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第一章
1の60 第一王子が行方不明?
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「やぁ!
君は確か第二王子殿下だよね?」
シレーヌに追い出される様に離宮『湖の貴婦人』を後にし、護衛騎士の一人にモーレイを押し付けてブラブラと主宮殿の庭園を歩いていた第二王子に声を掛ける者がいる。
こんなに気安く自分に声を掛けられる人物はかなり限られているが、聞きなれた声ではない。
胡乱な目を向けると、ルビーレッドの髪にローズマダーの瞳の美丈夫が微笑む。
「‥‥確かイエローテイル王国王太子のレッドブリーム殿下。
お出でになっていたとは知りませんでした。
お会い出来て光栄でございます」
イエローテイル王国はブルーフィン王国と並ぶ大国である。
その王太子レッドブリームはブルーフィン王国語を見事に操り、穏やかに話しながら、第二王子フラットの前まで来て足を止める。
「ちょっと近くまで来たのでね。
寄らせてもらったのだよ。
‥‥実はレイ殿下と連絡が取れなくてね」
「兄上なら、主宮殿中央殿に‥‥
居なかったのですか?」
「‥‥何か非公式の調査の為に出掛けられているとか。
国王陛下が少しお疲れの御様子でそう説明されたよ」
「‥‥あぁ、そう言えばそう聞いておりました。
わざわざお寄り頂いたのに兄が不在で申し訳ございま‥‥」
当たり障りのない受け答えをしてサッと会話を終わらせようとしていた第二王子。
だが、不意にレッドブリームが距離を詰め、第二王子の肩をガッシリと掴み、耳元で小声で聞いて来る。
「――で?
実際はどうなのかな?
もしかして行方不明?
正直に答えて欲しい」
「‥‥‥‥」
第二王子は敢えて剣呑に眉をしかめて、すぐ近くにある大国の王太子の顔に視線だけ向ける。
「会う約束をしていたのだよ。
私とレイ殿下はある世界的な問題について協議しているんだ。
今回、彼が私を訪ねる予定だったが、約束の日に彼は来なかった。
彼は約束を違える人ではない。
手紙すら来ないし、いよいよおかしいなと。
それで来てみれば王宮は落ち着かない様子で、国王陛下はやつれている。
一体彼に何があったのか教えて欲しい。
これは友人を心配する個人として訊いている」
「大国の王太子殿下が個人ではあり得ないでしょう。
ですが正直に答えましょう。
実は私は何も知りません。
兄から聞いていませんか?
兄と私は子供の頃から殆ど交流が無いのです。
兄の動向は私の知る所ではありません」
「‥‥彼はそれを残念がっていたよ」
「国王陛下が私の母を甘やかしたせいです。
側妃という立場を弁えず私の教育を歪め、王子同士の交流を阻害しました。
愚かな事です」
「‥‥君は思っていたより好青年だな」
「‥‥は?」
「レイ殿下も言っていた。
『分かりづらいが可愛いヤツだ』と」
「あッ‥兄上がそんな事をッ!?
そんな‥‥
兄上は私の事など知らないはずだ‥‥
気にも留めていないはずだ‥‥」
表情のコントロールを失った第二王子は赤面する。
レッドブリームは二コリと笑うと、第二王子の肩を離し、距離を取る。
「君が彼に何かしたのではないのだな。
君は彼を憎んでいない様だ」
「? 当然です。
私はいずれ兄上の臣下となります。
憎むはずがありません」
あまりにも当然だという口調にレッドブリームは僅かに目を見開く。
「なるほど、
欲の無い事だ。
話せて良かった。
ブルーフィンは益々強くなるだろう。
(レイ殿下が無事なら、の話だがな)
‥‥もしレイ殿下が見つかったら、私がカンカンに怒っていると伝えてくれ」
「お伝えします。
お気を付けて。
‥‥あの、ありがとうございます」
「ん? 何が?」
「‥‥‥‥あ、
兄上をご心配頂いて」
『冷徹な乱暴者。何を考えているか決して見せず、何を仕出かすか分からない男』
影でそう評され、要注意人物認定されている男の隠れブラコンぶりに、とうとう真ん丸に目を見開いてしまったレッドブリームであった。
君は確か第二王子殿下だよね?」
シレーヌに追い出される様に離宮『湖の貴婦人』を後にし、護衛騎士の一人にモーレイを押し付けてブラブラと主宮殿の庭園を歩いていた第二王子に声を掛ける者がいる。
こんなに気安く自分に声を掛けられる人物はかなり限られているが、聞きなれた声ではない。
胡乱な目を向けると、ルビーレッドの髪にローズマダーの瞳の美丈夫が微笑む。
「‥‥確かイエローテイル王国王太子のレッドブリーム殿下。
お出でになっていたとは知りませんでした。
お会い出来て光栄でございます」
イエローテイル王国はブルーフィン王国と並ぶ大国である。
その王太子レッドブリームはブルーフィン王国語を見事に操り、穏やかに話しながら、第二王子フラットの前まで来て足を止める。
「ちょっと近くまで来たのでね。
寄らせてもらったのだよ。
‥‥実はレイ殿下と連絡が取れなくてね」
「兄上なら、主宮殿中央殿に‥‥
居なかったのですか?」
「‥‥何か非公式の調査の為に出掛けられているとか。
国王陛下が少しお疲れの御様子でそう説明されたよ」
「‥‥あぁ、そう言えばそう聞いておりました。
わざわざお寄り頂いたのに兄が不在で申し訳ございま‥‥」
当たり障りのない受け答えをしてサッと会話を終わらせようとしていた第二王子。
だが、不意にレッドブリームが距離を詰め、第二王子の肩をガッシリと掴み、耳元で小声で聞いて来る。
「――で?
実際はどうなのかな?
もしかして行方不明?
正直に答えて欲しい」
「‥‥‥‥」
第二王子は敢えて剣呑に眉をしかめて、すぐ近くにある大国の王太子の顔に視線だけ向ける。
「会う約束をしていたのだよ。
私とレイ殿下はある世界的な問題について協議しているんだ。
今回、彼が私を訪ねる予定だったが、約束の日に彼は来なかった。
彼は約束を違える人ではない。
手紙すら来ないし、いよいよおかしいなと。
それで来てみれば王宮は落ち着かない様子で、国王陛下はやつれている。
一体彼に何があったのか教えて欲しい。
これは友人を心配する個人として訊いている」
「大国の王太子殿下が個人ではあり得ないでしょう。
ですが正直に答えましょう。
実は私は何も知りません。
兄から聞いていませんか?
兄と私は子供の頃から殆ど交流が無いのです。
兄の動向は私の知る所ではありません」
「‥‥彼はそれを残念がっていたよ」
「国王陛下が私の母を甘やかしたせいです。
側妃という立場を弁えず私の教育を歪め、王子同士の交流を阻害しました。
愚かな事です」
「‥‥君は思っていたより好青年だな」
「‥‥は?」
「レイ殿下も言っていた。
『分かりづらいが可愛いヤツだ』と」
「あッ‥兄上がそんな事をッ!?
そんな‥‥
兄上は私の事など知らないはずだ‥‥
気にも留めていないはずだ‥‥」
表情のコントロールを失った第二王子は赤面する。
レッドブリームは二コリと笑うと、第二王子の肩を離し、距離を取る。
「君が彼に何かしたのではないのだな。
君は彼を憎んでいない様だ」
「? 当然です。
私はいずれ兄上の臣下となります。
憎むはずがありません」
あまりにも当然だという口調にレッドブリームは僅かに目を見開く。
「なるほど、
欲の無い事だ。
話せて良かった。
ブルーフィンは益々強くなるだろう。
(レイ殿下が無事なら、の話だがな)
‥‥もしレイ殿下が見つかったら、私がカンカンに怒っていると伝えてくれ」
「お伝えします。
お気を付けて。
‥‥あの、ありがとうございます」
「ん? 何が?」
「‥‥‥‥あ、
兄上をご心配頂いて」
『冷徹な乱暴者。何を考えているか決して見せず、何を仕出かすか分からない男』
影でそう評され、要注意人物認定されている男の隠れブラコンぶりに、とうとう真ん丸に目を見開いてしまったレッドブリームであった。
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