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第三章

3の53 犠牲

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ボワァッ!



「グアァッ!!」

「「「ッ!?」」」



全身を黒い稲妻のようなものに包まれ藻掻き苦しんでいるのはフラット。

いつの間にかシレーヌと聖女マーリンの間に移動していた彼。

シレーヌの代わりにマーリンの攻撃をその身に受けたのである。



「チッ、何なのよ!?
邪魔しやがって、何のつもり!?
あれだけ強く掛け直したのに、また魅了が解けたっていうの!?
‥‥ああもう!」



マーリンは歯ぎしりしながら攻撃を止める。

フラットはレイがどうしても手に入らなかった時の為の大切なスペアなのだ。

だが、既に最大限のパワーを受けてしまったフラットは、真っ黒にただれた状態で虫の息である。

攻撃の勢いでレイとシレーヌの足元まで飛ばされたフラットは、最後の力を振り絞って口を開く。



「シレーヌ姫‥‥私の人魚姫‥‥申し訳なかった‥‥恋に狂ってあなたを拉致監禁‥‥どうしてもあなたが欲しくて‥‥間違えた‥‥申し訳ない‥‥
兄上‥‥シレーヌ姫を頼みます‥‥アレは魔女‥‥しかも無詠唱で攻撃魔法を‥‥何度も伝えようとしたけど‥‥強い術を掛けられ続けて、叶わなかった‥‥逃げて‥‥シレーヌ姫を連れて、早く!‥‥は‥‥や‥く‥‥」

「フラット‥‥
お前‥‥」

「私の身代わりに‥‥
‥‥ッ、
謝罪を受け入れます」

「!
ああ‥‥良かっ‥
逃げ‥‥」



安堵の表情を浮かべた後、何とか逃げる様伝えたいフラット。

だが、黒くただれているのは体の表面だけではない。

もうまともに言葉を発せられなくなり、無念さに顔を歪める。



「‥‥チッ!
バカな事するから、使い物にならなくなっちゃってんじゃない!
やっぱり、レイ様しかいないわね!
ホラ、そこの邪魔女、サッサと死ね!
お前もすぐにフラット殿下と同じにしてやる!
その美しい顔も体も、真っ黒のヘドロにしてやる!
レイ様の隣は私の場所なんだよッ!」



そう言って再び両手をシレーヌに向けて突き出すマーリン!

黒い稲妻のようなものがその手から発せられ‥‥



スッ!



倒れ込んでいるフラットの前で膝をつき、屈み込んでいたレイとシレーヌは同時に立ち上がる―――
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