13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

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第3章 加速する執着

静かなる緊張

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 夜の宮廷。
 昼間の喧騒が去り、静寂が支配する時間。

 長い廊下の奥、
 燭台の灯りが届かない隅の空間。

 その薄暗がりの中で、
 ヴィクトルとカトリーナは密かに唇を重ねていた。

 「……少し、こっち来い」

 ヴィクトルがカトリーナの手を取り、
 人目を避けるように、廊下の奥へと連れ込んだ。

 「ここなら誰にも邪魔されねぇ」

 カトリーナは一瞬だけ周囲を確認したが、
 ヴィクトルの腕の中に引き寄せられると、
 抗うことなく身を委ねた。

 ヴィクトルは、カトリーナの頬をそっと撫でる。

 「……最近、あの王子にずっと囲われてたよな」

 「仕事よ」

 即答するカトリーナに、ヴィクトルはフッと笑う。

 「へぇ……じゃあ、今ここでこうしてんのも”仕事”か?」

 意地悪く言いながら、
 ヴィクトルはカトリーナの顎を軽く持ち上げ、
 そのまま唇を落とした。

 ——深く、甘く。

 舌が絡み合い、熱を吸い取るような口づけ。

 カトリーナはヴィクトルの襟元を掴みながら、
 静かに目を閉じた。

 (……仕事じゃないわね)

 誰に命じられたわけでもない。
 ただ、ヴィクトルの温もりを感じたくて、こうしている。


 ——その光景を、遠くから見つめる者がいた。

 王子だった。

 廊下の向こう側、燭台の陰に立ち尽くし、
 じっとヴィクトルとカトリーナを見つめていた。

 カトリーナがヴィクトルの腕に抱かれ、
 ヴィクトルが彼女の唇を深く奪う光景を。

 それは、王子にとって”見たくなかったもの”だった。

 王子は、静かに拳を握り締める。

 (……やはり、そういう関係だったか)

 胸の奥が、嫌なほどざわつく。

 (僕のそばにいる時は、いつも冷静で……)
 (ヴィクトルの前では、あんな表情をするのか……)

 カトリーナが、ヴィクトルの唇を受け入れる瞬間。
 彼女の細い指が、ヴィクトルの肩にしがみつく姿。

 そのすべてが、王子の目に焼き付く。

 (……僕がどれだけ手を伸ばしても、カトリーナは……)

 王子の視線が、ふっと冷たく沈む。



 ヴィクトルは、カトリーナの唇を離しながら、
 彼女の頬を軽く撫でる。

 「……お前、ほんとに俺といるときは素直だよな」

 「……っ、そんなことないわ」

 カトリーナは息を整えながら答えたが、
 ヴィクトルは楽しそうに口角を上げた。

 「へぇ? じゃあ、俺じゃなくて王子の前で、こういう顔してんのか?」

 「……バカ言わないで」

 カトリーナが僅かに眉を寄せると、
 ヴィクトルは満足げに微笑み、彼女の髪を撫でた。

 しかし——

 (……誰かに見られてるか?)

 ヴィクトルの勘が働く。

 ほんの僅かだが、
 遠くからの視線を感じる気がした。

 (……いや、気のせいか)

 気にしすぎかもしれない。
 だが、ヴィクトルは無意識のうちに、警戒の色を瞳に宿した。



 王子は、その場を静かに離れた。

 しかし、その目には、
 今までにない冷ややかな光が宿っていた。

 (……もう、黙っているつもりはない)

 カトリーナが、ヴィクトルと関係を持っていることを確信した。
 ヴィクトルが、カトリーナを完全に手に入れようとしていることも。

 (……僕のそばにいたカトリーナを、ヴィクトルに奪われるわけにはいかない)

 胸の奥に、じわじわと広がる焦燥と嫉妬。
 それを押し殺しながら、王子は静かに歩を進めた。

 次に会う時は——

 「カトリーナ、お前は僕のものだ」と、はっきり伝えるつもりだった。



 
 来賓館に戻ったカトリーナは、何事もなかったかのように振る舞った。

 王子にヴィクトルとのことを知られたかもしれない、という疑念は頭の片隅にあった。
 だが、それを考え始めればキリがない。

 (……とにかく、いつも通りに仕事をするだけ)

 冷静さを保ち、
 予定されていたルイとの打ち合わせのため、彼の寝室を訪れた。

 「お待たせしました」

 カトリーナは淡々とした声で言い、
 机に並べられた書類を整える。

 ルイは、寝室のソファに腰をかけ、
 彼女の動きをじっと見つめていた。

 「……今日は少し、話すことが多いね」

 「ええ。外交の準備が本格化していますから」

 カトリーナは、ルイの向かいに座り、
 手際よく書類をめくりながら説明を始めた。

 ——表面上は、いつもと変わらない会話。

 けれど、王子の視線は、
 以前よりもじっとりとカトリーナを捉えて離さなかった。


 打ち合わせがひと段落すると、
 次は「この国での正式なマナー」の説明に移る。

 カトリーナは、手元のグラスを取り、
 「この場合の持ち方は——」と説明を始めた。

 王子は、黙ってカトリーナの動きを眺めていたが、
 ふと、意地の悪い微笑を浮かべた。

 「……カトリーナ、君は本当に、優秀な指導者だね」

 「当然です。私は殿下の側近ですから」

 即答するカトリーナに、王子は一瞬だけ表情を曇らせる。

 「……“仕事”として、ね」

 その言葉には、わずかに冷たい色が滲んでいた。

 (……?)

 カトリーナが違和感を覚えた瞬間——

 王子の手が、カトリーナの手首を捉えた。

 「っ……殿下?」

 驚く間もなく、強い力で引かれる。

 バランスを崩したカトリーナの身体が、
 ふわりと宙を舞い——

 ——次の瞬間、ベッドの上に倒れ込んでいた。

 王子の影が、上から覆いかぶさるように落ちる。

 「……カトリーナ」

 掠れた声が、耳元で響く。

 王子の手は、彼女の肩を押さえ、
 まるでこのまま閉じ込めるつもりのようだった。

 「……どういうつもりですか?」

 カトリーナは冷静に問うが、
 王子の瞳には、冷静ではない何かが宿っていた。

 「……君は、僕の側近だと言ったね」

 「ええ」

 「じゃあ、僕の言うことを聞いてくれる?」

 カトリーナは、一瞬だけ言葉に詰まる。

 王子は、ゆっくりとカトリーナの頬に手を伸ばした。

 「……僕のそばにいてくれ」

 「殿下、それは——」

 「“仕事”として、じゃなくて」

 王子の指が、カトリーナの頬を撫でる。

 「“僕の女”として」

 その言葉に、カトリーナの胸がざわついた。

 (……気づかれた?)

 ヴィクトルと密かに関係を持っていること。
 それを王子が見ていた可能性。

 王子は、カトリーナの表情をじっと見つめ、
 ゆっくりと身を寄せた。

 「……僕じゃ、ダメ?」

 その問いには、
 “ヴィクトルの方を選ぶのか”という意味が含まれている。

 カトリーナは、静かに目を閉じ、
 冷静に言葉を選びながら口を開いた。

 「……申し訳ありません」

 王子の身体が、僅かに固まる。

 「……そうか」

 その一言の中に、
 王子の滲むほどの悔しさが込められていた。

 ルイの手が、ゆっくりとカトリーナの肩から離れる。

 カトリーナはそっと身を起こし、
 静かにルイを見つめた。

 「……仕事に戻りましょう」

 王子は、笑って誤魔化すこともせず、
 ただ静かに目を伏せた。

 カトリーナがベッドから離れる瞬間、
 ルイは最後に一言だけ、呟いた。

 「……ヴィクトルとは、そうやって拒まなかったのに」

 カトリーナの足が、ピタリと止まる。

 ルイの言葉には、
 明らかに嫉妬と執着の色が滲んでいた。

 (……やはり、気づかれていたのね)

 それでも、カトリーナは振り返らずに、
 静かに扉へと向かった。

 ——このままでは終わらない。

 そう確信しながら、カトリーナは静かに息を吐いた。
 王子の青い瞳が、
 静かに、しかし確実にカトリーナを捉えていた。

 それは、これまでの甘さとは違う、
 執着と独占の色を帯びた視線だった——。
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