妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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24 無作法生徒現る

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コッ、コッ、コッ

遠慮がちなノックの後副学園長が入室し恭しく膝をつく。

「失礼致します。
畏れながら殿下、そろそろ‥」
「ああ。――はぁ、
スピーチか…」

この後シアンは大ホールで演説し、優秀生徒の魔法発表を見て訪問終了となる予定。

シアンは演説中も生徒達の中にロサを探すがやはりどこにもいない。

(何故いない!?私に怒っているのか?彼女の事情も知らず深入りしようとしたから?…あんなクズとの結婚に執着し自爆を覚悟している…無表情の奥で苦しみ苛まれていることを知ってしまったのだ!放っておけるか!会ったばかりだからって何だ!?時間なんか関係ない!よく言うだろ、恋に落ちるのは一瞬――はッ!)
「違うッ!」

ザワッ

「…………あ」
「ヒッ‥も、申し訳ございませんッ」

丁度優秀生徒が魔法発表中で指先に火を点けられず四苦八苦しているところだったので。

その事を叱られたのだと勘違いしシアンに土下座してしまう。

「面を上げよ。殿下はお怒りになったのではない。…集中の仕方が違うとアドバイスをされたのだ…多分」

そうフォローしてカクタスがシアンに目を向ける。

「あ…うん、そうだ。
そのように緊張していては出来るものも出来ないだろう。
もっとリラックスするといい」

そう誤魔化しながらも心中は激しく動揺しているシアン。

(私はただ人として!
どうしても放っておけないだけだ…それ以外の何ものでもない)

結局火を出現させることが出来ず半泣きで下がっていく優秀生徒を無表情で見送りながらカクタスの『公務中に何考えてんですか?』という視線を無視する。

司会役の事務長代理(*事務長は長期休暇を取り帰宅)が『で、では、優秀生徒による発表を終わります』とアナウンスした直後『提案があります』と生徒席後方から声が上がる。

思わず立ち上がり声を上げた生徒を見つめるシアン。

学生の頃から常に冷静沈着を崩さなかった王子の『らしくない』挙動に目を丸くする教師陣。

そして畏れ多くも殿下がおられる壇上に無造作に声を掛けた無作法者へと視線を移す。

………誰?

教師陣は直ぐにはその茶髪茶目の丸ポチャ令嬢が誰なのか思い出せない。

地味で冴えない容姿。

それはこのイケてる生徒が集まった魔法学園では珍しい部類。

(ちなみに、魔力を持って生まれただけで『イケてる』方にカテゴライズされる)

貴族、その中でもイケてる生徒達は美しく装いがちだが、無作法生徒は――

渋いオリーブ色とアンティックゴールドのチェック柄の乗馬服って…王子殿下の御前に出ていい服装ではない!

「君、無礼であろう!ここから出て行き‥」
「提案を聞こう」

教師の一人が大声を上げるのを遮り、王子が無作法生徒――ロサに声を掛ける。

ザワつく大ホール…

「…こちらへ」

と促すシアンに『はい』と普通に答え壇上に向けて歩き出すロサ。

ロサを厳しい目で見ているシアンにカクタスがスッと近寄り小声で。

「どうされました?彼女を無礼だとお怒りですか?」
「…昨日と同じ服を着ている…」

ムッとして答える主にカクタスは近づいて来るロサをよくよく観察し。

「パッと見同じに見えますが別の服ですよ?
昨日はチェック柄が斜めで大きかったですが今日は真っ直ぐで細かいチェッ‥」
「色だ!昨日とまるで同じ色を着ているんだ」
「確かにそうですね。だから同じ服に見えてしまうんですよね…」

明らかにそれが何だろうと思っているっぽいカクタスにシアンが言う。

「あのクズの色を着ているんだ!」
「………………はッ!
――ああ、アイツ、アンティックゴールドの髪に瞳はオリーブ色でしたね!」
「何であんなクズの色を着るんだ…婚約者だからといってそこまでする令嬢はそんなに居ないだろうに…」
「確かに…しかし殿下、よく気付かれましたね…」
「そっちこそ、チェックの細かいデザインまでよく見ていたな…」
「‥え‥いや、まぁ」
「『まぁ』何だ?」

イケメン主従間に不穏な空気が流れそうになった時、ロサがトントンと軽やかな音で階段を上り壇上に到着する。

『えッ』『なッ』『どッ』とワタワタする教師陣だが王子が許すものを許さないわけにはいかず、成り行きを見守りながら『それにしても記憶に無い…当学園の生徒であるという妙に揺るぎない確信があるにもかかわらずアレが誰か分からない…』と首を捻る。

カクタスがシアンに耳打ちする。

「コホン、殿下、昨日我々は変装しておりましたので彼女とは初対面となります」
「わかっている。私はそれを忘れるほど間抜けか?」
「いえ。ただ昨日から殿下の言動が突拍子もないゾーンに入られることが多く‥」
「口を慎め。…さっきは…はッ!」
「何か…はッ!」

頬を染め生温かい目で二人を見ているロサ…

「「違うッ!」」

突然のイケメン主従デュエットに驚愕し、司会役の事務長代理がオロオロと。

「こ、これは何か粗相があったでしょうか?君、何かしたかね?」

イケメン主従とロサを交互に見ながら狼狽える。

「別に…ぷっ」

クールに答えながらも失笑してしまうロサ。

「いやロ‥君、誤解だぞ!‥私はゲ‥」
「俺は完全に異性愛者だからね!殿下を襲うのは世界に女が一人もいなくなった時だけだから!」
「はぁ!?」
「ちょちょっと!殿下にカクタス!落ち着いて!取り敢えず衆目の中でイチャつかないで‥」
「「だから違うッ」」

シアン、カクタス、パキラによるトリオ漫才を眺めながらロサは呟く。

「…なるほど三角関係か…複雑なのだな…」
「「「ッ違う!」」」

晴れ渡った空に薄くかかる白い雲…

今日は良い陽気で。

グラキエス王国自慢の美しく優秀な第一王子殿下の母校訪問という栄誉に魔法学園は今日の空の様に誇らしく晴れやかな空気に包まれていたのだが。

「お察しする」
「「「誤解だ!」」」

丸ポチャ令嬢の出現からすっかり空気が変わった魔法学園大ホールである。
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