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18 馬車の中で
修道院へ向けて馬車は快調に走る。
だが馬車を引く馬達の軽やかな足取りとは逆にピウスは浮かない顔である。
「『取り付く島もない』ってこういう事を言うのね…今日1日、悲しいまでに惨敗だったわ…」
「惨敗?‥まさか」
馬車に同乗する護衛が否定するが。
「あらそうでしょう?朝も帰りもまともに話して頂けなかったしお弁当も断られたし…想定していたとは言えやはり落ち込むものね…」
「結果だけ見ればそうかもしれませんが惨敗だとは思いませんよ?」
「ふふっ、お優しいのね、ありがとう。でも気遣いは無用よ。諦めたりしないわ。卒業パーティーまでに何とか王太子殿下のお心を私に向けさせるつもり――と言っても実はどうしたらいいのかまるで分からないのよね…困ったわ…」
「そのままでいい」
「え?」
「あなたはそのままで過ぎるほどに魅力的だ…それ以上魅力的になられては困る」
「…ッ…」
王太子に全く相手にされなかったのだから何か対策しなければならないのにと苦笑しながら護衛を見れば真剣な瞳に射抜かれ言葉を失うピウス。
馬車内は広く適切な距離で座る二人だが視線は距離をものともしない。
「…ありがとう…でも…いえ、ありがとう。そうよね、下手に何かしたら逆効果かもしれないし…私は私の精一杯で戦うほかないわね」
そう返して視線を外すピウスだが護衛は強い視線を外してくれない。
熱い視線に焼かれる様な感覚にピウスは窓の外に視線を逃がす。
「傍から見れば王太子はあなたにメロメロでしたがね」
「私ではなく男爵令嬢に、でしょう?…すっかり彼女の言いなりで…あんな御方だったかしら…少なくとも私がこの国に来るまではああではなかったのに…」
哀し気に微笑うピウスに護衛が固い声で尋ねる。
「…もし…もしも王太子が昔のままだったら…こうなってはいない?」
ピウスは視線を窓から護衛に戻す。
さっきとは打って変わって頼りなげな瞳の護衛。
ピウスは僅かに瞳を揺らした後少しだけ瞼を伏せる。
オーキッドピンクの瞳は『俯く』というより『遠くを…未来を見る』様で…
「ありもしないIfだわ…私は前しか見なくてよ?」
静かな声。
静かな瞳…
護衛は頬を上気させ眩しそうにピウスを見る。
ピウスはその熱い瞳を今度は真っ直ぐに受け止める。
(私は強くならなければ)
決意を胸に凛と座る姿の尊さに護衛は言葉を失う。
そのまま。
互いに無言のまま馬車は修道院に到着する。
だが馬車を引く馬達の軽やかな足取りとは逆にピウスは浮かない顔である。
「『取り付く島もない』ってこういう事を言うのね…今日1日、悲しいまでに惨敗だったわ…」
「惨敗?‥まさか」
馬車に同乗する護衛が否定するが。
「あらそうでしょう?朝も帰りもまともに話して頂けなかったしお弁当も断られたし…想定していたとは言えやはり落ち込むものね…」
「結果だけ見ればそうかもしれませんが惨敗だとは思いませんよ?」
「ふふっ、お優しいのね、ありがとう。でも気遣いは無用よ。諦めたりしないわ。卒業パーティーまでに何とか王太子殿下のお心を私に向けさせるつもり――と言っても実はどうしたらいいのかまるで分からないのよね…困ったわ…」
「そのままでいい」
「え?」
「あなたはそのままで過ぎるほどに魅力的だ…それ以上魅力的になられては困る」
「…ッ…」
王太子に全く相手にされなかったのだから何か対策しなければならないのにと苦笑しながら護衛を見れば真剣な瞳に射抜かれ言葉を失うピウス。
馬車内は広く適切な距離で座る二人だが視線は距離をものともしない。
「…ありがとう…でも…いえ、ありがとう。そうよね、下手に何かしたら逆効果かもしれないし…私は私の精一杯で戦うほかないわね」
そう返して視線を外すピウスだが護衛は強い視線を外してくれない。
熱い視線に焼かれる様な感覚にピウスは窓の外に視線を逃がす。
「傍から見れば王太子はあなたにメロメロでしたがね」
「私ではなく男爵令嬢に、でしょう?…すっかり彼女の言いなりで…あんな御方だったかしら…少なくとも私がこの国に来るまではああではなかったのに…」
哀し気に微笑うピウスに護衛が固い声で尋ねる。
「…もし…もしも王太子が昔のままだったら…こうなってはいない?」
ピウスは視線を窓から護衛に戻す。
さっきとは打って変わって頼りなげな瞳の護衛。
ピウスは僅かに瞳を揺らした後少しだけ瞼を伏せる。
オーキッドピンクの瞳は『俯く』というより『遠くを…未来を見る』様で…
「ありもしないIfだわ…私は前しか見なくてよ?」
静かな声。
静かな瞳…
護衛は頬を上気させ眩しそうにピウスを見る。
ピウスはその熱い瞳を今度は真っ直ぐに受け止める。
(私は強くならなければ)
決意を胸に凛と座る姿の尊さに護衛は言葉を失う。
そのまま。
互いに無言のまま馬車は修道院に到着する。
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