傀儡といしの蜃気楼 ~消えた王女を捜す旅から始まる、夢の世界のものがたり~

遠野月

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エピローグ

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   ≪エピローグ≫


 三つの小さな影が、薄暗闇の中にひそんでいた。
 小さな影のひとつは、大きな柱からそっと頭を出して、先をうかがっていた。

「いかんわ。これは、いかんわ」

 頭を出した小さな影が、小さく言った。少年の姿をした夢魔、オンだ。
 オンの背後には、少女の姿をした夢魔のテト、仮面をしたスーがいた。三匹の小さな夢魔は、小さな身体を大きくふるわせていた。

「もう、イなくなった?」
「いや、イるわ」

 テトの言葉に、オンは頭を横にふる。オンの視線の先には、大きな夢魔が二匹いた。人の二倍はあるだろうか。力も強そうに見える。オンたちも夢魔ではあるが、他の夢魔の縄張りを侵せば、ただでは済まない。

 オンたちは、面白い話を探し回っていた。
 以前出会ったラトスたちとの「お喋りの取引」のためでもあるが、自分たちの欲求のためでもある。ただひたすらに、とんでもない裏話を探しつづけるのが、オンたちの生きる糧なのだ。

 そして、その生きる糧が目の前にある。
 大きな夢魔が、なにか話をしているのだ。オンたち例外を除けば、会話ができる夢魔は上級である。上級の夢魔は、悪夢の回廊のことだけでなく、外のフィールドの話もすることがある。それはオンたちにとってご馳走であった。しかも今回のご馳走は、どうやら最高級だ。
 とんでもないコトが、起きそうな気がしていた。

「スー。キきモらすんじゃねーぞ」

 オンが言うと、犬のような大きい耳を持つスーが、ふるえながらうなずいた。
 オンもテトも遠くの声はよく聞こえるが、スーにはかなわない。スーはしゃべるのが下手だが、聞いて覚えるのは長けていた。犬のような耳は、ぴくぴくとふるえ、時々硬直するようにぴんと立った。

『ゼメリカが、渡り人と、うまくやった』
『長かった。次も上手くいくと良いが』

 二匹の大きな夢魔が話す内容は、ラトスたちがどこかで戦った夢魔のことらしかった。
 話の意味は分からなかったが、どうにも陰謀めいた感じがするとオンは思った。ラトスに伝えるべきか。オンは悩んだ。柱から頭を引っこめて、振り返る。後ろにいたテトは、目をかがやかせていた。テトは面白いことが好きだが、独占欲も強い。ラトスたちと連絡を取るべきかどうか相談すれば、今は必ず頭を横にふるだろう。

「そろそろニげねーと。イいか?」
「シカタねーわ」

 テトはがっかりとした表情になったが、すぐにうなずいた。
 もし見つかれば、消されるかもしれないのだ。

「スー。イくぞ」

 オンが言うと、スーは首をかしげた。

「どーした?」
「ツキが、どうってイってる」
「ツキ?」

 オンも首をかしげる。
 スーの背後から、テトの手が伸びた。テトは目をかがやかせて、スーにしっかりと大きな夢魔の声真似をするよう求めた。声真似なら、スーはハキハキとしゃべれるのである。

 スーは耳をぴんと立て、静かになった。
 オンとテトも、黙って待つ。するとスーが耳をぴくぴくとふるわせ、声真似をはじめた。

『月の塔が、動くか』
『動くまい』

 大きな夢魔の一匹が、笑うような声をあげて身体を上下にふるわせた。

『月の塔は、味方も同然よ』

 そう言った夢魔の笑い声は、薄暗闇の悪夢の回廊にひびいていくのだった。
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