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探偵王は密室がお好き3
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「犯人逮捕に面白さがいるもんですか」
一見して穏やかそうなカーガックだが、こういう人間ほどスイッチが入ると怖いというのはこの世の常。彼も多分に漏れず国王の言葉を聞きとがめると、目を吊り上げ眉間に血管を浮き立てて、全くの別人と言っていいほどの鬼の形相でまくし立てた。
「まったくこの国の探偵たちときたら!犯罪をオモチャか何かと思っている。なんですか、マーダーゲーム法だなんて馬鹿げた法律。殺人をゲームに見立てるなんて空恐ろしいことを。大体ねえ、語呂が悪いんですよ、語呂が。伸ばし棒が全部の文字の間に入ってるんですよ?言いづらいったらありゃしない」
「……すまなかったね、変な法律を制定して」
「ほんと、こんなの作ったやつこそ殺してやりたい。あのトンデモ国王!一体なんだってあんなのが……」
そこでふと我にでも返ったのか、カーガックは目の前のダーニット三世をまじまじと見つめると、
「はて、あなた様はどなたでしたっけ?」と首を傾げた。
こともあろうに、自国の国王を覚えていない人間がいるとは!ここに法務大臣がいたらそう叫んでいたかもしれない。だがこの状況は、むしろダーニット三世にとってありがたいことだった。
私が国王だと知ったら、この男はどうするのだろう!
「私は、その。そう、法務大臣のモノクールです」
冷や汗を垂らしながら、真っ赤な嘘をつく国王。
「まさか多忙な国王が、事件現場に遊びに、いえ調査しに来るはずがないでしょう」
その言葉を疑いもせずに、
「それもそうですね。法務大臣殿もあの推理バカに振り回されて大変でしょう。あの国王め、命拾いをしましたな」
と再びカーガックは平静さをとりもどした。
「とまあ、こういう国ですから、科学に対する関心が低い者もいるのも事実。なので、まずは興味を持っていただくことから始めなければなりませんで」
そこでカーガックはふと視線を小男に向けると、「ああ、そういえばあなたも今日の講演にいらしてましたよね?」とずい、と詰め寄った。
「ええええ、落ち着きなくうろうろされてましたからね、嫌でも目について。で、いかがでしたか?科学捜査についてのご理解、深めていただけましたかな?」
人を詰めるのは得意だが、詰められるのには慣れていないリキュール。彼お得意のフランスかぶれも取り繕うのを忘れ、
「ええと、そうですね。あの。そうです、ほんともう、すごいと思いました。あの、ほんと。すごくて」
としどろもどろに返すばかり。このリキュールの中身のない感想に、再びカーガックの額に血管が浮かび上がる。小男の足を目いっぱいに踏みつけるとメープルは、
「私は参加できなくて非常に残念でしたわ。それで、どのような講演でしたの?」
「おお、興味がございますか?そうしますと無料の講演会もいいですが、一口10シリングからのお気持ちを頂いて『科学の友』にご入会いただければ年四回発行している学術誌の送付、さらに1ポンドいただいた方には毒薬の味見体験などのイベント参加も案内しておりまして」
「いえ、あの、とりあえず事件があった日の講演がどんなだったか知りたいわ」
どうやらこの男、見た目より短気なうえに、どうにも話が飛びがちのようだった。そもそも聞きたかったのは魔法円についてだと言うのに、いつの間にか勧誘のセールストークが始まっている。いや、むしろ抜け目がないとでも言うべきか。
けれど探偵卿らはすばやく目配せしあうと、大人しく彼を喋らせることにした。というより途中で話の腰を折れば、またどこに着地してしまうかわからなかったからだ。
それに不必要にまた怒らせて、目の前にいるのがそのトンデモ国王だと気づいたら本当の事件が起こってしまうかもしれない。今度は絵具でなくて、本当の血が流れる可能性がある。
彼らの動揺になどちっとも気づかず、カーガックは続けた。
「ええ、そうですか。ケチな方ですね。いえ、失敬、なんでもありませんよ。講演ね、ええ。はいはい。シャンロック殿は血と血によく似た物質、それこそ赤い絵具のようなものとを見分ける方法を説明しておりました。ヘモグロビン以外では沈殿しない試薬を探しているとのことで」
「血とそれ以外ね、なるほど興味深いですわ」
こいつを怒らせてせてはならない。変な緊張感からメープルはへらへらと笑みを浮かべ、その先を促した。
「それで、講演会というのは、全体的にどのような流れでしたの?その、次回参加の目安にしたくって」
「講演会の概要ですね。わかりました。次回はぜひ最低でも10シリングをお持ちになってご参加くださいよ。ええと、講演が始まったのが11時。今回はとにかく多くの方に興味を持っていらだけるよう、どなたでもご参加いただける無料講演となっておりました。無料とあって、まあいろんな方が来てくださいましたよ。え?事前予約が必要か?そんなものはいりません。とにかく敷居を低くして、まずは興味を持っていただくのが最優先ですからね。
え、場所ですか?この研究室の先に広い講堂があるでしょう?この渡り廊下を進んで……え、よくわからない?そんなの見りゃわかるでしょう?は、図に書いて寄越せって?ああもうわかりましたよ、あとで建物の図面をお渡しします(図1参照)。こんなの、誰が見るのか……。
で、続けますよ。なんだっけ。あのタヌキ国王めが……そうじゃない?ああ、そうでした。ヘモグロビンは……ん?その時のシャンロック殿の行動を聞きたい?ええと、確か」
一見して穏やかそうなカーガックだが、こういう人間ほどスイッチが入ると怖いというのはこの世の常。彼も多分に漏れず国王の言葉を聞きとがめると、目を吊り上げ眉間に血管を浮き立てて、全くの別人と言っていいほどの鬼の形相でまくし立てた。
「まったくこの国の探偵たちときたら!犯罪をオモチャか何かと思っている。なんですか、マーダーゲーム法だなんて馬鹿げた法律。殺人をゲームに見立てるなんて空恐ろしいことを。大体ねえ、語呂が悪いんですよ、語呂が。伸ばし棒が全部の文字の間に入ってるんですよ?言いづらいったらありゃしない」
「……すまなかったね、変な法律を制定して」
「ほんと、こんなの作ったやつこそ殺してやりたい。あのトンデモ国王!一体なんだってあんなのが……」
そこでふと我にでも返ったのか、カーガックは目の前のダーニット三世をまじまじと見つめると、
「はて、あなた様はどなたでしたっけ?」と首を傾げた。
こともあろうに、自国の国王を覚えていない人間がいるとは!ここに法務大臣がいたらそう叫んでいたかもしれない。だがこの状況は、むしろダーニット三世にとってありがたいことだった。
私が国王だと知ったら、この男はどうするのだろう!
「私は、その。そう、法務大臣のモノクールです」
冷や汗を垂らしながら、真っ赤な嘘をつく国王。
「まさか多忙な国王が、事件現場に遊びに、いえ調査しに来るはずがないでしょう」
その言葉を疑いもせずに、
「それもそうですね。法務大臣殿もあの推理バカに振り回されて大変でしょう。あの国王め、命拾いをしましたな」
と再びカーガックは平静さをとりもどした。
「とまあ、こういう国ですから、科学に対する関心が低い者もいるのも事実。なので、まずは興味を持っていただくことから始めなければなりませんで」
そこでカーガックはふと視線を小男に向けると、「ああ、そういえばあなたも今日の講演にいらしてましたよね?」とずい、と詰め寄った。
「ええええ、落ち着きなくうろうろされてましたからね、嫌でも目について。で、いかがでしたか?科学捜査についてのご理解、深めていただけましたかな?」
人を詰めるのは得意だが、詰められるのには慣れていないリキュール。彼お得意のフランスかぶれも取り繕うのを忘れ、
「ええと、そうですね。あの。そうです、ほんともう、すごいと思いました。あの、ほんと。すごくて」
としどろもどろに返すばかり。このリキュールの中身のない感想に、再びカーガックの額に血管が浮かび上がる。小男の足を目いっぱいに踏みつけるとメープルは、
「私は参加できなくて非常に残念でしたわ。それで、どのような講演でしたの?」
「おお、興味がございますか?そうしますと無料の講演会もいいですが、一口10シリングからのお気持ちを頂いて『科学の友』にご入会いただければ年四回発行している学術誌の送付、さらに1ポンドいただいた方には毒薬の味見体験などのイベント参加も案内しておりまして」
「いえ、あの、とりあえず事件があった日の講演がどんなだったか知りたいわ」
どうやらこの男、見た目より短気なうえに、どうにも話が飛びがちのようだった。そもそも聞きたかったのは魔法円についてだと言うのに、いつの間にか勧誘のセールストークが始まっている。いや、むしろ抜け目がないとでも言うべきか。
けれど探偵卿らはすばやく目配せしあうと、大人しく彼を喋らせることにした。というより途中で話の腰を折れば、またどこに着地してしまうかわからなかったからだ。
それに不必要にまた怒らせて、目の前にいるのがそのトンデモ国王だと気づいたら本当の事件が起こってしまうかもしれない。今度は絵具でなくて、本当の血が流れる可能性がある。
彼らの動揺になどちっとも気づかず、カーガックは続けた。
「ええ、そうですか。ケチな方ですね。いえ、失敬、なんでもありませんよ。講演ね、ええ。はいはい。シャンロック殿は血と血によく似た物質、それこそ赤い絵具のようなものとを見分ける方法を説明しておりました。ヘモグロビン以外では沈殿しない試薬を探しているとのことで」
「血とそれ以外ね、なるほど興味深いですわ」
こいつを怒らせてせてはならない。変な緊張感からメープルはへらへらと笑みを浮かべ、その先を促した。
「それで、講演会というのは、全体的にどのような流れでしたの?その、次回参加の目安にしたくって」
「講演会の概要ですね。わかりました。次回はぜひ最低でも10シリングをお持ちになってご参加くださいよ。ええと、講演が始まったのが11時。今回はとにかく多くの方に興味を持っていらだけるよう、どなたでもご参加いただける無料講演となっておりました。無料とあって、まあいろんな方が来てくださいましたよ。え?事前予約が必要か?そんなものはいりません。とにかく敷居を低くして、まずは興味を持っていただくのが最優先ですからね。
え、場所ですか?この研究室の先に広い講堂があるでしょう?この渡り廊下を進んで……え、よくわからない?そんなの見りゃわかるでしょう?は、図に書いて寄越せって?ああもうわかりましたよ、あとで建物の図面をお渡しします(図1参照)。こんなの、誰が見るのか……。
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