上 下
61 / 155
第一章

1の61 ゴブリンの幻?

しおりを挟む
なぜか口を押さえ、小刻みに震えながら去って行くレッドブリーム。

その後ろ姿を見送りながら、第二王子フラットは側近に訊ねる。



「お前は何か聞いているか?
兄上は行方不明なのか?」

「私も何も存じませんが‥‥
確かに、ここのところ宮殿内がバタバタしているとは感じていました」

「‥‥何が起こっているのだ?」



考え込む第二王子のもとへ執務室で作業しているはずの側近の一人がやって来る。



「殿下、国王陛下が御呼びです!
何かお話があるそうです」

「! 分かった」

(兄上に何かあったのか!?)



急いで宮殿へ戻ろうと歩き出すフラットだが、ふと視線を感じて振り返る。



「‥‥ッ!?」



視線の先にいるのは子供?

いや、小さな男‥‥



「なッ!?
ゴブリン!?」



フラットは目を疑った。

ゴブリンが王宮敷地内に入れるはずが無い!

ゴブリンは王宮敷地内に入る事を固く禁じられているはずだ。



何故ならゴブリンは――

ゴブリンを一言で言うなら――

『差別の対象』だ。



大昔、ゴブリンは人間の集落の側の森などに巣を作って暮らし、おぞましくも‥‥

人間の子供を攫って食べた、と言われている。


事実であったかどうかは分からない。

が、それ故にゴブリンは魔族と恐れられ、忌み嫌われ、巣を焼き払われるなど、人間から迫害を受けて来た。

人間とゴブリンの歴史は互いに憎み憎まれるものなのだ。


時を経て、今はゴブリンも人間の一種族とされている。


だが、ゴブリンへの偏見や差別は根強い。


『小さな体で知能も低く、人間より下等で卑しい生き物』として蔑まれている。


だから仕事だって人間が嫌がる底辺の仕事ばかり。

彼等には入店禁止したり、商品を売らない店も多いという。

何か事件が起これば、真っ先に疑われるのはゴブリンだ。


そんなゴブリンが、王宮敷地内の、しかも主宮殿の庭園にいるはずか無いのだ。



だが、庭園の、咲き乱れる花の中に立ってこちらを見ているのは紛れもなくゴブリン!

しかも変わった色‥‥

スモークブルーの体をしている。

図鑑の挿絵でしか見た事は無いが、普通、ゴブリンは雄でも雌でもサンドグレイの体色をしているはずだ。

だが、何よりも第二王子フラットを驚かせたのはその目――

シーブルーの瞳‥‥


(まさか‥‥
兄上‥‥!?)


有り得ない!

だが、その眼――

深く鮮やかなシーブルーのその瞳は――



「殿下?
どうかされましたか?」



側近の声にそちらへ顔を向ければ、心配そうにフラットを見ている。



「今そこに‥‥」



言いながら庭園を見れば、もう誰もいない。



「‥‥ッ!?」



―――幻?
しおりを挟む

処理中です...