キスが出来る距離に居て

ハートリオ

文字の大きさ
上 下
12 / 33

12

しおりを挟む
イベリスは悟ったのだ。
もう何を言っても無駄だ。
伯爵夫妻は気持ちを変える事は無い。

僕たちは既に切られたのだ。
ならば、全てをバラして、一矢報いてやる!



「イッ、イベリス様ッ!?
何を‥‥だってッ‥‥私はッ‥‥」

「あれ? もしかして僕のせいだって言うつもり?」

「だってそうですものッ!
イベリス様がやれって言ったからッ!
だから私、仕方なく‥‥」

「僕、ちゃんと言ったよね?
これは遅効性の毒だよって。
解毒剤の無い毒で、摂取したら確実に死ぬ毒だよって!
アウレア様が必ず死ぬって分かってて飲ませたんだよねぇ?」

「だからそれは、イベリス様に言われたからッ‥‥」

「君3才児?
23才じゃなかったっけ?
大人だよね?
責任能力のあるオ・ト・ナ!
自分で責任取りなよね?」

「責任ッ!?
嫌ッ‥‥違うッ!
違う違う違うのッ!
私は悪くない!
私はただ、イベリス様が笑ってくれるから‥‥
だから、イベリス様に喜んで欲しくってッ‥‥」

「アウレア様もマヌケですよねぇ?
可愛がっていたアネモネに、お茶の度に毒を盛られていたんですから!
僕は急激にアウレア様の体調が崩れたら疑われるから、一日一滴でいいって言ったのに、アネモネはお茶の度に毒を盛ったんですよ!
そして一日の終わりに、『今日は3滴盛った』『今日は5滴も盛れた』って、得意そうに僕に報告してたんです!
アネモネ、その時の君の顔の醜さと言ったら!
悪魔も恐れるほどだったよ!」

「酷いわイベリス様ッ!
私は悪くないッ!
誰かッ‥‥お父様お母様助けてッ!
私、罪人にされちゃうッ!」



いつの間にか伯爵夫妻からかなりの距離を取って床に泣き崩れるアネモネ。

計算なのか無意識なのか護衛騎士からも随分と離れている。

伯爵夫妻は事態が理解出来ないのか、理解できるがショックが大きすぎるのか、貴族としては表情豊かなカトレア伯爵夫妻が面を付けたかのような絶対零度の無表情で微動だにせず何も言わずソファに根が生えた様に動かない‥‥動けない?

イベリスは気が済んだ様に今度はラバンジュラに向かい、『へへっ』と笑う。

真実の愛を得たイベリスは強く朗らかだ。



「あ~あ、ゴメン、ラバン。
あと一歩のところで、伯爵家は逃しちゃった。
でも、僕は君さえいればいいから。
金なんかじゃ買えない、真実の愛があれば、それで幸せだよ。
さ、行こう!
これからは誰に気兼ねする事も無く、ずっと一緒‥‥」

「約束の金を払え」



伯爵夫妻の絶対零度の無表情よりも冷たい声でラバンジュラがイベリスを刺した。
しおりを挟む

処理中です...