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4 戦い
66 前皇帝の脅威
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「はい…恐ろしい御方です…」
震える声。
呼吸はまだ完全には整わない。
見下ろしてくる銀眼は何を思っているのだろう――
こんな時でも美しいのね…
ソルはぎゅっと手を握り話を続ける。
「30年前のお茶会――皇后陛下のお命を奪いルーナエ陛下が1ヶ月も意識不明になったあのお茶会で…わたくしは命を取り留めたものの解毒の処置が施される前に誘拐団に攫われました――30年前もカード宮殿は『虫1匹通さない』と言われるほど強固に守られていました――それを、誘拐団は宮殿敷地内に入っただけではなく広大な敷地内で迷う事無くわたくしが滞在していた『湖の城』のわたくしの寝室にまでやって来てわたくしを誘拐したのです――誰かの手引き無しには出来ない事です…
誘拐団のボスはわたくしに言いました――『皇帝陛下はアンタを確実に殺し死体を届けろと仰っている…うまく偽装するつもりだが、随分と憎まれたもんだな。アンタは一体皇帝陛下に何をやっちまったんだい?』と――わたくしはただジョーカー王の子供だというそれだけで前皇帝陛下…現テネブラエ公に憎まれ命を狙われたのです――」
「――おぞましい男だ…ジョーカー王への恨みもただの逆恨み――その上何の罪も無い王女を殺そうと発想した時点でもう人ではない――」
皇帝は父の異常さに吐き気を感じる。
そうだ――人ではない――自分達が飲まされたのは致死量の毒だったのだ――だから母上は亡くなったのだ――
「…母上は『仲が良い』と思っていた夫に殺されたのか――父は君がジョーカー王の子供だというだけで殺意を…――異常だ――狂人‥いや悪魔だ」
「この話は30年前で終わったのではありません…テネブラエ公はわたくしの存命を知れば命を取りに来るでしょう…今頃もう動き出しているかもしれません…わたくしは現在進行形で命を狙われていると考えています――それがお世継ぎ問題の他に『わたくしにとってどうしても無視出来ない大きな問題』です」
「‥ッ‥ああ」
皇帝はベッドから降りると、『すまなかった』と言ってソルに手を差し出す。
その手を取りベッドから降りたソルを皇帝は一度フワリと抱きしめる。
「‥ッ!」
皇帝が僅かに震えている事に気付いて――
思わず抱きしめ返してしまいそうになる自分を必死に抑えるソル。
そんなソルには気付かず、皇帝はソルを優しくソファーに座らせる。
「…あの男はカード帝国直轄地の北の離宮にいる――直ぐに騎士団を派遣し拘束後『懺悔の塔』に移し極刑とする」
「…テネブラエ公は随分前から北の離宮には居ないと聞いています」
「‥なッ!?――見張りからの報告ではテネブラエ公は離宮から出ていないと‥」
「影武者ではないでしょうか…
ブリッジ・シティには色々な情報が集まって来ます…『テネブラエ公はスート王国に移動した』という情報は1年ほど前聞きました――カード帝国の属国スート王国はテネブラエ公が皇帝として悪政を敷いていた時代に甘い汁を吸っていた国の筆頭――テネブラエ公が帝位を取り返すのを望んでいるのでしょう――そのスート王国が陛下の花嫁選びの情報が出回ったのを機に不穏な動きを始めています。テネブラエ公自身は――やはり1年ほど前のジョーカー王国の復活を受けて、現王――わたくしの弟であるイグニス・ジョーカーの存命を知った事で動き出したのでしょう――とにかく前ジョーカー王の血を引いた者を殺す事だけが望みなのだと思います――そして…」
ソルは一度言葉を切って皇帝を見つめる。
皇帝の心を案じてだが、皇帝は今は静かな眼をしている。
心は決まっている――
「‥テネブラエ公は望みを叶える為なら、あなた様から帝位を取り返す事も辞さないでしょう――危険は、あなた様の身にも及んでいると警戒された方がよろしいかと」
「分かった――と、もう遅いな…名残惜しいが部屋まで送ろう」
「はい」
「‥一応聞くが、安全の為この部屋に泊まる気は‥」
「ね眠れなそうです」
「‥そう、だな‥‥‥
‥すまない――あの男のせいで君の人生を狂わせてしまった」
「それはルーナエ陛下も同じことですわ――親子である分、あなた様の心の方がずっと苦しいはず‥‥わたくしはこの話をするべきか迷っておりましたが――御身に危険が及ぶ恐れがある以上、言わねばなりませんでした」
「ああ、既に一度毒殺されかかっている――あの男は何でもやるだろうな」
「お気を付け下さいませ」
「君は強いな」
「はい」
「それ以上に優しい」
「‥‥‥え?」
「そこは無自覚なのか‥‥痺れる」
そう言いながらエスコートの腕を差し出す麗しき銀の皇帝に頬を染めるソル。
(顔が熱い…今日は色々あり過ぎでもうパンクしそう…)
ソルはそんな風に思いながら本宮殿内に用意された豪華な客室までの廊下をフワフワした心地で歩く――が。
客室前に整列してソルを迎える侍女達を目にした瞬間、金の瞳がキラリと光る。
(これはこれは――
仕事がお早いことね)
震える声。
呼吸はまだ完全には整わない。
見下ろしてくる銀眼は何を思っているのだろう――
こんな時でも美しいのね…
ソルはぎゅっと手を握り話を続ける。
「30年前のお茶会――皇后陛下のお命を奪いルーナエ陛下が1ヶ月も意識不明になったあのお茶会で…わたくしは命を取り留めたものの解毒の処置が施される前に誘拐団に攫われました――30年前もカード宮殿は『虫1匹通さない』と言われるほど強固に守られていました――それを、誘拐団は宮殿敷地内に入っただけではなく広大な敷地内で迷う事無くわたくしが滞在していた『湖の城』のわたくしの寝室にまでやって来てわたくしを誘拐したのです――誰かの手引き無しには出来ない事です…
誘拐団のボスはわたくしに言いました――『皇帝陛下はアンタを確実に殺し死体を届けろと仰っている…うまく偽装するつもりだが、随分と憎まれたもんだな。アンタは一体皇帝陛下に何をやっちまったんだい?』と――わたくしはただジョーカー王の子供だというそれだけで前皇帝陛下…現テネブラエ公に憎まれ命を狙われたのです――」
「――おぞましい男だ…ジョーカー王への恨みもただの逆恨み――その上何の罪も無い王女を殺そうと発想した時点でもう人ではない――」
皇帝は父の異常さに吐き気を感じる。
そうだ――人ではない――自分達が飲まされたのは致死量の毒だったのだ――だから母上は亡くなったのだ――
「…母上は『仲が良い』と思っていた夫に殺されたのか――父は君がジョーカー王の子供だというだけで殺意を…――異常だ――狂人‥いや悪魔だ」
「この話は30年前で終わったのではありません…テネブラエ公はわたくしの存命を知れば命を取りに来るでしょう…今頃もう動き出しているかもしれません…わたくしは現在進行形で命を狙われていると考えています――それがお世継ぎ問題の他に『わたくしにとってどうしても無視出来ない大きな問題』です」
「‥ッ‥ああ」
皇帝はベッドから降りると、『すまなかった』と言ってソルに手を差し出す。
その手を取りベッドから降りたソルを皇帝は一度フワリと抱きしめる。
「‥ッ!」
皇帝が僅かに震えている事に気付いて――
思わず抱きしめ返してしまいそうになる自分を必死に抑えるソル。
そんなソルには気付かず、皇帝はソルを優しくソファーに座らせる。
「…あの男はカード帝国直轄地の北の離宮にいる――直ぐに騎士団を派遣し拘束後『懺悔の塔』に移し極刑とする」
「…テネブラエ公は随分前から北の離宮には居ないと聞いています」
「‥なッ!?――見張りからの報告ではテネブラエ公は離宮から出ていないと‥」
「影武者ではないでしょうか…
ブリッジ・シティには色々な情報が集まって来ます…『テネブラエ公はスート王国に移動した』という情報は1年ほど前聞きました――カード帝国の属国スート王国はテネブラエ公が皇帝として悪政を敷いていた時代に甘い汁を吸っていた国の筆頭――テネブラエ公が帝位を取り返すのを望んでいるのでしょう――そのスート王国が陛下の花嫁選びの情報が出回ったのを機に不穏な動きを始めています。テネブラエ公自身は――やはり1年ほど前のジョーカー王国の復活を受けて、現王――わたくしの弟であるイグニス・ジョーカーの存命を知った事で動き出したのでしょう――とにかく前ジョーカー王の血を引いた者を殺す事だけが望みなのだと思います――そして…」
ソルは一度言葉を切って皇帝を見つめる。
皇帝の心を案じてだが、皇帝は今は静かな眼をしている。
心は決まっている――
「‥テネブラエ公は望みを叶える為なら、あなた様から帝位を取り返す事も辞さないでしょう――危険は、あなた様の身にも及んでいると警戒された方がよろしいかと」
「分かった――と、もう遅いな…名残惜しいが部屋まで送ろう」
「はい」
「‥一応聞くが、安全の為この部屋に泊まる気は‥」
「ね眠れなそうです」
「‥そう、だな‥‥‥
‥すまない――あの男のせいで君の人生を狂わせてしまった」
「それはルーナエ陛下も同じことですわ――親子である分、あなた様の心の方がずっと苦しいはず‥‥わたくしはこの話をするべきか迷っておりましたが――御身に危険が及ぶ恐れがある以上、言わねばなりませんでした」
「ああ、既に一度毒殺されかかっている――あの男は何でもやるだろうな」
「お気を付け下さいませ」
「君は強いな」
「はい」
「それ以上に優しい」
「‥‥‥え?」
「そこは無自覚なのか‥‥痺れる」
そう言いながらエスコートの腕を差し出す麗しき銀の皇帝に頬を染めるソル。
(顔が熱い…今日は色々あり過ぎでもうパンクしそう…)
ソルはそんな風に思いながら本宮殿内に用意された豪華な客室までの廊下をフワフワした心地で歩く――が。
客室前に整列してソルを迎える侍女達を目にした瞬間、金の瞳がキラリと光る。
(これはこれは――
仕事がお早いことね)
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