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チッ‥‥何なのこの男‥‥チョロすぎるでしょ‥‥もしかして童貞?
真っ赤っ赤に顔を染めた男の隣でクレオメは心の中で溜息する。
いや、一瞬だけ侮蔑の表情を浮かべてしまった。
これだから‥‥若い男はバカばかり‥‥それに比べてあの方は、何て堂々として御立派な御様子なのかしら‥‥素敵‥‥
更にクレオメは隠し切れない憧憬の眼差しを『あの方』に向けてしまう。
そんな『若い人達』の様子に気付いているのかいないのか、伯爵夫人が話を続ける―――
イベリスとラバンジュラが伯爵夫妻の呼び出しに応じられたのは、裏切りが発覚した朝から三日後の事であった。
怪しげなセックスドラッグから回復するのにそれだけの睡眠を要したのだ。
呼び出された部屋は伯爵邸の奥まった所にある応接室の一つで、秘密の相手と秘密の対話をする為の応接室の様だ。
そこに伯爵夫妻、泣きはらした目のアネモネが並んでソファに座っている。
悪びれる事無く、むしろワクワクといった様子で部屋に入って来たイベリスよりも、こんな時でもどこか神聖な、神秘的な空気を纏っている無表情に目を伏せたラバンジュラが不気味である。
「シラン様ッ、アウレア様ッ、僕は真実の愛を見つけ‥‥」
「発言は許さない。
即刻この屋敷から出て行け。
買い与えたもので未使用の物は既に回収した。
お前が使用した物はゴミ同然だからくれてやる。
話は以上だ。
さっさと出て行け。
今後一切カトレア伯爵家に関わるな」
夢見る様な瞳で話し始めたイベリスをバッサリ切ったのは普段は夫人の隣で優しく微笑んでいるだけのシラン伯爵。
いつもの柔らかな物腰、慈愛に満ちた雰囲気から一転、獲物に対峙する野生動物の様な鋭く険しい目で恐怖のオーラを放ち、一瞬にして部屋中をビリビリと緊迫した空気で満たした。
「‥‥ッッ‥‥」
突っ立ったまま声も出せず身じろぎ一つ出来ないイベリス。
伯爵が壁際で控えている護衛騎士に『連れ出せ』と目で合図した瞬間、細く高い声が部屋に響き渡る。
「待って!
待って下さいッ!
私、私イベリス様を許しますッ!」
「まぁ‥‥アネモネったら‥‥」
ソファから立ち上がり、イベリスを見つめながら必死に叫んだアネモネを見上げて、伯爵夫人が困惑しながら口を開く。
「許す許さないの問題ではないのよ?
イベリスは同性愛者‥‥」
「いいえッ!
その人がいけないんですッ!
その、ラバンジュラさんがッ!
その人が現れるまでは、私達心も体も愛し合っていました!
だからラバンジュラさんには出て行ってもらって、二度とイベリス様の前に現れないと約束してくれたら‥‥
二度とイベリス様を誘惑しないと誓ってくれたら、私イベリス様を許します!
許して、もう一度二人でやり直しますッ!」
このバカ女、まだ利用できるか‥‥ここは一旦ラバンと別れたふりをして‥‥
そんな風にイベリスが考えを巡らせ始めた時、再びよく響く低い声が告げる。
「そんな話はこの屋敷を出た後にしろ。
アネモネ嬢も出て行くのだ。
カトレア伯爵家が求めているのは若く健康な男女カップルだ。
恋人を失った君ももう条件に当てはまらない」
「!?
そんなッ!?
私はただ、裏切られただけで、何も悪くないのにッ!?
アウレア様ッ、伯爵様に取り成して下さいッ!
私はもう、お二人の本当の孫の様な気持ちで、お二人を慕って‥‥ッ」
思いがけず自分にも降りかかった火の粉に驚いて、ソファにグッタリと座るアウレアの足元に膝をつき、アウレアの冷たく力ない手を取り、甘えた声を出すアネモネ。
と、突然狂った様にけたたましく笑い出したイベリスの声に驚き、アネモネは両手でアウレアの手を包む様に握ったまま振り向く。
「ヒャ―ッハッハッハ!
ああ、可笑しい!
自分だけ助かろうとして、甘えん坊攻撃かい?
本当、大した女だよ、お前は!
アウレア様、体調悪そうですねぇ?
そりゃあそうでしょう!
もう6ヶ月もの間お茶の度にアネモネに毒を盛られて来たんですから!」
真っ赤っ赤に顔を染めた男の隣でクレオメは心の中で溜息する。
いや、一瞬だけ侮蔑の表情を浮かべてしまった。
これだから‥‥若い男はバカばかり‥‥それに比べてあの方は、何て堂々として御立派な御様子なのかしら‥‥素敵‥‥
更にクレオメは隠し切れない憧憬の眼差しを『あの方』に向けてしまう。
そんな『若い人達』の様子に気付いているのかいないのか、伯爵夫人が話を続ける―――
イベリスとラバンジュラが伯爵夫妻の呼び出しに応じられたのは、裏切りが発覚した朝から三日後の事であった。
怪しげなセックスドラッグから回復するのにそれだけの睡眠を要したのだ。
呼び出された部屋は伯爵邸の奥まった所にある応接室の一つで、秘密の相手と秘密の対話をする為の応接室の様だ。
そこに伯爵夫妻、泣きはらした目のアネモネが並んでソファに座っている。
悪びれる事無く、むしろワクワクといった様子で部屋に入って来たイベリスよりも、こんな時でもどこか神聖な、神秘的な空気を纏っている無表情に目を伏せたラバンジュラが不気味である。
「シラン様ッ、アウレア様ッ、僕は真実の愛を見つけ‥‥」
「発言は許さない。
即刻この屋敷から出て行け。
買い与えたもので未使用の物は既に回収した。
お前が使用した物はゴミ同然だからくれてやる。
話は以上だ。
さっさと出て行け。
今後一切カトレア伯爵家に関わるな」
夢見る様な瞳で話し始めたイベリスをバッサリ切ったのは普段は夫人の隣で優しく微笑んでいるだけのシラン伯爵。
いつもの柔らかな物腰、慈愛に満ちた雰囲気から一転、獲物に対峙する野生動物の様な鋭く険しい目で恐怖のオーラを放ち、一瞬にして部屋中をビリビリと緊迫した空気で満たした。
「‥‥ッッ‥‥」
突っ立ったまま声も出せず身じろぎ一つ出来ないイベリス。
伯爵が壁際で控えている護衛騎士に『連れ出せ』と目で合図した瞬間、細く高い声が部屋に響き渡る。
「待って!
待って下さいッ!
私、私イベリス様を許しますッ!」
「まぁ‥‥アネモネったら‥‥」
ソファから立ち上がり、イベリスを見つめながら必死に叫んだアネモネを見上げて、伯爵夫人が困惑しながら口を開く。
「許す許さないの問題ではないのよ?
イベリスは同性愛者‥‥」
「いいえッ!
その人がいけないんですッ!
その、ラバンジュラさんがッ!
その人が現れるまでは、私達心も体も愛し合っていました!
だからラバンジュラさんには出て行ってもらって、二度とイベリス様の前に現れないと約束してくれたら‥‥
二度とイベリス様を誘惑しないと誓ってくれたら、私イベリス様を許します!
許して、もう一度二人でやり直しますッ!」
このバカ女、まだ利用できるか‥‥ここは一旦ラバンと別れたふりをして‥‥
そんな風にイベリスが考えを巡らせ始めた時、再びよく響く低い声が告げる。
「そんな話はこの屋敷を出た後にしろ。
アネモネ嬢も出て行くのだ。
カトレア伯爵家が求めているのは若く健康な男女カップルだ。
恋人を失った君ももう条件に当てはまらない」
「!?
そんなッ!?
私はただ、裏切られただけで、何も悪くないのにッ!?
アウレア様ッ、伯爵様に取り成して下さいッ!
私はもう、お二人の本当の孫の様な気持ちで、お二人を慕って‥‥ッ」
思いがけず自分にも降りかかった火の粉に驚いて、ソファにグッタリと座るアウレアの足元に膝をつき、アウレアの冷たく力ない手を取り、甘えた声を出すアネモネ。
と、突然狂った様にけたたましく笑い出したイベリスの声に驚き、アネモネは両手でアウレアの手を包む様に握ったまま振り向く。
「ヒャ―ッハッハッハ!
ああ、可笑しい!
自分だけ助かろうとして、甘えん坊攻撃かい?
本当、大した女だよ、お前は!
アウレア様、体調悪そうですねぇ?
そりゃあそうでしょう!
もう6ヶ月もの間お茶の度にアネモネに毒を盛られて来たんですから!」
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