妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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23 …掛けたね

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オォォォォォォォ‥‥

馬車からその人が降り立った瞬間。

グラキエス王立魔法学園高位貴族女子生徒が白目をむいて扇の向こうから地鳴りのような声を上げる。

半気絶状態である。

次いで、

素敵、
カッコイイ、
美しすぎる~~!!
ととと尊い~~!!

キャァキャァという中低位貴族女子生徒の悲鳴が。

バタンバタンとあちこちで失神している。

うわ‥‥
なにアレ‥‥
反則でしょ‥‥
どんだけだよ‥‥

彼の次元の違うイケメンっぷりに男子生徒も嫉妬すら出来ず乾いた感嘆の声。

負け惜しみも出ない。

魔法学園生徒達をパニック状態にしているその人とはもちろん、グラキエス王国第一王子シアン・グラキエス殿下である。

美しい筋肉を纏ったスラリとした高身長。

完璧に整った目鼻立ち。

形の良い頭部を彩る髪は濃淡のあるブルー。

一番薄い所はスノーホワイト、そしてフロスティブルー、最も濃い所がシアン・ブルー…

緩いウェーブの美しい髪は短く整えられており、是非ロン毛にしてくれないだろうかとは普段から彼の周囲も切望しているところだという。

そんな美貌の王子の切れ長の目にキラキラ輝くシアン・ブルーの瞳は。

視線一つで老若男女を震わせるという至極――

馬車から降り立っただけでまぁ盛り上げてくれた王子は生徒達を見回す。

(いない…ロサ嬢はどこに?)

期待と不安の入り混じった表情は。

これまで『氷の様に冷たく鋭利』が特徴だった彼に哀愁を纏わせる。

彼の類まれなる美貌に慣れていたはずの教師陣も卒業時より少し逞しくなった体躯と相反する儚げな憂いにハッと胸を掴まれ言葉を失う。

卒業してからの1年ほどの間に一体何があったというの…
物憂げな瞳に吸い込まれそう…
悩みがあるなら私に言って欲しい…
国の宝…我が王子の為なら何でもする…

教師陣は男女問わず妙な熱を持ち始める…

「…全く我が甥っ子殿は…罪な王子様だな」

そう嘆息するのは学園長…王弟であるニクス公爵。

白銀髪に明るい水色の瞳を持つ端正で中性的な顔立ちの20代の若い学園長だ。

「叔父上、ご無沙汰しております。
…罪とは?」
「フフ、安定の無自覚だね…雰囲気が変わった様だが何かあったかい?…もしかして恋でもした?」
「こッ‥そんなはずないでしょう!…違う、断じて違います!」

思いがけず取り乱す甥にどうやらこれは図星だなと目を丸くする学園長。

「‥えッ‥いやこれは目出度い‥かな?
相手は一体…」

目を三角形にしている甥から側近のカクタスに視線を移し返事を求めるが。

徹底した『私は何も存じません』顔にもう一人の側近パキラに視線を向ける。

「非常に複雑なアレコレがあって恋ではないらしいですよ?
ハイ、私にもさっぱり分かりません」

かつての教え子に笑顔であしらわれて眉根を寄せる学園長にシアンが小声で言う。

「実はある生徒についてお聞きしたいのですが」

それならと学園長室へと移動して。

「…『ロサ嬢』ねぇ…
16才…茶髪茶目…
ポッチャリ丸メガネ?
う~~ん、地味だね…
何だ、てっきり我が麗しの甥っ子の恋のお相手の事かと思ったが違うようだね…
だがそんな生徒知らないな…私が把握しているのは優秀であったり魔力が強かったり容姿に恵まれていたり――つまり国にとって有益になりそうな生徒達だからね。
目立たない生徒の事は把握していないのさ。
何かやらかした要注意人物なのかい?」

ガッガリした様に聞いてくる学園長にムッとして黙るシアン。

不機嫌な主の代わりにカクタスが答える。

「彼女は優秀で魔力も相当強いはずですが」
「知らんねぇ…成績優秀者上位100名までは把握しているがその中にはいない」
「ええ!?あり得ませんよ!…認識阻害魔法を高度に操る彼女が上位100名の中に居ないなんて!」
「認識阻害魔法だって!?そんな事が出来れば生徒ではなく教師の側…いや、教師にもそんな魔力を持った者はいない。そんな逸材は国の重要人物として魔術師団に所属しているはずだ」

『魔力持ち』『魔法が使える』と言っても。

殆どの人が大した事は出来ない。

指先に小さな炎を出現させたり。

手の平に僅かな水を溜めたり。

暗闇に仄かに手元だけを照らしたり。

卒業時にそのどれかが出来れば『優秀』という程度。

それでも特別視されるのは貴族の一部しか魔力を持たないから。

認識阻害魔法などは別次元――グラキエスで出来る者は今のところいないし、訓練すればシアンなら出来るのではないかと目されているが教えられる人がいない。

「ですがロサ嬢は‥」

コン!コン!コン!

ロサ嬢は実際に認識阻害魔法を使って空を覆う巨大魔獣を誰にも認識させなかったのだ…

と、これを言ってしまっていいものか躊躇ったカクタスから注意を奪う大きめのノック音がして――

「失礼致します。お待たせ致しました」
「ああ、事務長か。
入れ…どうだった?」
「は、えーとですね…
…あれ?えーーと?」
「どうした?」
「え?…いえ…ん?」

様子のおかしい事務長を学園長が怪訝な目で見る。

半刻ほど前ロサ嬢がどのクラスに所属しているのか調べる様に命じて――調べが付いたから戻って来たのだろうが?

「早くロサ嬢の事を報告し給え」
「え‥ロサ嬢!?」
「君‥」

事務長はよく言えば完璧主義、悪く言えば重箱の隅を楊枝でほじくるタイプ。

真面目で細かく仕事に正確な常に眉間に皺を寄せて間違いや漏れが無いか緊張しているような男がポヤンとした顔をしている。

「…私が頼んだ調査の事は覚えているか?」
「勿論です!ある生徒について調べる様にと仰せつかり、クラスとプロフィールが分かったのでこうしてお知らせに‥」
「うむ、じゃあ頼む」
「…はい、……………
え?……あ、あれ?」

珍事である。

魔力持ちは国の宝だし、そもそも高位貴族が多いので生徒達の個人情報は厳重に管理された資料室の持ち出し不可能な石板に彫られておりメモを取る事も禁止されている。

なので今までは必要な時は事務長が資料室で閲覧し、抜群の記憶力で記憶し、学園長に伝えるという方法をとって来ていて問題無かった。

「まるで誰かに何か…そこだけ記憶を失くす魔法でも掛けられている様だな…」
「‥いえ、誰にも会ってません。資料室へ行くのに人と会う事はありません。資料室は別棟にありますし不審人物がウロつけば配置された警備騎士が捕縛します。生徒は勿論、教師でも許可を得なければ近づけない特別な場所ですから」

『冗談だよ、誰かの記憶を一部だけ消す魔法を掛けられる者などいるはずないからね』と苦笑する学園長の対面のソファで。

それが出来そうな人物に心当たりがあるシアンとカクタスである。
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