Man under the moon

ハートリオ

文字の大きさ
30 / 46

30.ピコさんの成人のお祝いの日

しおりを挟む
近くの公園で咲く色とりどりの花々が村の小さな駅にも香しい風を届けている。


よい宵である。

ワガママお嬢様と噂されるジュール嬢(26才)、研究一筋カンデラ君(29才)・・・この最近知り合ったばかりの二人を伴いビット村の小さな駅に降り立つと、公園の方から微かに音楽が聞こえて来る。 


間違えて下車したビット村でピコさん、フットさんと知り合ってから約1ヶ月・・・今日はピコさんの18歳の誕生日、成人のお祝いの日・・公園の丘の上でピコさんの成人のお祝いのクライマックス、父親と娘のダンスがこれから始まる・・予定。


「えッ歩くの!? えッ歩くの!? 嘘でしょう!? 車を呼びましょうよ?
だ、だってホラ、ヒトが歩ける道がないわ・・!」


列車に乗る際、「えッ列車に乗るの!? えッ列車に乗るの!? 嘘でしょう!? 飛行機を呼びましょうよ?」と騒いだジュール嬢がまた騒ぎ出す。


「まだ日が暮れたばかりだ。 歩けるぐらいには明るいし、今夜の月は特別明るい・・月を見てごらん、ジュール嬢。」


そう促すと、


「えッ!? はッ!? 月!? 今見たくないわ! ・・・・・・キレイね・・
それに大きい。 月ってあんなに大きかった?」


ジュール嬢が歩きながら月に見惚れている。
・・・歩かされている事にまだ気付いていない様だ。


「シティは大きなドームですからね。 月さえ作り物。 シティで見る月はいつも同じですが、地方で見れる本物の月は日によって大きさも色も違うのですよ。
・・・学校で習ったはずですし、習わなくても常識ですけどね?」


カンデラ君が一片の悪気も無くジュール嬢をバカにする。


「・・・まァ歩くのも悪くないわね、・・・だからモルさんはかかとの低い靴に履き替えさせたのね、納得だわ。」


ジュール嬢がカンデラ君の嫌味をスルーする。
・・・カンデラ君、ご愁傷様。
女性はスルーした時が一番怖いのだよ。


公園の丘の上では8人編成の小さな楽団が音楽を奏でており、十数名の人々が既に酒が入っているのか赤い顔でニコニコしながら音楽に合わせて踊ったり、数名の小さなグループに分かれ芝生の上に座って雑談したりして、思い思いにピコさんの成人を祝っている様だ。


「・・モルさん!! 来てくれたんですか!! 嬉しいです!!!」


色とりどりの小花で装飾された白いドレス姿のピコさんが駆け寄って来る。
白いドレスは月の優しい光を映して柔らかく輝き、髪にも鮮やかな花が飾られて今日のピコさんはプリンセスのようだね。


「成人おめでとう、ピコさん。 そのドレス、素敵だね。 とてもきれいだよ。」


と言うと、ピコさんの笑顔がさらにキラキラ輝き、


「ありがとうございます。 このドレス、お父さんが送ってくれたんです!」


そう言ってクルリと一回転して見せてくれる。 自然に皆から拍手が起こり、ピコさんは真っ赤になって俯いてしまう。


「あら、恥ずかしがること無いわ。 本当にとってもステキよ!」 とジュール嬢。
「君は今日の主役。 いくらでも拍手を受けていいのです。」 とカンデラ君。


「ピコさん、紹介するよ。 ユニの友人のジュール嬢とカンデラ君だ。
ユニの友人として彼等もピコさんのお祝いをしたいと言ってついて来たんだ。
・・申し訳ない、ユニは残念ながら来れないんだ。」


「今日来る事は出来なくても、ユニさんはピコさんの成人をとても喜んでいます。 僕ではとてもユニさんの代わりにはなれませんが、ユニさんの嬉しい気持ちを少しでも伝えたくて、馳せ参じました。」


おや? 研究にしか興味がない、研究以外はポンコツと評されているカンデラ君がマトモな事を言っている・・・可愛いピコさんに惚れちゃったかな?
でもピコさんはジュール嬢の方が気になる様子だな。


「ありがとうございます。 娘のピコです。 お父さんがお世話になっています。
・・・あの、ジュールさんは、お父さんとはどういう・・・」


ア、“ 父を盗られたくない娘 ”オーラが出まくっている。 
ピコさん、成人の日に子供丸出しなんだけど・・・


「えッ・・あぁ、ふふふッ、私、あなたみたいなカワイイ女の子が好きなのよッ!  男性にそういう興味は無いの! だから当然、ユニさんとも友人よ、恋愛感情とかは一切無いわ!」


・・・ジュール嬢はユニと対面した事は無い。 実際ユニを目の前にしても同じ事が言えるだろうか・・・実は俺だってユニに会う前は異性愛者だったんだ。 横で「ふっ・・」と小さく笑って俯いているカンデラ君も同じ事を考えている様だ・・


「・・・お父さんが来れない事は叔父さんから聞いています。 残念だけど、“ 
途中で抜けられない研究の真っ最中 ”じゃ、しょうがないですよね・・・」


予めフットさんに連絡しておいて良かった。
“ 来るかも ”と期待させておいてやっぱりダメでした、ってガッカリさせるよりはいいよね・・・ガッカリはガッカリだろうけど・・・


「ん・・・そう言えばそのフットさんは? ユニの代わりに踊る予定じゃ・・」


そう言えばフットさんの姿が見えない。 一番に駆け寄って来そうなものなのに・・

「叔父さんはもう・・・泣いちゃって泣いちゃって・・今あそこで一休みしています。 ・・困った叔父さんです!」


ピコさんが指した方を見ると、フットさんがハンカチ代わりのタオルを握りしめてフルフルしている。 ユニが用意したスーツはやはり最初からフットさんの為に仕立てられており、よく見たらネームも入っていたそうだ。
“ 優しい父・フット ”と。
フットさんの涙が止まらないのは、ピコさんの成人の喜びだけじゃないんだろう・・

「あの・・今日はモルちゃん・・ワンちゃんは・・」
ピコさんが巨犬を求めてキョロキョロする。 ・・だよね。 でも、ゴメン。


「恐がる人もいるだろうから、今日はお留守番してる。 フットさんから、君達の一族は犬が恐いと聞いていたからね。 また今度、連れて来れたら、遊んでやってくれると嬉しい。」 そう言うと、ピコさんはキラキラ笑って、


「はい! 楽しみにしています! ・・絶対、また来て下さいね!」


と言うと、はにかむ様に俯く。 犬よ、よかったな。


「・・ねェ、可愛い音楽ね、カンデラ君、ピコさんと踊ったら?」


・・・始まった。 さっきバカにされたジュール嬢のリベンジ・・


「・・えぇっ!? ぼ、僕はダンスとかは生まれてこのかた一度も・・・」


「えッ!? はッ!? 学校で習わなかったの!? 習わなくても常識じゃなくって!?」


・・ホラやられた。 女性の扱いは慎重に、だよ、カンデラ君。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。  シリアス成分が少し多めとなっています。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

処理中です...