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19 護衛は決意する
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護衛の手を借り馬車から降りたピウスは柔らかく微笑む。
「今日は護衛をありがとう。商人のあなたが護衛だなんて疲れたでしょう?でもとても心強かった…助かったわ。それにこの馬車!…全然揺れないので体がとても楽だったわ」
修道院から王立学校までは馬車通学。
これまでは修道院の馬車を借りて通学して来たのだが揺れが酷いのが難点で。
「あなたがあんな馬車を使っていたなんて…冷遇され清貧生活を送っていたなんて…もっと早く知っていればと自分を殴りたくなる」
「え?…私はここでの生活がとても気に入っているのよ?…それに、冷遇されたからこそウィースさん達と出会えたのだし…ただ1度良い馬車に乗ってしまうと揺れる馬車はやっぱり辛かったのだと気付くわね…とても有難いわ、ウィースさん」
「明日も同じ時間に来ます…ここに泊めてもらえればいいのだが…」
「男子禁制で例外は無いの。ごめんなさいね、明日もよろしくお願いします…あ、アクーメンさんにもお礼をお伝えください」
「‥!」
「いらっしゃったのでしょう?空中で消えたバスケットを回収してくれたのは彼ね?‥ふふっ、私を護衛するあなたの護衛と言うわけね?ベネウォルス商会の大切な二人を私に付き合わせてしまって本当に申し訳無いことね」
気付かれていては仕方ないか…と護衛は正直に説明する。
「俺の護衛ではなく…アクーメンは影からあなたを護衛しています。ドロースス男爵は荒事を好むチンピラ。用心に越したことはないので」
「‥まぁ‥」
「脅かすつもりは無いが、あなた自身が警戒心を持つことが大切ですので」
「そうね…昨日からあなた達に褒め言葉をもらえてちょっと浮かれていたわ」
シュンと俯いたピウスに護衛は剣呑な声で尋ねる。
「俺達?」
ピウスは恥ずかしそうに頬を染めて…
「昨夜はアクーメンさんに『魅力的』って言ってもらったし今日はあなたに『可愛かった』って…鼻歌を歌った時よ…それにさっきも『魅力的』と…そちらは何の気なしに言っただけで覚えてもいないかもしれないけど、私は滅多に褒められないので、たまに褒められると嬉しくて…思い返しては心の中でニヤニヤしてしまうのよ…」
とうとう羞恥で俯いてしまったピウスに護衛は問わずにいられない。
「ですが…『綺麗だ』と――今まで耳が腐るほど言われてきたでしょう?」
今日ピウスを護衛している間にも生徒達(男女問わず)から『今日もお綺麗だわ~』だの『お美しい…特に今日の佇まいは春が微笑むかの様だ…』などの声が聞こえて来ていた。
ピウスの耳にも届いていたはずだが…
そんな疑問でキョトン顔の護衛にピウスは『ああ、それはね』と苦笑する。
「貴族社会では男性は女性に『綺麗だ』と言う風習があるの。つまり言葉通りの意味ではないという事ね。『こんにちは』ぐらいの意味しか無いの。身分が高ければ高いほど言われるのよ。私は一応王女だから皆言ってくれるけどただの挨拶なのよ」
「…………」
なるほどと思う護衛。
ピウス姫は小さな頃から自分の親族女性が綺麗だろうが皺くちゃだろうが皆同じ様に『お綺麗です』だの『お変わりなくお美しい』だの浴びるように言われているのを見て来たからそんな解釈になっているのだろう…
が!
皆心からピウス姫の類まれなる美しさを称賛しているのは間違いない!
――と教えるべきか教えざるべきか――
「…では…
平民である俺の言葉が本心からというのは理解頂けていますね?
――綺麗だ。
傍に居るだけで沸き立つ心に空を飛んでいる様な心持ちになるほどに」
驚いて。
真っ赤な顔で瞳を震わせるピウス。
――やはり教えるべきではないな…
うん、絶対教えない!
ピウスを見つめながら護衛はそう決意する。
(その表情は俺だけのものだ――)
「今日は護衛をありがとう。商人のあなたが護衛だなんて疲れたでしょう?でもとても心強かった…助かったわ。それにこの馬車!…全然揺れないので体がとても楽だったわ」
修道院から王立学校までは馬車通学。
これまでは修道院の馬車を借りて通学して来たのだが揺れが酷いのが難点で。
「あなたがあんな馬車を使っていたなんて…冷遇され清貧生活を送っていたなんて…もっと早く知っていればと自分を殴りたくなる」
「え?…私はここでの生活がとても気に入っているのよ?…それに、冷遇されたからこそウィースさん達と出会えたのだし…ただ1度良い馬車に乗ってしまうと揺れる馬車はやっぱり辛かったのだと気付くわね…とても有難いわ、ウィースさん」
「明日も同じ時間に来ます…ここに泊めてもらえればいいのだが…」
「男子禁制で例外は無いの。ごめんなさいね、明日もよろしくお願いします…あ、アクーメンさんにもお礼をお伝えください」
「‥!」
「いらっしゃったのでしょう?空中で消えたバスケットを回収してくれたのは彼ね?‥ふふっ、私を護衛するあなたの護衛と言うわけね?ベネウォルス商会の大切な二人を私に付き合わせてしまって本当に申し訳無いことね」
気付かれていては仕方ないか…と護衛は正直に説明する。
「俺の護衛ではなく…アクーメンは影からあなたを護衛しています。ドロースス男爵は荒事を好むチンピラ。用心に越したことはないので」
「‥まぁ‥」
「脅かすつもりは無いが、あなた自身が警戒心を持つことが大切ですので」
「そうね…昨日からあなた達に褒め言葉をもらえてちょっと浮かれていたわ」
シュンと俯いたピウスに護衛は剣呑な声で尋ねる。
「俺達?」
ピウスは恥ずかしそうに頬を染めて…
「昨夜はアクーメンさんに『魅力的』って言ってもらったし今日はあなたに『可愛かった』って…鼻歌を歌った時よ…それにさっきも『魅力的』と…そちらは何の気なしに言っただけで覚えてもいないかもしれないけど、私は滅多に褒められないので、たまに褒められると嬉しくて…思い返しては心の中でニヤニヤしてしまうのよ…」
とうとう羞恥で俯いてしまったピウスに護衛は問わずにいられない。
「ですが…『綺麗だ』と――今まで耳が腐るほど言われてきたでしょう?」
今日ピウスを護衛している間にも生徒達(男女問わず)から『今日もお綺麗だわ~』だの『お美しい…特に今日の佇まいは春が微笑むかの様だ…』などの声が聞こえて来ていた。
ピウスの耳にも届いていたはずだが…
そんな疑問でキョトン顔の護衛にピウスは『ああ、それはね』と苦笑する。
「貴族社会では男性は女性に『綺麗だ』と言う風習があるの。つまり言葉通りの意味ではないという事ね。『こんにちは』ぐらいの意味しか無いの。身分が高ければ高いほど言われるのよ。私は一応王女だから皆言ってくれるけどただの挨拶なのよ」
「…………」
なるほどと思う護衛。
ピウス姫は小さな頃から自分の親族女性が綺麗だろうが皺くちゃだろうが皆同じ様に『お綺麗です』だの『お変わりなくお美しい』だの浴びるように言われているのを見て来たからそんな解釈になっているのだろう…
が!
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――と教えるべきか教えざるべきか――
「…では…
平民である俺の言葉が本心からというのは理解頂けていますね?
――綺麗だ。
傍に居るだけで沸き立つ心に空を飛んでいる様な心持ちになるほどに」
驚いて。
真っ赤な顔で瞳を震わせるピウス。
――やはり教えるべきではないな…
うん、絶対教えない!
ピウスを見つめながら護衛はそう決意する。
(その表情は俺だけのものだ――)
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