人魚の王子さま

水月美都(Mizuki_mitu)

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海編

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「嵐がやって来るよ」

 おばばさまの言葉に、大人達は自分の子供に外出を禁じた。
 その時、僕は人間を見に水面へ向かって泳いでいた。
 王である父にいつも怒られて居たのだけれど好奇心には勝てず。僕は、ちょくちょく水面まで上がり人間を観察する。
 だって、海の中は退屈で。陸の人間は楽しそうだったから。
 その日、海は荒れていて一隻の船が今にも沈む所だった。

「さっき迄あんなに天気が良かったのに」
 余りの海の荒れ様に、僕も怖くなったから家に帰ろうとした時だった。
 女の子が、船から投げ出されるのが見えた。泳ぐ事もしないまま、ただ沈んでゆく女の子。
 人間に関わっては、いけないと言われてたけど。
 考えるより先に女の子を抱きとめ、岩のくぼ地まで連れて行った。
 息が出来ないため、苦しそうにしてる女の子に、空気を口から送り込む。

「駄目だ。このままじゃ、この子が死んじゃう」
 僕は前に、おばばさまに聞いた事を思いだした。
「私達人魚は、人間に決して見られてはいけないよ。何故なら、人魚の肉は不老不死の力が有るからね。存在を知られたなら、必ず私達を狩りに来るに違いない」

 ――不老不死の力。
 それならば、僕の一部をこの子に与えれば、助ける事が出来る?
 今にも、消えかかってる命。目の前に居ても、助けられない自分。
 僕はノコギリ岩と呼ばれる、固くとがったギザギザの岩の欠片を取り、自分の鱗の一部を切り取り女の子に与えた。
 ただ、助けたい。それだけしか、考えられなかった。


 女の子の息が穏やかになり、ゆっくり目を開けた。
 僕は「大丈夫だよ」と声を掛ける。
 僕の姿に驚いた顔をしたけど、助けてくれたと分かるとニッコリと笑い返してくれた。
 日本人だと言った女の子は名前を美海みうと言った。

「日本の言葉で美しい海って言うのよ」
「美海。きれいな名前だね。僕は……」

 その時、僕が居ないのに気が付いた教育係のリノが探している声が聞こえて来た。
「美海、見付かったら大変だから一人で上に上がれる?」
 美海は、コクンと頷く。人魚の力を与えたからか、人間なのに自在に泳げる様になった美海。
「美海、必ず会いにゆくから待ってて」
 一人、上に泳いでゆく美海に僕は、声を掛ける。
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