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王の威厳を称える様に、壁と床が磨かれた大理石で造られた謁見の間。ふかふかな絨毯が扉前から王座まで敷かれ、天井には豪奢なシャンデリアが等間隔で設置されている。
大理石にシャンデリアの光が反射して、美しくも荘厳さを醸し出していた。
「サリエルくんを出して! じゃないと何も喋らないわ!」
そんな荘厳な謁見の間に響くのは、17歳くらいのピンクブロンドの少女の声だった。
「陛下、宰相殿。ユルミナ嬢はサリエル様の大切な方です。彼女を信じて下され」
国王陛下とモスキート公爵の問いに、ユルミナは首を振り、申し訳無さそうに、マッスロー伯爵子息が騎士の敬礼で頭を垂れている。
「……らちがあかぬな」
「いかが致しましょう?」
宰相であるモスキート公爵は、謁見の間の外で待機している自身の息子にも、ため息をついた。目の前の娘に関わったばっかりに、1月前のパーティ会場での失敗を、国王陛下も察して気を使っていた。
「どうなされたの?」
王座の横に繋がる王族用の扉から、王妃ティエーリに続いて、サリエルとマリエットも続く。
「ユルミナ・マスカレード男爵令嬢……?」
「あっ……サリエルくん!」
怪訝そうに呟くサリエル。サリエルを敬称無しで嬉しそうに君づけ呼びをする少女に、マリエットは彼女が小説の主人公のユルミナだと確信した。
「ティエーリ、サリエル、マリエット嬢。団欒を邪魔してすまぬな」
「貴方がちっとも来ないから、心配してお迎えに来ましたの。早く要件を終わらせて下さいな」
普通に聞くと和やかな家族の時間を共に過ごしたいという王妃様のおねだりにも聞こえる言葉だが、マリエットには目の前の客人の相手をさっさと済ませて、お茶にしましょうという福音声が聞こえた。
「えっ……うそっ!? ティエーリ王妃様!? 体調は大丈夫なんですか!?」
「あら。わたくし、貴女とは初対面よね」
「サリエルくんに、ティエーリ王妃様の体調が良くないって聞いて……」
王妃様はサリエルを振り返るが、サリエルの歪めた表情が、顔が小さく横に振られる。「言ってない」と。
「……教室で先生に聞かれて答えた事はありますが、彼女やクラスメイトに、個人的な話として伝えた事は無いです。きっと聞かれていたのでしょう」
小さく呟いたサリエルは、後ろにいるマリエットの手をそっと繋いだ。誤解されたくはなかったからだ。
「サリエル様。わたくしなら大丈夫ですわよ」
「ありがとうマリエット」
息子とその婚約者の仲睦まじい姿に、王妃様はにこりとした。顔を引き締め直すと、ユルミナへと振り返る。
「……マスカレード男爵令嬢。心配してくれてありがとう。わたくしはもう大丈夫よ」
「うそ! これがないとティエーリ王妃様は助からないはずなのに!」
ユルミナは肩から斜めに掛けられた鞄から布を取り出す。根元から手折られた水晶花がシオシオの状態で布に包まれていた。
「あれは……!」
「……まさか!?」
「なぜ彼女がっ……!?」
最初にマリエットが気付き、書類で知っていた国王陛下、サリエルが次に同時に驚いた。王妃様は先ほどマリエットに書類の絵で見せてもらっていたので、記憶が鮮明だった。だからこそ、王妃様がユルミナへと尋ねた。
「あ、あなた、それをどこでっ……!?」
「これは、私が良く行く秘密の森に咲いていた不思議な花です。これには、いろいろな病気に効く効能があって、ティエーリ王妃様の病気にも効くかもって思って、サリエルくんに渡しに来たんです!」
自信満々にユルミナは両手に乗せた花を持って近付く。サリエルがすかさず王妃様を庇う様に前へと出た。
「サリエルくん、見て! 私が王妃様を助ける薬草を見つけたよ!」
手柄は全て自分のものだと、ユルミナの言葉から読み取るマリエット。サリエルは水晶花をじっと眺めて手に取った。マリエットへと振り返る。
「あの水晶花で間違いありませんわ」
マリエットも確認して頷いたため、サリエルは分かりやすいため息をついた。
「あ、あの……サリエルくん……?」
「すまないが、君を拘束させてもらう」
静かに告げるサリエルの声が謁見の間に響く。厳しい表情の国王陛下は、近衛へとハンドサインを送る。王妃様とマリエットは、静かに見守った。
「えっ? えっ?! ど、どうして……?」
直ぐに陛下を守る近衛がユルミナを取り囲むが、ユルミナは何がどうしてと狼狽え、自分が捕まるかもと、ようやく理解したのか、激しく抵抗し大声を上げた。
「な、何故であるか!?」
「マッスロー伯爵子息。君は動かないように」
モスキート公爵により、マッスロー伯爵子息は動きを止め、狼狽えるのみだった。
「大人しくしてください」
「やっ……やだ!! どうして!? サリエルくん!! 助けて!! 誰かぁ!!!」
謁見の間の外まで響く声量。扉の外で待機していたのか、サッシュベリー公爵子息とモスキート公爵子息、ストーム伯爵子息がユルミナの悲鳴で駆け込んで来たのだった。
「「ユルミナ嬢!?」」
「何かありましたか!?」
「なぜあいつらが?」
苦い表情のサリエルの疑問。言葉にも苦々しさが籠っている。
入ってきた子息達は、ユルミナへと駆け寄った。
「私が待機させていたのだ」
陛下の言葉に、なるほどと頷くサリエル。
ユルミナ達が、王宮に足を踏み入れる理由として、ストーム伯爵子息を利用したのだろうと、サリエルもマリエットも予想ができた。
「君たちは、持ち場へ戻りなさい」
謁見の間の入口を守る衛兵は、どうして良いのかと取りあえず子息達の後ろに居たが、宰相であるモスキート公爵に指示をされて退室した。
「……この際です、陛下。問題児たちの一掃の機会だと思うことにして、彼らの話しも、ちゃんと聞いた方が良いでしょう」
「……それで宰相は良いのだな?」
モスキート宰相の提案に国王陛下は頷きつつも、宰相の次男が罰せられるかもしれない事を案じた。
「私には、先日サリエル殿下から青紙を賜った優秀な息子がおりますので。醜聞は老いぼれと共に、さっさと隠居しますよ」
サリエルは、モスキート公爵子息の長子を側近にする手紙を送ったらしい。王子の特色の色の手紙は、信頼の証だ。
マリエットは小説の内容を思い出す。
モスキート公爵の長子ダニエルの手腕は宰相補佐として小説では有名だ。小説では名前も姿も出てこず、謁見の間にいる次男が未来の宰相補佐として頑張り、優秀な兄と比べられる彼をユルミナが励ますというストーリーがあったな……とマリエットは考えていた。
しかしここは現実。長男はモスキート公爵に代わって領地経営の方に尽力しているらしく、サリエルと手紙のやり取りで王子の管轄領の相談のやり取りをしていたらしい。
「隠居にはまだ速いから、やめてくれ」
「しょうがないですね」
親しい友人のように伝える国王陛下に、モスキート公爵は肩を竦めつつも頷く。冗談もそこそこに、真剣な眼差しに変わった。
向けられる視線の先には、4人の少年たちが1人の少女を囲み、近衛と睨み合っていた。
「近衛隊、おぬし達は下がって良い」
「「「「はっ!」」」」
近衛を下がらせる国王陛下。佇まいを正したモスキート宰相により、謁見の間にて口頭尋問が始まった。
「御前、失礼します国王陛下。サッシュベリー公爵が嫡男モーリッツと申します」
「モスキート公爵家次男ハトエリードです」
「ストーム伯爵家嫡男、文官見習いのナーゴンです」
「うむ」
「状況の説明をお願いします。彼女は我々が連れて来ました。責任は我々にあると思うのです」
サッシュベリー公爵子息モーリッツは、恭しく国王陛下へと臣下の礼をとった。
「まずは、情報の共有……、あなた達が守る少女の現状について、状況の説明から行います」
宰相から向けられる視線に最初に嫌な予感をして震え上がったのは、モスキート公爵の次男のハトエリードだった。
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