13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

文字の大きさ
37 / 70
第3章 加速する執着

ヴィクトルへの露骨な牽制

しおりを挟む

 異国の王子は、以前とは違う雰囲気を纏い始めていた。
 カトリーナがヴィクトルと関係を持っていることを察した日から、
 彼の執着は、確実に濁ったものへと変わっていた。

 宮廷の格式高い食堂。
 この日は、ルイとヴィクトル、そしてカトリーナが同席する食事の場だった。

 ——ルイは、これを「外交の一環」と言い張ったが、
 ヴィクトルには「単なるけん制」だとすぐにわかった。

 「カトリーナ」

 ルイが、唐突にカトリーナの名前を呼ぶ。

 「これは、どうやって食べるんだい?」

 彼の前にあるのは、本国特有の料理。

 カトリーナは、一瞬だけ視線をヴィクトルに向けた。
 ヴィクトルは、グラスを傾けながら、静かに王子を見ている。

 (……わざとね)

 カトリーナは心の中でため息をつきながら、
 ルイの皿に手を伸ばし、ナイフとフォークを持った。

 「こうやって、軽く切ってから——」

 ルイが突然、カトリーナの手首を掴む。

 「いや、口で説明するだけじゃなくて」

 「君が食べさせてくれないか?」

 ヴィクトルが、ピクリと指を止めた。

 (……ああ、これはもう喧嘩売ってるな)

 カトリーナの動きが一瞬止まる。
 ルイの視線は、穏やかな笑みを浮かべながらも、
 その奥に明らかにヴィクトルへの対抗心を滲ませていた。

 (……公の場で、こんな露骨に?)

 カトリーナは、慎重に言葉を選びながら答えた。

 「……それは不作法です、殿下」

 「僕の国では、こういうことは普通だよ?」

 ルイは、ニコリと笑いながら、
 カトリーナの指を優しくなぞる。

 「君は、僕の側近だろう?」

 ヴィクトルが、無言でグラスを置く音が響く。

 カトリーナは、ふっと息を吐き、
 仕方なくフォークを手に取ると、
 ルイの皿の料理を一口分切り分けた。

 「……では、失礼します」

 淡々とした態度でルイの口元へ差し出すと、
 ルイは満足げに口を開いた。

 「ありがとう、カトリーナ」

 ——それを見ていたヴィクトルの目が、僅かに細まる。

 食事が進む中、ルイは何気なくカトリーナの横に座り、
 会話の流れで彼女の手を取った。

 「君の手は、仕事のせいか、冷たいね」

 カトリーナは、一瞬だけルイを見た。

 (……これは、ヴィクトルに見せつけるための行為ね)

 ルイの指は、優雅に見えて、
 まるでカトリーナを所有しているかのような触れ方だった。

 カトリーナが手を引こうとすると、
 ルイは軽く指を絡ませ、ヴィクトルの方を見ながら微笑む。

 「ヴィクトル公爵。君の国では、こういう文化はないのか?」

 カトリーナが通訳としてヴィクトルと向き合うのが嫌なのか、ルイはヴィクトルと過ごす時は通訳を介さずに直接対話する。

 ヴィクトルは、ゆっくりと視線をルイとカトリーナの手元へ落とした。

 「……悪いな。俺の国では、“恋人でもない女にそういう触れ方をするのは不躾”なんでな」

 「恋人、ね」

 ルイは、意味深な微笑みを浮かべる。

 「カトリーナは、誰かの”もの”なのか?」

 「……殿下」

 カトリーナは、静かに彼を制するように呼んだが、
 ルイはそのままヴィクトルを見据えた。

 ヴィクトルは、ワインを口に含みながら、
 ゆっくりと口角を上げる。

 「さぁな。少なくとも、“お前のものじゃない”とは言っとくよ」

 空気が、一瞬だけ張り詰める。

 カトリーナは、静かに手を引くと、
 何事もなかったようにナプキンを取った。

 「……話を戻しましょう。食事の場でのマナーについて」

 このままでは、埒が明かない。
 カトリーナは、冷静に会話を戻し、
 ルイの視線を受け流した。

 しかし、彼女の横でヴィクトルが不敵な笑みを浮かべたまま、ルイを見据えていることに、ルイは明らかに苛立ちを覚えていた。

 食事が終わり、ヴィクトルが席を立つ。

 ルイもまた、椅子から立ち上がり、
 カトリーナを見つめながら軽く微笑んだ。

 「カトリーナ。僕と少し、散歩でもどうかな?」

 「……申し訳ありませんが、これから書類の整理がありますので」

 王子の申し出をやんわりと断ると、
 彼は一瞬だけ表情を曇らせたが、
 すぐにいつもの余裕のある笑みを取り戻した。

 「そうか。……じゃあ、また後で」

 ヴィクトルは、そのやり取りを見ながら、
 フッと鼻で笑う。

 「……ま、ほどほどにな」

 ヴィクトルはそう言い残し、
 カトリーナとともにその場を後にした。

 ルイは、その後ろ姿をじっと見つめたまま、
 グラスを軽く回す。

 (……僕のものにするつもりだったのに)

 (ヴィクトル、お前は、僕の邪魔をするつもりか?)

 濁った執着が、確実に深まっていく。

 王子の瞳は、今までとは違う危うさを孕んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

処理中です...