Man under the moon

ハートリオ

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19.犬よ、

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犬を処分する為に車に乗せようとしたら、察知したのか犬が暴れ出した。

ホテルの前の道は騒然となり、駅前でもあるし警官が来て、いよいよ射殺するしかないと銃を構え、狙いを定めた。

その銃と犬の間に体を滑り込ませるように現れたのがユニで、警官は危ないから下がるように命令したのだが、ユニは笑顔で ―― あの美しい笑顔で犬は大丈夫だから銃を降ろしてほしいと言った。


「いや、本当に肝を冷やしましたよ、私どもも警官も分厚い防護服を着て、それでも恐かったのに、ユニ様は薄手のシャツで、そりゃあシュッとしてて更にエレガントでしたけど、犬に噛まれたらと思うと・・なのにユニ様は涼し気なお顔で興奮して手がつけられなくなっている犬にどんどん近付いてしまうんです・・」


シュッとしてエレガント・・・ね。 そりゃそうだろう。 見たかったな・・


「あ、ちなみにその頃ユニ様はロン毛でして、美しい髪が風になびいて・・そこに居合わせた人々は緊迫した状況にもかかわらずボウッと見とれてしまい・・「ユ、ユニがロン毛ッ!?」


俺は思わず支配人の話を遮る。 ユニがロン毛だと!? あの美しい髪を伸ばしただけでは飽き足らずさらに惜しげもなく風になびかせていただと!?
・・くっ、許さん!! 俺の許可なくそんなっ・・「あ、あの、モル様?」


「・・はっ・・」

支配人の声で我に返る。 ・・・俺はつい正気を失っていた様だ・・


「話が逸れてしまい申し訳ございません。 ユニ様のロン毛は今でも忘れられないくらい印象的だったものですから・・・」


支配人が頬を染めながら謝罪を口にする。 ・・・ユニのロン毛を思い出しているのだな・・・ クソッ、俺だって見たかった・・ユニのロン毛・・・


「ヒィィィィッッ!?? モ、モル様!? な、何かお気に触ったでしょうか!? ブルブル・・」


支配人が瞬で蒼ざめ震え出す。 いけない、つい彼を見る目が鋭くなってしまっていた様だ。


「・・いや、俺の方こそ取り乱して・・・話を続けてくれ・・。」


俺は何とか大人の冷静さを取り戻し、支配人に先を促す。


「・・は、はい・・えぇと・・そう、犬は近付いて来るユニ様に今にも跳びかからんばかりに物凄い勢いで唸り声を上げていますし、警官は銃を降ろすわけにはいかないし、ユニ様一人が落ち着いていて、私どもに説明するのです。

『大丈夫、この子は噛んだりしない。 見た目はクールで恐そうだけど、眼を見れば分かる。 とても優しい子だよ。 ただちょっと、傷つくのが苦手なだけなんだ・・ふふ、俺のモルみたいにね。』

そして・・「ちょ、ちょっと・・!」


俺は再度話を遮る。 え? ちょっと待て! 何て言ったって?


「・・ほ、本当にユニが『俺のモル』って言ったんですかッ!?」


『ユニのロン毛』『俺のモル』・・・怒涛のキラーワードに呼吸が乱れる・・


「・・は? この緊迫したシーンでソコですか?
あ、いえ、はい、その時の事は特に正確に覚えております。 ユニ様は確かにそうおっしゃいましたよ。 ・・・そんな事よりその後です!
ユニ様がフワリと犬の頭を撫でたんです! “えッ!?”て思うでしょう? そうなんです、ユニ様が説明しながら犬に近付く僅かの間にいつの間にか犬が大人しくなっていたんです! 固唾を飲んで・・中には目に涙を浮かべて見守っていた人々はまるでイリュージョンを見た様な気持ちで・・・」


支配人の話はもう耳に入って来ない。 俺にとって重要な“ そんな事 ”で、頭が・・想いがいっぱいになってしまった。

少なくとも5年前には、俺はユニにとって“ 俺のモル ”でいられたんだ・・その後の2年の間に新しい誰か ―― 今一緒に居る誰かを見つけてしまったという事か ―――


「クゥン・・」 分厚い防護服を着た屈強そうな男性従業員3人に囲まれながら、犬のモルが連れられて来る。 俺と目が合うと、嬉しそうにブンブン尻尾を振る。


「・・で、結局当初の予定通りウチのホテルで飼う事になったのです。
ユニ様は飼えないという事で・・随分残念がっておられました。

でも、ユニ様はこの街にいる親戚の家に娘さんを送り迎えしていて、ちょくちょく寄って下さっては散歩に連れ出してくれたり、随分と気にかけて下さって、犬も落ち着いていい子になり、借りる客はいなかったものの、大人しくユニ様を待つようになったのですが・・・





3年ほど前から、ユニ様がパッタリいらっしゃらなくなってしまい・・それでも大人しくユニ様を待っていた様でしたが、今日モル様に連れ出して頂けて、それは嬉しそうに出かけました。

ですがモル様とフロントで別れてから、急に様子が変になりまして・・・
クンクン鳴きながらグルグル回ったり、檻を破ろうとしたり・・また前の様に暴れ出したらと思うと、私どもは心配で心配で・・・」


・・・そうか・・・俺も犬も、3年前からユニに忘れられてしまった様だな・・
そんな事を思いながら犬を見ると、犬がクゥンクゥン言いながら体を寄せて来る。
犬の体温に殺伐としていた心が少しだけほぐれた気がする・・・


「分かりました。 俺が引き取ります。」


そう言いながら感慨に浸る。 俺はもう、動物を飼える体なんだな・・
自分はいつ死ぬか分からないから、動物など飼うことは出来ない、という長い間沁み着いた感覚 ―― だけど・・・そうなんだよな、つい忘れてしまうけど、病気が治った今、俺は自由に動物を飼えるんだ・・・


チェックアウトや犬を引き取る為の手続きなど済ませ、支配人をはじめホテルの従業員全員の最大級の礼に送られ、ホテルを出る。
手渡された、犬の少ない持ち物を改めて確かめ、心が震える。

ユニの、手作りのハーネス・・・最近ではかなり珍しくなった大型の犬にピッタリのハーネスが見つからず、ユニが手作りしたという・・・愛情を込め、丁寧に作られたハーネスを付けてやると、犬が嬉しそうにシャンとする。


犬よ、





・・・犬よ、お前もまだユニを愛しているんだな・・・
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