探偵王ダーニット三世の推理録

鷲野ユキ

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探偵王は密室がお好き2

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「そうだ。死体の彼はお手洗いとかは大丈夫なのかい?」

「もう遅いですね」
 弱々しく響くのは、被害者シャンロックの情けない声。
「殺されてからずいぶん放置されましたから、ほらこの通り」彼は投げやりに笑った。「これならいっそ、本当に殺された方がマシだったかもね、ハハ」
 なるほど、どおりで部屋が臭うわけだ。ダーニット三世は申し訳なさげに〈遺体〉から視線をそらした。

「確かにこれは、社会的な死を招きますね……」
 メープルがごくりと唾を飲み込んで呟く。
「私が同じ目に遭ったとしたら、いっそさっさと国外に追放でもしてくれと願うかもしれません」
「マーダーゲーム法に、こういう場合どうするべきか取り込む必要があるかもしれんな」
「ほんと、そういうとこ、ちゃんと詰めてから施行してくださいよ」
 笑ってはいるものの、被害者の声には確かに憎しみが込められていた。憎しみで人を殺せたら、ダーニット三世の命はなかったかもしれない。

「もう、現場検証なんてどうでもいいから、早く私を国外追放してくれません?ハハ」
「それはいけません」
 被害者を憐みの目で見降ろして、けれどメープルは力強く言う。
「彼はこの国きっての名探偵。その彼を追い出すのはこの国の宝を失うということ。そんなこと絶対にさせませんわ」
「いや、被害者がもういいって言ってるんだからさあ、アハハ」
「駄目ですわ、ぜったいに犯人を捕まえて仇はうちますから!」

 被害者の心情など考えず、一人正義に燃えるメープル。その背後からふいに声が響いた。
「けれど、Nous僕らとしてはライバルを蹴落とすいいチャンスでもある」
 現れたのは、キザなセリフに服装の男。けれどそれが全くハマっていない、ちょび髭の小男だった。

「リキュール!」
 嫌悪感も顕に叫ぶメープル。「最悪!アンタいつからここに?」
 彼らは犬猿の仲なのか、あるいは同族嫌悪か。同じ母を持つとは言え、二人の仲はすこぶる悪い。特にリキュールがフランスかぶれになってから、その傾向が加速したようだった。けれど、メープルがリキュールを嫌うのは当然かもしれない。

「君がノコノコ来る前に、すでにMoiワタシはここにいたのさ」
  この、時折入るフランス語!全部自国語で話せるだろうにわざわざ外国語を交える鼻持ちならないこの感じ!MTGのアジェンダをコンセンサスしてリスケしろっ!
  メープルが内心荒ぶっていると、
「ふむ、リキュールもいたのか。他に探偵卿は来なかったのかね?」
   とダーニット三世が辺りを見回して言った。
「シャンロック君が被害者なんて、こんな面白い事件を放っておくなんて」

「来ましたわ。けれど皆物見遊山に来たみたいで、状況を見るや否や肩をすくめて帰ってしまって」
   どちらかと言うと悪臭に耐えかねて皆去っていったのだが、それを婉曲に彼女が伝えると、
Moi meme自分の力量が足りないってことに気づくだけ、メープルよりは賢いんじゃないのかな」
   といちいち小男が突っかかってくるので面倒で仕方がない。

「なによ、リキュールだってちっとも解けてなんかないくせに」
「しかし、この床の模様は一体何なんだ?」
「ふん、そっくりそのまま君に返すね。Moiにはもうすっかり解けてるんだから」
「嘘ばっかり!まだろくに状況も聞いてないのにどうやって推理を組み立てるって言うの」
「それは、Moiのこの類まれなるcerveau頭脳で」
「し・か・し、この床の模様は一体何なんだ?」

「なあに、またお得意の灰色の脳細胞?何それ、腐ってんじゃない?それともあんたの頭ん中にはコールタールでも詰まってるんじゃなくて?」
「ふん、暇さえあればtricot編み物ばかりしているヒマな君の方こそ、頭ん中は綿しか入ってないんじゃないのか?」
「し-かーし、こーの床の模様は」

「言ったわね?そういうあんたのちょび髭は気持ち悪いのよっ!」
「君のそのへんなお団子頭も充分おかしいね!それともそっちが本当のdirigerなのかな?」
「ええい、うるさい!だから、この床の模様は何かと聞いておる!」

 ついにダーニット三世の堪忍袋の緒が切れた。推理バカでありかつ国務が苦手なのがネックだが、彼は本来穏やかな人間なのである。その彼が思わず怒鳴ったところで、
「それなら、私から説明しましょう」
 まるでタイミングを計ったかのように、狭い部屋に声が響いた。事実、彼は機を狙っていた。彼とてこの国の住人である以上、推理するにも事件時のことを語る人間が必要なのは知っている。だから万全のタイミングを狙っていたのだが。

 それがまあ、探偵たちのしゃしゃり出てくることと言ったら!自己主張が強いのが探偵の必須条件なのか?こいつらはいつも自分のことばかりだ!だとしたら、私は探偵になどなりたくもない。これだから探偵は!

「私はこの研究所の管理人のカーガックと申します」
 内心探偵どもに罵詈雑言を吐きながら彼は名乗った。細身の体に糊のきいた白衣。細い瞳を神経質そうにきょろきょろと動かしながら、ここぞとばかりに説明を始めるカーガック。またピーチクパーチクされたらたまらない。それが彼の本心だった。

「シャンロック殿が、事件解決のために科学技術を取り入れようとされていたのをご存じですか?」
「ああ、確か犯人の足跡や、靴についていた砂からどこの人間かを当てるとか、そういう研究をしているのだったな」

 さすがは探偵王とでもいうべきか。諸外国に探偵を派遣して外貨を得ているだけあって、彼はこの国の探偵にとても詳しかった。あまり功を上げすぎると、そのプライベートまで探られると探偵卿らが怯えるほどに。

「ええ、その通り。これからの時代は科学です。推理だけではただの机上の空論。(そこで彼は一度本だらけの机と、こまごまと模様の書かれた床の両方に目をやると)いえ、床上の空論。証拠を集め、科学的に分析してこそ正確な犯人逮捕につながるとシャンロック殿は日々申しておりました。よって彼にはこの研究所の名誉所長の任に就いていただいているのです。具体的には、資金援助を少々していただいておりまして」

「ふむ、科学的にねえ」
 少しつまらなさそうにダーニット三世は口をとがらせると、
「すぐに犯人が分かったら、つまらないじゃないか」と呟いた。
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