13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

文字の大きさ
21 / 70
第2章 再会

13年ぶりの帰国

しおりを挟む


——カトリーナ・エーレンベルクは、30歳になった。

13年前、本国で“死んだ”とされた彼女は、異国ベルナール王国で生き延びていた。

沈没事故の後、彼女は海流に流され、遠く離れた異国の地へと辿り着いた。
そこで身分を隠しながら商人としての力を蓄え、やがて貴族としての爵位を得るまでに成り上がった。

今では、異国の王子の側近として外交を支える翻訳官兼交渉役となり、
王国間の交渉のために本国へ赴くことになった。

——13年ぶりの帰国。

過去はすべて置いてきたはずだったのに、なぜか心の奥がざわついていた。

船が本国の港へ近づくにつれ、カトリーナは静かに甲板に立ち、
13年ぶりに見る故郷の姿を眺めた。

——変わっていない。

13年間、何も変わらないように見える景色。
しかし、そこにいる人々は確実に変わっているはずだった。

(……エーレンベルク家は、もう私の家ではない)

13年前、彼女が沈没したとされてから、すぐに当主交代が行われ、
商会の経営も“新たな当主”によって進められていた。
地下室の父も軟禁していた母もこの13年間で息を引き取ったと風の噂で耳にした。

この国に、今さら戻る理由なんてなかった。
なのに——

「カトリーナ様、そろそろ港に着きます」

同僚が声をかけた。

カトリーナはゆっくりと振り向き、穏やかに微笑む。

「分かったわ。準備しましょう」

外交官としての仕事。
それが、彼女がこの国に戻ってきた理由だった。




本国にカトリーナが帰還したという噂は、すぐに貴族社会に広まった。

「異国の新貴族が、本国の王と王子の外交交渉のために訪れるらしい」
「どうやら、王子の側近の翻訳官であり、優れた交渉人でもあるそうよ」
「名前は……カトリーナ・エーレンベルク? まさか、あの没落した家の……?」

「彼女は13年前に沈没事故で亡くなったはずでは?」

カトリーナが“死んだ”とされていたことを覚えている者たちは、驚きを隠せなかった。

だが、今の彼女は本国の貴族ではない。
異国の貴族として、外交官として帰国したのだった。

だから、本国の貴族たちは彼女に“好奇の視線”を向けながらも、
迂闊に手出しはできなかった。

しかし——

その報せが届いたとき、ただ一人、静かに怒りを滲ませた男がいた。

ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼンは、今や正式に公爵家を継ぎ、
本国の貴族社会を支配する存在になっていた。

そんな彼のもとへ、一通の報告が入る。

「ヴァイスハウゼン公爵様、“カトリーナ・エーレンベルク”が、本国に戻られました」

ヴィクトルは、報告を聞いて静かにペンを置いた。

そして、低く尋ねる。

「……何を言った?」

「異国の王子の側近として、彼女が本国へ戻られました。外交の交渉役としての訪問だそうです」

指先が、微かに震えた。

13年間、カトリーナの“死”を受け入れたことはなかった。
どこかで、生きていると確信していた。

だが、いざ彼女が戻ってきたと知ると——

心の奥に、静かな怒りが込み上げてくる。

「……13年間、何をしていた?」

俺を避け、何も知らせず、まるで最初から関係がなかったかのように振る舞って。

今さら何事もなかったかのように“異国の外交官”として帰ってくるだと?

ヴィクトルは、苛立ちを押し殺しながら、冷たく笑った。

「……逃がすかよ」

13年間、彼女を手放したままだった。

だが、もう二度と逃がす気はなかった。

カトリーナとヴィクトルの再会は、すぐに訪れる——

外交の場で、異国の王子の側近“カトリーナ”として公爵“ヴィクトル”と向き合う日が近づいていた。

——13年ぶりの再会は、ただの再会では終わらない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...