13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

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第1章 青春期

ヴィクトルの変化

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 ヴィクトルがそう言い残して去ってから、数日が経った。

カトリーナは、ヴィクトルが自分に絡んでこなくなったことを意識しないふりをしながら、日々の仕事や学園での活動に集中していた。

——それでいい。

ヴィクトルが誰と婚約しようが、何をしようが、もう私には関係ない。
そう言い続けることで、自分に言い聞かせていた。

しかし——ヴィクトルの様子が、あまりにもおかしかった。

ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼンは、突如として社交界でも学園でも”完璧な公爵令息”を演じ始めた。

今まで、興味がなさそうにしていた社交界の舞踏会にも顔を出し、婚約者と噂される侯爵令嬢と一緒にいる姿を何度も見せつけるように振る舞っている。
学園では、以前のようにカトリーナに絡むこともなく、他の貴族たちとの交流を増やし、冷静に振る舞っていた。

「ヴィクトル様、最近なんだか雰囲気が変わられましたね」
「ええ、以前よりも”公爵家の後継者”としての振る舞いが完璧になったというか……」

学園の貴族たちがそんな噂をする中、カトリーナはただ静かに聞いていた。

(……ヴィクトルが、“完璧な後継者”?)

それが妙に引っかかる。

ヴィクトルは、社交界や学園で「理想的な貴族令息」を演じてはいるものの、どこか違和感があった。

以前は、どれだけ飄々としていても、その内側には“本音”が隠れていた。
けれど、今のヴィクトルは、まるで——

「何も感じていない”ふり”をしている」ようだった。

カトリーナは、それでも気にしないように振る舞い続けた。

彼が誰と婚約しようが、何をしようが、もう自分には関係ないのだから。

——でも。

以前のヴィクトルなら、ここまで”完璧な貴族”を演じることはなかった。
むしろ、そういうものを嫌っていたはず。

それなのに、今のヴィクトルは、まるで”何か”を隠すように、完璧な振る舞いを続けている。

(……何を考えているの?)

自分がヴィクトルを突き放したせい?
私が”どうでもいい”と言ったから?

そんなことを考えてしまう自分が、ひどく嫌だった。

——だって、私はもうヴィクトルに振り回されるつもりなんてなかったはずだから。

カトリーナが、ある日、学園の廊下を歩いていると——

「ああ、ヴィクトル様と侯爵令嬢、本当にお似合いよね」
「ええ、まさに理想の婚約者同士だわ」

そんな噂話が耳に入った。

カトリーナは、それを聞いても表情を変えなかった。

——だけど、心が僅かにざわついた。

(どうでもいい。私は関係ない。)

そう思いながら廊下を進んでいた、その時——

「……お前、まだそんな顔するんだな」

不意に、聞き慣れた声が響いた。

カトリーナが顔を上げると、そこにはヴィクトルが立っていた。

以前のようにからかうような笑みではなく、ただ静かに、淡々と彼女を見つめていた。

「……何のこと?」

カトリーナは、あくまで冷静を装う。

ヴィクトルは、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「お前、俺が誰と婚約しようが関係ないって言ってたよな?」

カトリーナは、表情を変えないまま答える。

「ええ」

「なら、なんで今そんな顔してる?」

「……」

カトリーナは何も言わない。

ヴィクトルは、低く笑った。

「お前、本当に何も感じてねぇの?」

「……当然よ」

カトリーナは、淡々と答えた。

ヴィクトルは、それを聞いて目を細めた。

「そうか」

「ええ」

「——だったら、俺が本当に侯爵令嬢と寝たとしても、なんとも思わねぇんだな?」

心臓が、ギュッと痛む。

それでも、カトリーナは微動だにせず答える。

「……ええ、思わないわ」

ヴィクトルは、僅かに息を吐いた。

「……お前、ほんとに頑固だな」

「事実を言っているだけよ」

ヴィクトルは、カトリーナの目をじっと見つめながら——

「——俺、あの女とは何もしてねぇよ」

静かに言った。

カトリーナの表情が、一瞬だけ揺らぐ。

「……何の話?」

「お前、侯爵令嬢に何か言われたんだろ?」

カトリーナは、僅かに眉を寄せる。

ヴィクトルは、薄く笑いながら続けた。

「“もう、キスも性交渉もした”みたいなこと、言われたんだろ?」

カトリーナの指先が、僅かに震えた。

ヴィクトルは、それを見逃さずに目を細める。

「お前、それを信じたのか?」

カトリーナは、僅かに唇を噛む。

——信じた? 信じてない? そんなの、どうでもいいはずだったのに。

「……あんたのことなんて、もう関係ないわ」

ヴィクトルは、少し目を伏せて笑う。

そして、カトリーナの耳元で静かに囁く。

「——お前、俺に嘘つくの下手すぎんだよ」

カトリーナは、それ以上何も言えなかった。

そして、ヴィクトルはゆっくりと背を向け、歩き去っていった。

残されたカトリーナは、ただ静かに、その背中を見つめることしかできなかった。
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