと取りもどし、目を覚ましました。
久しぶりに目の輝きを取りもどした父は、とても疲れた顔でしたが、私たちを見て、少し笑ってくれました。その笑顔は疲労でゆがんでいたけれど、私にとって、忘れられない笑顔になりました。
それがきっと、本当の父の最後の日でした。
その日の夜、父は母となにかを話していました。私ははなれたところで、二人を見ていました。やがて父は私に気付いて、手招きをしてくれました。
「どうしたの。お父様」
父の近くまで来て膝をつくと、私は母の顔をのぞきこみました。母は父の顔を見て、とても泣いていました。その泣き顔は今まで見たことがないほど、苦痛に満ちた表情でした。
「すまないな……」
父はそう言うと、母と、私の頭をなでて、抱きしめてくれました。
抱きしめながら、父は涙を流していました。
その時の私は、父と母の涙の意味も、父がなにに対して謝ったのかも、分かっていませんでした。
私には、王としての務めがどのようなものか、あまり分かっていませんでした。
国のために、臣民のためになにかをして、全てが豊かになるように努めることだろうことはわかります。しかし、こまかなこと全ては、高官達が考えて、高官達が決めるようになっていきました。
王である父は、何もしなくなりました。
最後に目を覚まし、私たちと共に涙を流してくれた父は、次の日も目を覚ましましたが、もう私たちのことを覚えてはいませんでした。
何もできなくなった父は、在るだけの人になってしまいました。
寝ているとき以外は、常に無表情で、城内を歩き回っています。決して城外に出ないよう、数人の側近と兵士が、後ろから付いて回るようになりました。
やがて、変わり果てた父の様子に城内の者が慣れてきた頃。
いつもどおり城内を歩き回っていた父が、突然立ち止まりました。
そして周囲を見回し、後ろから付いて来る側近と兵士たちを見て、口を開きました。
『王が居るべき場所に、案内せよ』
側近と兵士たちは驚きました。彼らは互いに顔を見合わせて、いったい何が起こったのかと話し合いました。そしてついに王が正気を取りもどしたのだと喜び、すぐに声をあげて高官たちの元へ報告に行きました。
その話を私も聞いて、母の手を取って玉座の間に走っていきました。
玉座の間には、多くの人が集まっていました。
そのただ中に、王座に腰掛けている父の姿が見えました。父は王座に腰掛けながらうなだれていて顔は見えませんでしたが、それは間違いなく私の父で、私が尊敬する国王の姿でした。
その場に集まっていた者たちは、私と母の姿を見るとすぐに数歩下がって、父までの道を作ってくれました。
私と母は、父の足元に駆けていきました。
うなだれていた父は、私たちに気付き、顔をあげました。
その表情は、今までの無表情とは違っていて、目には意志の光が宿っていました。
私は元気になった父の顔を見て、呼び掛けました。
私の呼び掛けに応じた父は、私と母を見ました。
その瞬間、なぜだか、私は身体をふるわせました。
隣を見ると、母も身体をふるわせていて、今にも泣きだしそうでした。それがなぜなのか、私には分かりませんでした。今思い出してみても、その時の事はあまり思い出せません。ただ、元気になった父の姿だけが、はっきりと思い出せるのです。
その夜。
私は夢を見ました。
その夢はとても長くて、嬉しいような、悲しいような、苦しいような、恐ろしいような、そんな夢でした。でも、夢の内容は思い出せません。思い出そうとすると、色んな気持ちが湧きあがってきて、私の中からあふれだしてくるのです。あふれでた気持ちは、私をおおい尽くして、真っ暗な中に私を閉じ込めてしまうようでした。
次の日から、私は父に会うことはありませんでした。
母に会うこともありませんでした。
多くの人が、私の様子を代わる代わる見に来るようになりました。それがなぜだかは分かりませんでした。ですが、私はそのおかげで、家族に会うことができなくても、寂しくはなりませんでした。
もう、なにも寂しくはない。
なにも感じない。
いいえ。なにも感じないようになりたい。
このままずっと。
それから私は、深く、暗い、土の中で生きているような、不思議な感覚を持つようになりました。それは不快ではなく、まるで私の心に蓋をしてくれているような、優しい感覚でした。私は、それに心を委ねました。それが私を救ってくれていたからです。それ以外、私が私でいられる方法はないように思えました。
私はひとつの意思に心を預けました。
それが良いことか悪いことか、私は考えたくありませんでした。
「フィノア。良いのですか? あの占い師の言うことを鵜呑みにして」
メリーが不安そうにして私の顔をのぞきこみましたが、私は頭を横にふって、彼女の手を取りました。
「大丈夫よ。メリー。これが唯一の方法なの」
「でも、他にも方法があるはずです。みんなだって……」
「いいえ。メリー。これだけよ。父を救うには、これしかないわ」
私は確信を持ってうなずくと、メリーはしばらく考えていましたが、やがて彼女もうなずいてくれました。
木の蔓に手足と、頭を拘束されながら、フィノアの意識は徐々に遠のいていった。
これは報いだ。
父の謝罪と、母の涙の意味をしっかりと考えなかった私への報い。
城のみなと、友人の言葉を聞けなかった、報いなのだ。
部屋が崩れ落ちていく音がする。大きな木になったセウラザの枝が、部屋中に伸びていく音もする。
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