主婦、王になる?

鷲野ユキ

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脱出!

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「ふむ、ご協力ありがとう。良い画も撮れた。これでお前たちに用もない。碓井先生、あなたも多く知りすぎた。王と王妃が結託して噴火を起こした。その筋書きの方がわかりやすいだろう。さあ、あなたもともども殺してやろう」
高笑いと共に入江の声が響いた。話が違う!まるで先に撃たれた黒崎のごとくに、陽子らは叫ぶ。そんななか一人冷静なのは唐澤だった。
「まったく、典型的な悪役過ぎて面白くないな」
「余裕でいられるのも今のうちだ、このテロリストめ」
「ああ、テロリストなのは認めてやろう。だが俺たちが壊すのは東海地方ではない」
「何を言っている?」
「ここだ」
まるでその声を合図にするかのように、にわかに彼らの足もとが揺れ始めた。初めはわずかながら、けれども急激にその振動は大きくなっていく。
「お前、何をした!?」
狼狽する入江の向ける銃の矛先がずれる。今だ、陽子さん!まさかテレパシーが通じたわけでもなかろうが、チャンスとばかりに手足の自由な陽子が入江を突き飛ばす!
「な!?」
思わず入江が引き金を引くも、バランスを崩し仰向けに倒れる彼が放ったそれは、それはいたずらに空を撃つばかりだった。それどころかその打撃は崩壊への拍車を掛ける。振動で脆くなったとでもいうのだろうか。コンクリの高い天井に当たった弾丸は、ガラガラとその石片を狙撃手の元へと降らせてきた。
「な、なんだと!?」
こぶし大ほどの石ころに頭を見事に撃たれ、入江がひっくり返る。今のうちだ!
「陽子さん、皆を連れて逃げて!」
唐澤は叫ぶ。時間がない、早く逃げなければ!
「でも」
「彼らの手かせを自由に出来るのはあなただけだ、さあ早く、縄を引きちぎって」
「わかったわ」
覚束ない足もとながら、陽子は捕らわれた仲間のもとへ駆けていく。とにかく手近な亜美を自由にしてやれば、まったくどこに隠し持っていたのかカッターナイフでどんどん仲間の足環を切り放つ。一方陽子は王の怪力で手錠をブチ切るのに必死だった。
「カスティリオーネ!未来は?」
「ちょ、まってて、ええと」
「そんなことより早くココを逃げよう!」
焦る勇樹が粕川の手を引く。
「ちょっと、でも緋美たちが!」
「ど、どこに行くの!?」
叫ぶ陽子らの言葉に耳も貸さず、一方穴田親子は撃たれたまま放置された黒崎の元へとよろよろ駆けていく。揺れはひどくなっていた。とてもじゃないがまともに立っていられない。幸いなのは倒れてくるような大きな棚や物がないことか。しかし軽いアンテナ群はそれこそ支えを失いそれぞれが思うままに倒れてくるので、彼女らはそれをかき分けて進んでいかなければならなかった。
「母さん。早く逃げようよ、理央もそう言ってる」
緋美がそう言うのももっともだった。どうやらこの揺れに驚いた黒服を始め警官や自衛隊員らは統率を失い、皆出口へと向かうのに必死のようだった。
「おい、何をしている、逃げている場合か!」
喚く入江の声などモノともしない。「やっぱり王は噴火を止めようとしてたんじゃないか」「俺動画見たぜ」「けどなにもココに地震起こさなくっても」
ぶちぶち文句を言いながら、散り散りに逃げていく姿が見て取れた。そのなかには、現状が良くわからないながらもモタモタと駆けていく滝沢の姿も。
「おい、どういうことだ、ワシを先に逃がせこのサピエンスども!」芋虫がそう叫ぶがもちろん誰一人とてその言葉に耳を貸すものはいない。
それもそうだろう、ここだっていつ崩壊するかわからない。よくわからない計画もこれじゃあ失敗みたいだし、命が惜しければ早く逃げよう。そう思うのが普通の人間だ。偉いも偉くないも、地位も肩書も関係などなかった。
それでも忠犬よろしく隊長は入江に指示を問うたものの、この期に及んでアイツらを殺せとしか喚かない。彼だってそもそも人為的に震災を引き起こして、それを誰かのせいにするなんて馬鹿げていると思っていたし、そろそろ自分の身も危なかった。それでも指示に従ったのはそれが仕事だから仕方がなかったのと、自分が直接被害を受けるわけではないと踏んだからだった。それがまさか、ここ東京に大地震を起こしてどうする!
「こら、ブチブチ言ってないで早く脱出だ、関東大震災の二の舞は絶対に防げ!」
彼は踵を返し、まったく統率を失ってしまったら部下らに罵声を浴びせかけながらこの場を去る。
その彼らが去った後、ただ呻くしかできない黒崎はすべてを呪っていた。俺の人生もここまでか。すべてを周りのせいにして、だからこそ周りを踏み台にしてにじりあがってやろうと思っていたのに。これで誰かから指図されることもなく、自由に、自分の好きなものを手に入れられただろうに。
すでに下半身の感覚はなかった。立ち上がって逃げることは不可能だった。このまま天井が落ちてくればぺしゃんこだ。彼が想像したように、まさしく天井が激しい轟音を立てて崩れ落ちてきた。ゴォン!音は彼の後ろから聞こえた。あと少し、あと少しで俺は死ぬのか。
そう思った矢先、まるで走馬灯かのように忘れられない顔が黒崎の目の前に現れた。それと、ついこないだ見かけたような顔。誰だ?喉まで出かかったものの、霞んでいく意識がそれを許さない。
「陽子さん、悪いけどこいつ負ぶってもらえない?」
「黒崎を?なんで、わたしたちを利用した人じゃない」
まさか見捨てるわけにもいかず、陽子らは穴田親子の後を追った。粕川は勇樹に手を引かれ、揺れる足もとの中予知に必死だった。大丈夫、10分後の私たちはまだ生きてる!
この突如としてのお願いに、陽子は困惑を禁じ得ない。そんな男より碓井さんを早く助けなきゃ、そう思うものの彼も同じく利用されたのだと思えば、ここで死なせるのも夢見が悪かった。
「一生で一度のお願いだ。あの時は聞いてもらえなかった。今ぐらい聞いてくれたっていいだろう?」
「あの時?」
「ネアンデルタールとサピエンスの争いさ。フュオンがアナトリアを諦めればよかったんだ、いや、アナトリアだって諦められなかっただろうけど、彼女は身を引いた。それをフュオンがしつこく追い求めた」
「わたしが……」
だから陽子の夢に出てきたアナトリアは悲しそうで、ちっとも愛されていないように見えたのか。嫌がる女を無理やり組み敷いているように見えたのは、むしろアナトリアの愛の現れだったのだと。
「ほんと、なにが王かしら。聞いて呆れる。ろくでもないやつじゃない、フュオンティヌスは。そんなやつの力を身にまとって偉くなった気分でいたなんて、救いようがないわ、わたしは」
「そう思うんだったら手を貸してくれ。それでチャラにしてあげる」
「けれど、なんであなたが黒崎を助けようとするの?」
医者だから怪我人は放っておけないとでも?そう口を開きかけると、
「なに、現世で縁があってね」と返された。
「現世?過去じゃなくて?」
「過去?あの国はなかったって白い先生が言ってたじゃないか」
「でも、あなたもわたしもちゃんと記憶を持っている」
「それで充分さ、あの国が実存しようがしまいが。それよりここはもうだめだ、早く逃げよう」
確かにもう限界だった。一体全体唐澤も無茶をしてくれる。一番害がなさそうな顔をして、こんな暴挙に出るなんて。
「わかった、けれどあの二人は?」
「碓井先生と唐澤先生?あの二人なら大丈夫!」
「それって予知?」
「わかんない、たぶん!」
「たぶんって!」
息も絶え絶えに粕川が叫んだ。そこへ、地下を覆っていたグラウンドの地面が崩れ落ちてくる!
「ほらモタモタしてるから!」先生危ない!おもわず勇樹が身を挺して彼女を守ろうとしたその時!
「え、なにこれ?」
一番驚いていたのは当の本人だった。こんなの、漫画やアニメでしか見たことないけど!?
まさしく盾と言っていいような光の板が、迫りくる落下物から粕川を守っているではないか。
「これが〈王の盾〉?」
「そう、みたい」
「でも、なんで今更。最初からこんな技使えるんだったらそもそも捕まらなくて済んだじゃん!なんで先生俺の力も予知してくれなかったんだよ!」
「そんなこと言われたって、ロロみたいにそううまくはいかないわよ!」
そこまでやり合って彼女らは思いだした。
「そう言えば、ロロ婆さんはどこに行ったの!?」
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