束の間のアル《廃王子様は性欲ゼロなのに熱・愛・中！？》

第一章

09 エリダヌス伯爵夫妻2

ベテルとギウスが、言い争うエリダヌス伯爵夫妻を恐がったので…
代わりに僕が夫妻にお茶を出しました。
ご満足頂いた様なので、お茶セットの乗ったワゴンと共にドア付近に下がると…

ずっと無表情なエリダヌス伯爵様がやはり無表情なまま口を開き仰います。


「君、そこに居ては話しづらいから、掛けてくれ。」

…今この部屋で立っているのは僕だけ。
一切僕を見ずに言ったけど、僕に言ってるんでしょうか？

チラ。

…無表情でこちらを向いてもいない…
空耳？
…でも一応返事しないと…


「私は事務員ですので、補助の為に待機させて頂いております。」


「ご相談には、オーナーである私が対応させて頂きます。
彼は愛人候補者の姿絵や釣書の用意の為、待機しています。」

すかさずデネブ様がナイス説明フォロー。

ちょっと前までは僕も相談員として参加してたけど‥‥‥
急にデネブ様に接客禁止命令を出されたんだよね。
奥の事務室から出てこない様にって。
無自覚に何かやらかしたんだろうけど…
理由は教えてくれないんだよね。

ベテルとギウスがお茶出しを恐がったので今日は例外。
だけど相談には参加しない。
ただの雑用要員。
むしろ邪魔なら出て行きますな立場。


「君、名前は？」

‥‥‥僕に訊いてるんだよね？
伯爵様…
相変わらず一切僕を見ないけど‥‥‥


「‥‥失礼致しました。
事務員のアルと申します。」


「アル君、そこに居ては話しづらいから、掛けてくれ。」


「「！？」」

あ、デネブ様の微笑仮面が崩壊‥‥
スゴ、瞬時なんだなぁ‥‥‥
感心している場合ではない。
うぅ～～～ん‥‥‥
2度言われてしまった‥‥
仕方ないよね？


「‥‥では、失礼致します。」

そう言ってデネブ様の隣に腰掛けま…
うわ、買い替えたばかりのこのソファ、フワフワ過剰じゃない？
ただ座るだけの動作に手こずるとか、恥ずかしい‥‥‥

目の前の伯爵様はどっしりと座っていらっしゃる。
‥‥‥美しい彫像の様だなぁ‥‥‥

お茶を淹れた時とは違い、正面からしっかり見ると。
エリダヌス伯爵様は類まれなる存在感を放っています。

21才とは思えない落ち着いた貫禄‥‥‥
高身長、ガッシリ系で強そう。
神秘的な黄金色の瞳、
神獣のたてがみの様な美しい赤い髪、

あれ…？
‥‥赤い髪‥‥だったんだ。

整った美しい顔立ち‥‥だけど‥‥
イカツイわけではないが甘さが全然無い。
そして微動だにしない無表情。
華麗な容姿なのに彫像を思わせるのは無表情だからだろうか‥‥‥

パッと見 ”恐い ”と思われる事が多いだろうな。
でも、絶対、繊細‥‥‥

伯爵夫人は‥‥‥

あ、あれ？
夫人の、自己評価超高発言のせいでハードル上がってたせいかな‥‥
ふつう‥‥‥
ふつう過ぎる‥‥容姿もオーラも‥‥

勝手に女神様的な風貌を期待してしまっていた。
‥ン、何か僕も喉カラカラになってきたかな‥‥


「‥‥‥どういう事！？
オーナー、この私に嘘をつきましたの！？」

伯爵夫人が険のある声を出すので驚くと‥‥‥
ぼ、僕を凝視してる～～～～
な、何で！？