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海編
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しおりを挟む目の前にいる魔女ならぬ魔法使いは、僕に問いかける。
「君の願いは一体何かな?」
てっきりお年よりの、怖そうなお婆さんなのだと思っていた僕は、まだ若い男の人だと分かり、幾分ホッとする。
その人は、ワカメの様に波打つ腰までの黒髪に、覗き込む瞳は蛸の墨の色だ。
「お願いです! 僕が助けた人間の女の子が死んでしまいます」
魔法使いはニッコリ笑い、僕の話しを聞いた後に言った。
「ふうん……分かったよ。それで? 君は何を、私にくれるのかな?」
そう言われて何も言えなくなった。
僕に、差し出す物は何も無い。
「僕には、差し出す物は何も無いのです。でも、貴方の云う事は何でも聞きます。ですから……」
みなまで聴かずに、魔法使いは満足そうな笑みを浮かべて話す。
「一応、タダでは願いを聞いてあげられ無いのだけど。君は特別に願いを叶えてあげよう」
ある試練を乗り越えて、彼女のハートを手に入れる事。
「試練?」
「そう試練だよ。それは、人間になるには避けて通れない。たとえそれが、私でもね」
試練とは、僕とセイヤが人間になるためのペナルティだと云う。
「そして、これが一番重要なんだが……」
もし、美海のハートを手に入れなければ、僕は海の泡になるという。
「お願いします」
岸に向かい僕たちは泳いで行く。何故か、魔法使いも一緒に。
そして、魔法使いから渡された、青く光る薬を飲んだ。
苦しい――! 息が出来なくなり胸を掻きむしる。
だんだん意識が遠のく中で、美海の、昔出逢った頃の美海が、微笑んでいた。
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